第65話 遺された想い
「兄さん……っ……うそ、でしょ……?」
崩れ落ちた美月が、灰の中に手を伸ばす。
そこには、もう温もりはなかった。
ただ静かに、残滓だけが空に消えていく。
「どうして……どうして守って……!」
肩を震わせる美月を、優は黙って見つめていた。
その手のひらに、ひとつの“核”が宿っている。
死霊核──仮面の男の魂の欠片。
戦いの終わりと同時に、彼の魂が霊力として形をなしたのだ。
「……美月」
優が、静かに口を開く。
「君の兄さん……最後まで、君のことだけを想ってた。魂がそれを語ってる」
「……魂?」
美月が顔を上げると、優の背後に──
ふわりと影が揺れ、そこに一人の男の姿が現れる。
仮面のない、素顔の兄。
死霊としての姿となって、そこに“在った”。
「──兄さん……っ!」
「……よう。やっと、ちゃんと顔を見せられたな」
その声は、もう機械のような冷たさはなかった。
死霊でありながら、そこには人間らしい意志が宿っていた。
「ごめんな、美月。ちゃんと、守りたかった。もっと一緒に……生きたかった」
「やだ……そんな言い方しないでよ。だって……!」
「もう、俺は人間じゃない。でもな──」
男が、優の方へ視線を向ける。
「コイツの中で、生きることを選んだ」
「……!」
「おまえの傍にはいられない。でも、これからも……影の中から見てるよ。ずっとな」
その言葉に、美月の瞳があふれる。
「……ずるいよ、兄さん。……ずるいよ……!」
泣きながら、美月はその影を抱きしめようとする。
だが──
彼女の腕は、影を通り抜けるだけだった。
それでも、美月は強く、強くそのまま腕を閉じた。
「……ありがとう。兄さん」
風が吹いた。
優がそっと、美月の肩に手を置く。
「彼は、これからは俺と一緒に動く。でも、君を守る気持ちは……何も変わらない」
「……うん。わかってる」
そう言って、美月は涙を拭った。
その横顔は、少しだけ強くなっていた。




