第5話 絶望の淵
瓦礫の中から現れたマガツカミ『シュルガト』は、全身を黒い霧に包み、深紅の瞳で周囲を睥睨していた。その姿は、ただそこにいるだけで周囲の空気を重くし、圧倒的な威圧感を放っていた。
グレイホーン隊の隊長、黒嶺は、即座に指示を飛ばす。
「全員、陣形を維持しろ! 奴の動きを封じるんだ!」
隊員たちは訓練された動きでシュルガトを囲み、武器を構える。しかし、シュルガトは微動だにせず、ただ静かに彼らを見つめていた。
最初に動いたのは荒谷だった。彼は大剣を振りかざし、シュルガトに向かって突進する。その一撃は、空気を切り裂く勢いでシュルガトの肩口を狙った。しかし、刃が触れる寸前、シュルガトの周囲に黒い霧が渦巻き、荒谷の攻撃を弾き返した。
「くっ、なんて防御力だ……!」
荒谷が後退する中、他の隊員たちも次々と攻撃を仕掛ける。弓矢、魔法、槍――多種多様な攻撃がシュルガトに向かって放たれる。しかし、その全てが黒い霧によって無効化され、シュルガトに傷一つつけることができない。
逆に、シュルガトはゆっくりと手を上げ、周囲に黒い稲妻を放つ。その一撃は、隊員たちの間に炸裂し、数名が吹き飛ばされて地面に倒れ込む。彼らは苦悶の表情を浮かべ、立ち上がることができない。
「なんて力だ……! このままでは全滅する!」
佐々木が息を切らしながら叫ぶ。黒嶺は歯を食いしばり、決断を下す。
「撤退だ! 全員、生き延びることを最優先にしろ!」
隊員たちは指示に従い、シュルガトから距離を取ろうとする。しかし、その時、黒嶺の視線が優に向けられる。彼は未だに動けずにいる優を見つめ、何かを考える素振りを見せる。
「……天城、お前が囮になれ」黒嶺の声は冷酷だった。
「え……?」優は信じられないという表情で荒谷を見る。
「お前が奴の注意を引いている間に、俺たちは撤退する。これは命令だ」荒谷の目には迷いがなかった。
他の隊員たちも動揺を隠せない様子だったが、誰も反論することはできなかった。瞬間、黒嶺から攻撃がくる。間一髪交わすことができたが、その間に隊員は遠くまで逃げてしまった。優は唇を噛み締め、拳を握りしめる。妹・紗羅の顔が脳裏に浮かぶ。「ここで死ぬわけにはいかない……」
しかし、体は恐怖で動かない。シュルガトは静かに優の方へと歩み寄ってくる。その圧倒的な存在感に、優は膝をついてしまう。
「動け……動けよ……!」必死に自分を奮い立たせようとするが、体は言うことを聞かない。シュルガトの手がゆっくりと上がり、黒い稲妻が優に向かって放たれようとする。
その瞬間、優の脳内に不思議な声が響く。