第57話 歪められた者たち
──閃光、咆哮、そして砕けた壁の向こうから、異形が現れた。
「なにこれ……人間、じゃ……」
美月が息を呑む。
敵は、明らかに人の形をしていながら、もはや“人”ではなかった。
肌は灰白、血管は浮かび上がり、四肢は金属と骨が融合している。瞳は焦点が合わず、明らかに思考を持っていない。
「……実験体か。夜刀の“廃棄品”ってやつだな」
仮面の男が低く呟く。
クロノスがすぐに分析を始める。
「生体強化率82%。魔導中枢改造済み。精神制御なし。──“使い捨て”仕様」
「……殺して、いいの?」
美月が問いかけるその声に、優は即答した。
「もう、生きてない。生かされてるだけだ」
ザグエルが咆哮し、敵に突撃。
その一撃で三体の改造兵が一気に吹き飛んだ。
その間にも、死霊化したクロノスが動く。
鋭く、正確な突き。影のような無音の動作。
かつての殺戮兵器が、今は優の剣として、的確に敵を処理していた。
「美月、援護! 仮面、左を任せる!」
「了解!」
「こっちは任せろ!」
連携は洗練されていた。
だが──数が減らない。
「……おかしい。湧き方が、異常だ」
クロノスが再度スキャンをかける。
「上層に生成炉あり。魔力生命融合装置。強制的に量産している」
「生きたまま……材料にしてるってことかよ……!」
仮面の男の怒気が走る。
そのとき、倉庫全体に異様な震動が走った。
「……?」
優が顔を上げた。
背筋に、冷たいものが走る。
(今の、気配……)
死霊たちが、一瞬だけ反応を示す。
ザグエルですら、その場で硬直しかけた。
「……来る。別格だ」
クロノスが、珍しく慎重な声を出した。
──その気配は、地下のさらに深いフロアから微かに漏れていた。
まるで、ずっと“下で見ていた”かのように。
──橘重工・特別戦略室。
「観測データ、異常値です。ザグエルもクロノスも一時停止。優の意識波に揺らぎなし」
報告に、橘隼斗は笑った。
「やっぱり反応したね、“あれ”は」
ホログラムに映る、夜刀財閥の最下層構造。
その最奥、封印空間──“管理者ユニット”と記された領域が、淡く赤く光っていた。
「神がこの世界を委ねた“管理者”──財閥のトップ。彼らにとっての主神代理」
「ですが、彼らが動けば世界の均衡が──」
「構わないよ。天城優がその“均衡”を超える存在になるかどうか、ちょうどいい試金石だ」
橘は指を組む。
「夜刀財閥の直接対決? いいね。やってもらおう。予定通りさ」
優は影の波を広げ、空間を読み取っていた。
(……まだ奥にいる)
「ここで立ち止まってたら、数で潰される。進むよ」
その声に、美月と仮面の男は頷いた。
「……この先、何がいても、もう驚かないさ」
「怖いのは、止まることだけだよね」
三人の背に、死霊たちが静かに従う。
そして、彼らは進む──この世界を“管理する者”の眠る、最奥へと。




