第87話 器の系譜
静寂が、地下施設の空間を満たしていた。
ホログラムに映る過去の記録映像が、止め処なく流れている。
そのひとつひとつが、夜刃財閥の裏側を、容赦なく暴いていた。
実験体の番号。死霊適合率。人格崩壊の確率。
その全てが、冷酷な「研究成果」として整理されている。
「……これは、まるで」
美月が呟いた。
「人を“器”として造っているみたい」
アサクラ・エンジは、表情を変えずに言葉を継いだ。
「事実、その通りだ。夜刃財閥がこの施設で行っていたのは、“異能保持構造体”の開発――
すなわち、“人間という媒体に、特異点を適合させる”という実験だ」
「異能保持構造体……」
優が低く繰り返す。
「君もまた、その系列に近い存在だ、天城優。君の“死霊適性”は、後天的な才能ではない。
先天的に、“そうなるよう設計されていた”可能性がある」
「……何を、言っている」
クロノスの電子声が、わずかに乱れる。
「優の存在進化は、観測上でも特異だった。だが、その発端が“意図された結果”なら……」
「俺は、ただ……」
言葉を失う優に、美月がそっと寄り添う。
「でも、それって……優が自分で選んできたこととは、違うんじゃない?」
「たとえ“器”だったとしても、あんたは人間だ。選び方がちょっと変わってただけだろ」
隼人の言葉に、アサクラがかすかに笑う。
「そうだな。事実と価値は別だ。
ただし――“器”である以上、君にはいずれ限界が来る。
“何を載せるか”によって、その器は壊れるかもしれない」
優は静かに問うた。
「その“何か”とは……?」
アサクラはスクリーンを操作し、新たな映像を映し出した。
画面には、一人の少女の姿。背中に黒い羽根のような霊力結晶を宿し、静かに横たわっている。
「これは……?」
「彼女は、失敗例でもあり、最大の適合者でもあった。
名は……《アリシア》」
美月が息を呑む。
「知ってるの?」
「……わからない。でも、何かが引っかかる」
アリシア――それがこの“器の系譜”におけるもう一つの核心となる。
「彼女はまだ、生きている。封印され、別の施設に眠ったままだ。
そして彼女の覚醒が、“次の段階”を呼び込むだろう」
優は、胸の奥がざわめくのを感じていた。
自分は、誰かに創られたのか。
その答えを探すためにも、先に進むしかない。




