第70話 管理者の声
塔の前に立った瞬間、空気が変わった。
──“侵入者、確認”
鼓膜を震わすこともない声が、脳髄の奥に響いた。
それは音ではない。直接、意識に刷り込まれる“思念”。
「……きたか」
優が小さく呟く。
塔の門が、軋むような音を立てて開く。
内部は闇に包まれながらも、かすかに光る紋章のような回路が床を走っていた。
「都市そのものが意志を持ち……この塔は、心臓。
ここが“管理者”の中枢──間違いない」
隼人が警戒するように足を止めた。
「罠の匂いがする。だが……行くしかないか」
「うん。ここを越えないと、先には進めない」
美月も決意を込めて頷いた。
三人と一体の竜は、静かに塔の中へと足を踏み入れる。
──“ようこそ、我が中枢へ”
空間そのものが語りかけてくるような異様さ。
「君たちが“外部干渉体”。死霊使い、そして……死者の魂を取り込んだ異端」
「名乗るつもりはない。だが……お前が“人間ではない”ことだけは、わかる」
「正しい」
塔の奥に現れたのは──人の形を模した、灰色の像。
瞳はなく、口元だけが動き、声が直接思念として流れ込んでくる。
「我は“管理者”。この街を治める“意志”。
人間によって作られたのではない。“世界”によって生成された存在」
「……やはり」
優は静かに頷いた。
「この世界の“創造主”が作った存在──人類を制御し、維持するためのシステムか」
「その理解も正しい。君は進化している。
“死霊使い”から、次なる段階へ──“魂の構築者”として」
「名付けてくれてありがとう。だが、その力で……お前を超える」
ザグエルが前に出た瞬間、管理者像がゆっくりと腕を上げる。
「ならば、確認する。“君の存在位階”を」
次の瞬間、塔そのものが震えた。
天井が崩れ、壁が裂け、床が蠢き──
都市の一部が“実体化”して、巨大な機構生命体となって降りてくる。
「管理者の一部か……!」
「否、“身体”の一部。これは我が“左腕”」
鉄の骨格、雷の魔力、そして無数の顔。
一つの“都市の一部”が、今、敵として現れた。
「来るぞ、優!」
「……望むところだ」
優の目が静かに光る。
──戦いが、始まった。




