第83話 裏で動く者たち
――某所、旧都圏地下研究区画。
巨大な制御パネルの前に立つひとりの男。
白衣ではなく、漆黒のコートに身を包み、科学者とも軍人ともつかぬ威容をまとっていた。
「天城優……予測を超えた“存在”になってきたな」
男の名は橘隼斗。橘重工幹部にして、組織の中でも異端とされる人物。
彼は端末を操作し、戦闘データを呼び出す。
夜刃財閥の副管理者・イェルネスが破壊された際の映像。
霊力波形、存在干渉指数、死霊との共鳴――すべてが異常値を記録していた。
「ネクロ・コンダクター……。やがて、“本流”に干渉する」
背後の扉が開き、もう一人の人物が現れる。
その声は中性的で冷ややか。灰色のコートをまとった観測技術者――コードネーム《クレイ》。
「警告。天城優の進化は、既存管理構造において“例外”扱いとされるべきです」
「そのとおりだ。だが例外は、時に“鍵”にもなりうる」
「抑制ではなく、誘導を?」
橘隼斗は微笑を浮かべた。
「“器”がどう動くかを見る。それが、我々に課せられた仕事だ」
***
一方、街の北区。
すでに廃棄された旧軍用研究施設の最奥で、機械の音が鳴る。
「観測データ、収集完了。対象:天城優。特異存在」
無機質な声が流れ、格納されていた大型カプセルが音を立てて開き始める。
中から姿を現したのは、白銀の髪と琥珀の瞳を持つ青年。
年齢不詳、性別も曖昧な雰囲気。
だがその瞳には、明確な知性と……異質な“静けさ”が宿っていた。
「コードネーム:カナタ。観測者ユニット、起動」
“第四の勢力”――それは政府にも財閥にも属さない、独立観測機関。
目的はただひとつ、“世界の変化”を記録すること。
「天城優……あなたが、“変化の核”であるならば。
私は、その軌跡を記録し、必要があれば介入する」
***
夜の街を眺めながら、アカツキはフードを揺らして笑った。
「カナタも動いたか。となれば、そろそろ真っ黒な連中も顔を出すだろうさ」
「優、おまえは……この世界のどこへ向かう?」
彼はそう呟きながら、静かに夜の中へと姿を消した。




