第64話 存在を超えて
「死者の意志を、無意味とは言わせない」
優が一歩踏み出すごとに、空間が軋む。
彼の内から滲み出す力──それは、もはや“死霊使い”の領域を超えていた。
「進化値、限界突破。存在階層が……変動……?」
管理者の演算に、乱れが生じる。
優の存在は“上書き”されつつある。あらゆる制限を超えて。
「クロノス、準備は?」
「完了している」
死霊と化したクロノスが、かつての冷酷な光を宿しながらも、淡々と応じた。
その存在は、かつての命令機械ではない。“意志を持つ武器”へと昇華していた。
「ザグエル、行け」
「応ッ!」
咆哮とともに、ザグエル=ドラウスが突進。
影をまとった巨体が、神性の光をものともせず突き進む。
管理者が応答する。
「神性再構成──開始。全次元干渉──許可」
空間が反転し、幾何学的構造が再形成される。
しかし──
「もう、通じないよ」
優の指先が、光を裂く。
彼の新たな力──《魂樹転輪》
死霊たちの魂を霊力に変換し、別の死霊に与える能力。
いま、クロノスに注ぎ込まれたその力が、戦況を覆す。
「最大出力──撃ち抜く!」
クロノスの右腕が変形し、漆黒の砲身が露出した。
「射出──」
「今だ!」
優の指示と同時に、砲撃が放たれる。
それは死霊の怒りと意思、すべてを込めた一撃。
「システム、崩壊──不可能……!」
管理者の構造体が崩れ、神性が砕けていく。
「おまえはこの世界を、データで管理しようとした。でもな──」
優の目が輝く。
「“生きる”ってのは、もっと不確かで、だからこそ強いんだ」
最後の一撃を、ザグエルが叩き込む。
咆哮とともに、管理者の存在が──散った。
静寂。
風が吹き抜け、壊れた空間が再構築されていく。
優は静かに、管理者の残滓を見つめていた。
「終わったな……」
だがその背に──誰よりも強い、悲しみの気配があった。




