第47話 その背に、影を従えて
「……ッ、はあ……っ、くそ……!」
鉄骨に叩きつけられた衝撃で、仮面の男は地面を転がった。身体中の骨が軋み、意識がかすむ。
目の前に立つのは、全くの無傷のままの男──クロノス。
「限界か。思ったより持ったな」
淡々と、だがどこか底冷えするような声音。
「いや……まだだ」
仮面の男は、ふらつきながらも立ち上がる。視界の端に、美月の姿が映る。
──絶対に、ここで終われない。
「立てる余裕があるのは立派だ。だが──意味はない」
クロノスの右手に、禍々しい黒槍が生成される。
「ここで君を処理する。それが命令だ」
「だったら……命令なんぞ、ぶっ壊してみろよ……!」
喉を焼くような叫びとともに、仮面の男は駆けた。だが、クロノスの一撃は、それを遥かに上回る速さで迫る。
──終わる──
そう思った瞬間。
ドガァン!!
轟音。天井が砕け、巨大な影が降下する。
クロノスが反射的に跳び退いた。激突の余波が倉庫を揺らす。
「……何だ、これは」
土煙の中から現れたのは、異形の巨体。黒い翼、複数の角、燃えるような眼光──禍々しさと威厳を併せ持つ、異形の竜型死霊。
「……完成してる、か」
クロノスの表情が初めて動いた。
その背に──ひとりの少年が、静かに降り立つ。
「よう」
その声に、仮面の男と美月が同時に目を見開いた。
「……優くん……?」
「ああ」
天城優は、ゆっくりと前に出る。
「紹介するよ。こいつが──《ザグエル=ドラウス》」
その名を口にした瞬間、死霊が咆哮を上げた。音圧だけで、倉庫内の空気が振動する。
クロノスが言う。
「ザグエル=ドラウス……知らない名だな。だが、力は本物か。いいだろう、少し遊んでやる」
優は、無表情のまま問い返す。
「遊び? ……そのつもりなら、後悔することになる」
「それは楽しみだ」
一触即発──その時、背後から声がした。
「……助けられちまったか。ガキに……」
優がちらりと振り返る。
「無理すんな。そっちがやられてたら、誰が──」
そこで、仮面の男がふっと笑った。
「……誰が妹を守るんだって、話だよな」
一瞬、空気が変わった。
美月が驚いたように、彼を見る。
「え……?」
だが仮面の男は、それ以上何も言わず、目を逸らす。
「……まあ、助かったよ。ガキ」
「ガキって歳じゃないんでね。そっちも無茶しすぎだ」
ふたりの短いやりとりを聞きながら、クロノスは小さく息を吐いた。
「面白くなってきた。じゃあ、そろそろ始めようか」
ザグエル=ドラウスが再び咆哮し、構える。
──そして、戦いの幕が上がる。




