第78話 存在進化の果てに
「──排除……対象、全出力にて……殲滅……」
崩壊と再生を繰り返すように、イェルネスの身体が変容する。
六枚の刃は融合し、背中に浮かぶ“光輪”のような構造体へと姿を変えていた。
「完全に“本能”で動いてるな……もう、言葉も通じない」
隼人が剣を構えながら、かすかに息を吐く。
死霊となった彼の肉体は冷たいが、その眼差しには炎のような闘志があった。
「おまえは、妹を傷つけた。絶対に──許さない」
淡々とした声で、優が一歩前に出る。
その背後に、死霊たちが静かに立つ。
ザグエル=ドラウスは大気を震わせるように咆哮し、
クロノスは無言のまま、手のひらに圧縮されたエネルギーを生み出していた。
かつての敵。今は、力を預ける仲間。
「行くぞ」
優の右手が、光に包まれた。
「《統合陣式・第二階梯》──開示」
死霊の霊力が、優の内部に逆流するように融合していく。
身体の輪郭が揺らぎ、存在そのものが一段階、昇華していく感覚。
──死霊統合者の枠を超える進化。
「“存在干渉適正値”上昇。霊格、再定義中──」
死霊であるクロノスが、感応して呟いた。
「おまえ……もう、人間じゃないな」
優の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
「かもな。でも、それでも。今はまだ“人”でありたい」
その瞬間、全死霊が同時に咆哮した。
優の意志がすべての死霊に浸透し、彼らの能力が再構成される。
隼人の剣が紅く燃え上がり、
クロノスの腕が再構築され、光学刃と化す。
ザグエルの体表が一層黒く染まり、“深層霊気”を纏う。
「──撃て!」
優の声と同時に、すべての死霊が一点に集束する。
イェルネスの中心核めがけて放たれたのは、死霊と人との“総意”。
その破壊の奔流に、光輪のような装甲が砕ける音が響いた。
「っ……!? コア──崩壊、開始……」
イェルネスの瞳から、光が失われていく。
優は静かに歩を進めながら、最後の一撃のために、右腕を構えた。
「これで終わりだ」
《終焉断》──死霊統合者が到達した最終技。
死を統べる者の権限によって、存在そのものを断つ一閃。
斬撃が走る。
閃光が、夜を裂いた。
沈黙。
そして、空気が静かになった。
イェルネスは──崩れ落ちた。
「……終わったのか?」
美月が呟いた。
「いや。まだ“戦い”は終わっていない。だが──一つの区切りは、確かにここにある」
優の声は静かだったが、どこか力強くもあった。
その足元には、死した副管理者の残骸と、
それでもなお静かに揺れる“霊脈”の波があった。




