第67話 北の街へ
「……ここが、“北の街”か」
優が足を止めた先に広がるのは、重苦しい霧に包まれた都市だった。
巨大な工場群と、高層ビルの影がいびつなシルエットを描く。
どこか、都市というより“砦”のような異質さがあった。
夜刀財閥──五大財閥の一角にして、かつて高瀬隼人を実験体候補として狙い、
今なお都市の影で異形を量産し続けている巨大組織。
そして、今回の敵。
「空気が……重い」
美月が顔をしかめる。
街を包む霧には、ただの湿気ではない“何か”が混じっていた。
「霊圧に近いけど、もっと……濁ってる感じ」
「たぶん、“生きてる”都市なんだ」
優が答える。
彼の背後に、影のように立つ隼人の姿──死霊となってなお、意思は明確だった。
「財閥の中枢がこの街を生かしている。“監視”じゃない。全体を制御してる」
「……つまり、ここが“管理者”のテリトリーってことだね」
「そういうことだ」
優は目を閉じ、地を踏みしめる。
次に対峙するのは、夜刀財閥の“トップ”──
そして、この街そのものを掌握する存在、管理者。
「油断はできない。でも、俺たちは──すでにその領域に踏み込んでる」
彼の言葉に、ザグエル=ドラウスが低く唸るようにうなずく。
フォレストドラゴンとハルパスの融合体として生まれ、
今や霊力を纏う竜王のごとき存在。
さらにその隣には、仮面のない隼人。
「……不思議なもんだな。こうして、自分が影の一部になるとは思ってなかった」
「今の君は、俺の力の一部じゃない。俺の“意志”に応えてくれる存在だ」
「……なるほど。なら、しっかり働かせてもらうさ。妹を守るためにもな」
優はうなずき、再び前を向いた。
夜刀財閥──この街の支配者であり、人体実験を推し進める“歪んだ正義”。
だがそれ以上に、背後にうごめくさらなる存在の気配──
橘重工の意図。そして、そのさらに上にあるもの。
「行こう。答えは、この街の中にある」
優の一言で、影が動く。
彼らの“次の戦い”が、始まろうとしていた。




