第60話 対抗する意志
──空間が、割れた。
それは比喩ではない。
目に映る世界そのものが、“別の層”へと引き裂かれたのだ。
「美月ッ!」
仮面の男が咄嗟に手を伸ばす。が、その指先は届かない。
空間の境界に、見えない膜が張られたように、触れることさえできない。
「分断か……!」
優が唸る。管理者が作り出したのは、次元分割領域。
各個撃破を狙い、死霊たちを分断する戦術──それだけで、こちらの陣形は崩れる。
「ちっ……!」
クロノスが影の中から現れ、ザグエルの背に飛び乗る。
「上から突破するぞ、主よ!」
「ああ、行け!」
優が力を込めると、影が奔流のごとく広がった。
ザグエルの脚が黒く染まり、空間そのものを踏み抜くように上昇する。
だが、そこに管理者の声が届いた。
「跳躍、無効化。重力座標、書き換え完了」
ザグエルが重力に引き戻され、地に叩きつけられた。
「くそ……厄介な……!」
そのとき、美月の悲鳴が響いた。
分断された向こうの空間。
彼女と仮面の男だけが、管理者の亜種兵器──小型の空間管理端末に囲まれていた。
「──やらせない!」
優の目に宿る光が強くなる。
「クロノス!」
「応ッ!」
影が渦を巻き、空間の断層にナイフのように突き立てられた。
──そして。
空間の膜が、一瞬だけ揺らいだ。
「今だッ!!」
クロノスとザグエルが同時に駆ける。
そして、彼らの足元に影が集まり──
「“影渡り”──!」
優の新たな力が発動する。
影を通じ、瞬間的に空間断層を突破。
次の瞬間、仮面の男と美月の前に、ザグエルが飛び込んだ。
「……来た、か」
仮面の男が微かに笑う。
美月は目を見開き、呆然と呟いた。
「なんで……ここに……」
その背で、優の姿が影から立ち上がる。
「大丈夫か、美月」
その声は落ち着いていて、かつてよりもどこか“遠い”。
──彼は、戦いを越えるたびに、変わっていく。
そして今──その手には、確かな“意志”が宿っていた。




