第56話 誘導される標的
──夜明け前。空はまだ暗く、風は乾いていた。
「……ここか。夜刀の旧研究所跡ってのは」
仮面の男が口を開く。
優たちは、郊外にある廃工場群の一角に到着していた。
地図にも載らない場所──夜刀財閥がかつて“開発の実験場”として使っていた、いわくつきの施設だった。
「アクセスログの残滓と、魔力痕跡。おそらく、三日前まで“何か”が使っていた形跡あり」
クロノスが淡々と報告する。
「……廃墟っていうより、まだ生きてるってことか」
美月が呟いた。
「罠の可能性もある。慎重に行こう」
優の声は冷静だった。
死霊たちが影の中に潜み、戦闘への備えを固めている。
(……ここに来たのは、“情報”を取りに来たはずだった)
だが、優の胸の奥には、言葉にできない違和感があった。
まるで、誰かに“ここへ誘導された”ような──そんな感覚。
──その頃。別の都市、橘重工・極東支部。
「ターゲットは旧第八開発区に到達」
報告を受け、橘隼斗は淡く笑った。
「ふむ。予想より半日早い。やはり“動かしがい”があるね、彼は」
背後のホログラムには、夜刀財閥の拠点リストが映し出されていた。
その中のひとつに、“追跡印”が付けられている。
「“夜刀の生き残り”たちをそこに集めておけば、勝手にぶつかってくれる。あとは観測するだけ」
部下が問う。
「夜刀を潰してしまってよろしいのですか?」
「問題ない。“器”としての役目はもう終わった。次は“刃”が必要だ──そして彼は、その素材になる」
隼斗は微笑む。
「戦わせて、殺し合わせて、削った先に残った“本質”。それが我々の求める最終兵器だ」
──旧施設・地下区画。
「……来る。複数の足音。敵だ」
クロノスが即座に警告を発する。
「包囲されてる。全方向、夜刀の残党だ」
「……なるほどね。やっぱり、罠だったか」
優が短く呟く。
「でも──こっちにも“準備”はある」
彼の影から、ザグエル=ドラウスが立ち上がる。
さらに、クロノスも前に出る。優の号令一つで、戦端はすぐにも開かれる。
「美月、援護。仮面、左を頼む」
「了解。こっちから突っ込む」
「っ、了解……!」
夜刀財閥との直接対決──その火蓋が切って落とされた。
だがその背後で、第三の財閥が静かに笑っていたことを、まだ誰も知らない。




