第63話 命と引き換えにて
「──っ!」
世界が、光に呑まれる。
管理者が解き放った神性放射は、空間ごと存在を“上書き”しようとする。
抗えない拒絶。理そのものによる“消去”の力。
「美月ッ!」
その光に向かって、仮面の男が身を投げ出した。
──瞬間。
閃光が彼を貫いた。
「ッあああああああっ!!」
肉体が焼かれ、骨が軋み、魂が削られていく。
それでも、彼は一歩も退かず、美月の前に立ちふさがり続けた。
「やめて! 下がって……下がってよ!!」
美月の叫びに、彼は微かに──笑った。
「……妹を……守らなきゃな」
「……え?」
「やっと……言えたな。美月」
美月の瞳が、揺れる。
その名を呼んだ声。その語り口。その背中。その優しさ。
──ずっと、感じていた。
でも信じられなかった。“死んだはず”の兄が、目の前にいるなんて。
「兄さん……なの?」
「……ああ」
その言葉とともに、彼の仮面が外れる。
現れたのは──かつて美月が愛し、喪った“兄”その人だった。
「どうして……どうして、生きて……」
「生きてたんじゃない。生かされてた。……逃げただけだ。全部を……おまえからも」
「そんなの、嘘だ。……だって、いつも……守ってくれた!」
「……気づいてたか」
兄の声が、優しく震える。
だが──その身体は、限界だった。
神性放射に焼かれ、命の灯火はもはや、風前の残り火。
「ごめんな……言えなくて。でも……おまえが無事で……よかった」
「兄さん……っ!」
美月の手が伸びる。
だが、兄の身体は、静かに崩れ──
──そして、消えた。
「……ッ、いやだ……やだ……!」
その場に崩れ落ちる美月。
だが、その背に、優の手がそっと置かれる。
「想いは、消えない」
その言葉とともに、彼の目に怒りが灯る。
「……次は、おまえの番だ」
管理者に向けて、優が歩を進める。
その背には、死霊となった男の気配が、確かに宿っていた。




