第43話 黒の災厄、空より来たる
刹那――空気が裂けた。
優と暗部の激しい交戦の只中。
上空がねじれるように歪み、そこから黒き霧をまとった“それ”が降り立った。
全身を黒の瘴気に包み、羽根のような瘴霧を背に広げた異形の存在。
その姿はまるで“神を模した悪意”のようだった。
オモイカネが即座に告げる。
『警告:ノウマ級上位個体。マガツカミ《カジャ=ベルゼ》と識別』
その名を告げた瞬間、周囲の温度が一気に下がる。
まるで空間そのものが怯えているかのようだった。
「……マガツカミ、だと……!?」
暗部の一人が怯えを隠しきれず、後ずさる。
「何故こんな……制御外じゃないのか……!」
「夜刀様の命令は“こいつ”の出撃じゃ──」
その言葉は、最後まで続かなかった。
“カジャ=ベルゼ”の瘴気が膨張し、
触れた瞬間、暗部の一人が音もなく爆ぜた。
霧の中に飲まれたその体は、一切の痕跡を残さず消滅。
「……ッ!」
優が即座にフェンリエルを前に出し、影で空間を引き裂くように回避行動を取る。
残る暗部二人も逃げようとするが――遅い。
“カジャ=ベルゼ”は言葉すら不要とばかりに、
瘴気の触腕を振り下ろし、無造作に“処理”した。
ドシュッ、と生々しい音とともに、二人目、三人目が崩れ落ちる。
「……ッ、くそ……!」
優は拳を握る。
このマガツカミは明らかに、過去に倒したどの個体よりも格が違う。
(あれが……ノウマ級“上位”か)
『即時撤退推奨。勝率──3%未満』
「それでも、逃げるわけにはいかない……!」
優は影から死霊たちを呼び出す。
ヴァルガル=ノワール、アミュナ=リリス、ヴォラク=グリード、フェンリエル。
さらに、先ほど使役した3体の無名死霊。
「全員で一斉攻撃。時間を稼げ!」
死霊たちは散開し、連携攻撃を仕掛ける。
毒霧、音波、影の斬撃。だが、“カジャ=ベルゼ”はどれにも怯まず、むしろ楽しんでいるかのように瘴気を纏って突進してきた。
1体ずつ、死霊が打ち払われていく。
そして、地面に崩れた暗部のひとりが、まだかすかに“魂”だけを残していた。
(……こいつも、巻き込まれただけか)
優は即座に判断する。
「ソウルリンク、発動」
影が脈動し、暗部の魂が闇に吸い込まれていく。
そして、直後。
『融合適合確認:第3無名死霊と統合可能。融合開始』
『融合体に名を──』
優は、激戦の中で言葉を刻んだ。
「──《ファルザ=レギオン》」
影から現れたのは、黒の刃と高速機動を備えた、暗殺者のような新たな死霊。
“ファルザ=レギオン”は即座に跳び上がり、
“カジャ=ベルゼ”の右肩を切り裂く。
瘴気が散り、マガツカミが初めて声を漏らした。
「ギ、ギィィィィ……!」
「今が好機だ……!」
優は拳を握り、戦神の発動準備に入る。
――だがその瞬間、“カジャ=ベルゼ”の瘴気が暴走を始めた。
次なる攻撃は、これまでの比ではない。
「くっ……次で、決めるしかない……!」
戦いはなお、続く。




