第80話 次なる標的(ターゲット)
――夜刃財閥本部、地下第七管制室。
空間そのものが軋むような重圧の中、管理中枢に鎮座する一体の存在が目を覚ました。
それは“人間の形”をしていたが、瞳の奥に宿るのは明らかにそれとは異なる意思。
「……イェルネス、喪失」
無機質な声が、空間に響く。
「予測逸脱率……許容範囲を超過。要因……“存在進化”」
その言葉に反応するように、壁面の光子パネルに幾重もの映像が浮かび上がる。
中心には、戦闘中の天城優の姿。そして、その死霊たち。
「“天城優”──起点となる異常存在。
排除命令、レベル6よりレベル9へ移行」
静かに、しかし確実に、“世界”が動き出していた。
***
一方、街の一角。
優たちは、クロノスが収集した“管理者の記録”の解析を終えつつあった。
「……この断片、夜刃財閥の上層に存在する“管理者”の構造情報と一致。
さらに──他の財閥にも同様の“型”が存在する可能性が高い」
クロノスの報告に、優は眉をひそめた。
「つまり……夜刃だけじゃない。他の財閥も、“管理者”を持っている」
「少なくとも、三体以上確認されている。コードネームは《スリー》、《ファイブ》、そして……《イグジスト》」
「イグジスト……?」
「現時点で最上位に位置する存在と推定される」
隼人が口を開いた。
「……《イグジスト》って名前、どこかで聞いたことある。橘重工の一部で流れてた極秘コードだ。たしか、“存在しないもの”という意味の……」
「橘重工……か」
優が目を伏せる。
謎の多い財閥。だが、最近の動きには明らかに裏がある。
「夜刃と橘。次に狙われるとしたら──どっちだ?」
「どっちでもない可能性もある」
美月が静かに言った。
「わたし、さっきからずっと気になってた。
この感じ……何かが、近づいてきてる」
その言葉に、優と隼人の視線が鋭くなる。
「……マーカーに反応は?」
「ない。でも“気配”は確かにある。こっちを──観察してる感じ」
その瞬間、空気が変わった。
重力が歪み、空間が凍りつくような圧が迫る。
「くるか──!」
優が身構える。
次なる“刺客”は、既にこちらを見据えていた。




