第68話 霧の街に潜む影
「潜入ルートは、廃工場跡からだ」
優の指示に、隼人と美月がうなずいた。
夜刀財閥の本拠地とされる“北の街”は、表向きには工業都市。
だが、その実態は管理者による都市統制型実験区──
霊的制御と人体実験を融合した、異形の実験場だった。
「市民の姿も見えるけど……なんかおかしい」
「感情が……薄い」
街路を歩く人々の顔には、どこか“無”の色があった。
笑い声も、怒鳴り声もない。必要最低限の動作だけが繰り返される。
「魂の干渉を受けてるな」
優の視線が遠くの塔へ向く。
その頂に──禍々しい意識のような霊圧が漂っていた。
「この街は、管理者が“都市そのもの”として構築した制御区域。
人間を“部品”として扱っている」
「……ひどい話だな」
隼人の呟きに、優は頷く。
「だが、ここに俺たちの“目的”がある。
夜刀財閥が行ってきた実験のすべて……創造主の器に繋がる情報が、必ずある」
美月は黙って頷いた。兄の死──その意味を、彼女はもう飲み込んでいた。
「……この先に待つものが、どれほど歪んでいても、立ち止まらない」
その決意の眼差しに、隼人も口元を引き締める。
「俺も、背中を守る。死霊だろうが、兄貴は兄貴だ」
「頼もしいな。……じゃあ、行こう」
優が影に触れた瞬間、周囲の空間が揺れた。
「ッ、反応が来た!」
街の一角、廃工場の瓦礫から──異形の人影が現れる。
「迎撃個体……実験体か」
目のない顔、裂けた口、歪に増幅された四肢。
人の名残を留めたまま、破壊を命じられた存在。
「……あの目、以前の街でも見た。実験で“作られた”奴だ」
「こっちの気配に反応してきたんだろう。試すつもりか」
優が指先を鳴らす。
「出ろ、ザグエル」
闇を裂いて、漆黒の竜影が現れる。
「吠えろ──ザグエル=ドラウス!」
咆哮とともに、実験体が吹き飛ぶ。
だが──
「複数体、同時反応。……包囲されてる!」
美月が声を上げた瞬間、左右の通路から次々と“それ”が現れる。
「……歓迎が派手だな。こっちも応じるか」
優の影が広がる。
そして、始まる──都市そのものとの死闘。




