第73話 副管理者イェルネス、応答せよ
管理塔の最奥。
霊脈のすべてを束ねる球体の中枢核を目前に、優たちは一瞬の静寂に包まれていた。
だが──それは嵐の前触れだった。
「副位階意志体〈イェルネス〉、展開完了」
声とともに現れたのは、一体の“ヒト型”。
銀白の外殻に包まれた長身。
その瞳は、青白く冷たい光を宿していた。
「初めまして。私は副管理者イェルネス。
本来は交渉用意志体ですが、管理中枢の命により、対話プロトコルを破棄しました」
「つまり、力ずくってことか」
優が一歩前に出ると、イェルネスの右腕が変形し、鋭く尖った槍へと変貌した。
「排除開始」
次の瞬間、視界が歪んだ。
イェルネスの重力干渉に空間がねじれ、塔内が一気に不利な戦場と化す。
「この空間……完全に支配されてる!」
美月が即座に魔力を練り上げると、足元に浮遊する魔術盤が広がった。
「三式展開・共鳴刻印!」
足場の魔力が固定され、揺れる塔内でも動ける領域が生まれる。
「魔力の流れを逆算して、逆位相で“足場”を作った……!?」
優が驚いたように呟く。
「当たり前でしょ。私はギルド公認の神託者、それも“実戦型”──」
美月は軽く跳ねるようにして、重力の乱れた宙に舞う。
「正式ランクはB。でも本当は、それ以上って噂されてるくらいなんだから」
彼女の瞳が、空間の魔力の流れを正確に読み取っていた。
“魔力視”。神託者の中でも、選ばれた者にしか備わらない、霊的構造の視覚化能力だ。
さらに、複雑な魔術式を三重に重ねる“多重展開”──
美月は、魔力干渉・霊脈共鳴においては国内でも指折りの適性を持つ者だった。
「今の空間には、霊脈がむき出しになってる……なら、こっちも強引に“侵食”する!」
彼女が指を鳴らすと、空中に魔力が渦巻くような“渦”が発生する。
「っ……空間制御を……?」
イェルネスの視線がわずかに揺れた。
「霊脈への逆流信号、展開完了──。さあ、もう好きにさせないわよ」
その瞬間、塔内の重力が一瞬だけ“戻った”。
美月が突進する。その短剣は魔力を削り出すように振るわれ、空間を裂いた。
「副管理者。攻撃対象を変更──!」
イェルネスが迎撃体勢をとるも、そこに──
「そこだ!」
影から現れた優が、斬撃を振るう。
クロノスの剣、ザグエルの咆哮が連なる。
3人と1体。
それでも、イェルネスは冷静だった。
「副位階領域、再接続──次段階へ移行」
銀白の身体が、音もなく分解されていく。
「再構成完了。副管理者、戦闘形態へ移行」
光とともに、真の姿が顕現する。
「っち……ここからが本番か」
優は構え直した。




