第44話 交差する鼓動
《死霊の刃がマガツカミを貫く》
優の死霊たちが連携し、《カジャ=ベルゼ》を追い詰めていた。
毒霧が瘴気を浸食し、影の爪が装甲を抉る。
ヴォラク=グリードが突破口をこじ開け、
《ファルザ=レギオン》が首筋を狙い、滑空する。
「ここで、終わらせる!」
優の拳に宿る“戦神”の紋が、燃えるように脈打つ。
決着の一撃が振り下ろされようとした。
──場面は変わり──
廃れた教会の一室。
高瀬美月は、崩れた石柱の陰から息を殺して気配を探った。
(来てる……あの気配)
皮膚の下を瘴気が這うような不快感。
視界の端に、黒ずくめの男の姿が映る。
――クロノス。
夜刀財閥が人間とマガツカミの禁忌を交わらせて生み出した、“命令で動く怪物”。
「……また、あなた」
美月は息を呑みながら言った。
するとクロノスは、ゆっくりとフードを取って顔を見せる。
その口元が、わずかに笑った気がした。
「君は相変わらず運がいい。まだ生きているとは、少し驚いたよ」
その声は、驚くほど滑らかで、冷たくも落ち着いていた。
まるで、暗殺者が余裕をもってターゲットに語りかけるように。
「命令だ。君を捕らえ、沈黙させろと」
「夜刀財閥……やっぱり、動いてるのね」
「当然だ。余計なところに首を突っ込む者は、処理される」
クロノスの手に、瘴気がまとわりつく。
形を取ったそれは、黒く変形した刃となって伸びる。
「無駄だと思うけど、一応聞いておく。投降する気はあるか?」
「……あると思う?」
「まあ、ないよな。じゃあ、やるしかない」
次の瞬間、床が砕けた。
クロノスの一撃が教会の柱を貫き、粉塵が辺りを包む。
「っく……!」
美月は転がりながら距離を取り、護符を展開する。
だが、速度も力も、完全にこちらが劣っている。
その時。
「下がっていろ」
鋭い声が響いた。
瘴気の刃が弾かれ、火花が散る。
クロノスの前に割って入ったのは、仮面の男だった。
「また増えたのか……さすがに鬱陶しいな」
「この相手は君では無理だ。神託で援護に徹しろ」
仮面の男が美月にだけ告げる。
「……わかった」
クロノスは面倒そうに肩をすくめた。
「数で押すか。まぁ、想定内だ」
仮面の男とクロノスが交錯する。
黒の刃と鋼の剣が何度もぶつかり合い、
空気が音を立てて軋む。
その隙を突いて、美月は神託を発動し、結界を展開する。
「少しは足止めくらいにはなるはず……!」
クロノスが鋭く睨むように二人を見据える。
「面白い。以前よりは多少、抗う気概があるようだ」
だが、彼の口元はまだ余裕を失っていなかった。
――仮面の男とヒロイン、美月。
ふたつの意志が、殺戮兵器クロノスに対抗しようとしていた。
火花が散り、影がぶつかる。
交差する刃の向こうに、次なる運命が待ち受けていた。




