第41話 廃倉庫の咆哮
血と錆の匂いが充満した空間に、異様な呻き声が反響していた。
優は、暗く沈んだ廃倉庫の奥へと足を進めていた。
ここは財閥が実験場として密かに利用していた場所。
その証拠に、目の前に立ちはだかるのは――かつて“人間だったもの”たち。
「……元は、この街の住民……か」
人としての形は辛うじて残している。
だが、その皮膚は爛れ、関節は不自然に折れ曲がり、眼球は融けたように濁っている。
3体。どれもが常軌を逸した姿で、優を睨んでいた。
「財閥の……実験ってやつか」
優は静かに構えた。
「終わらせてやるよ」
異形の1体が咆哮を上げて飛びかかる。
「《剛力》!」
踏み込みと同時に繰り出された一撃が、異形の胸を砕く。
しかし倒れず、裂けた体から煙のような瘴気を上げて再生を始める。
『再生型個体。動力核の位置は背部コア。破壊優先』
「なら、仕留める……!」
「《影縫い》!」
優が床に落とした影が異形の動きを止める。
即座に影からフェンリエルが飛び出し、背中の核を貫く。
ドン、と音を立てて異形が崩れ落ちた。
二体目、三体目も容赦なく襲いかかってくる。
だが、優は冷静だった。
「ヴォラク、分断。アミュナ、毒霧で止めろ」
死霊たちが的確に動く。
毒で足を止めた敵を、ヴァルガルの剣が切り裂く。
そして、残る一体に対し――
「“戦神”を貸してもらうぞ」
一歩踏み出し、優の全身が青白い力に包まれる。
《戦神》──短時間、全能力を極限まで引き上げる強化スキル。
「……ごめんな」
その拳が、異形の仮面のような顔を粉砕した。
すべてが静まり返った。
異形の残骸が、ゆっくりと崩れていく中――
オモイカネの声が響いた。
『確認。対象3体、完全沈黙。ソウルリンク適合率、すべて規定値を上回る』
「……全部、繋げるのか?」
『可能。魂の核は破壊されておらず、人格崩壊も確定している。君の支配下に置くことが適正と判断』
優は静かに目を閉じた。
(……人に戻れないのなら、せめて俺の力として)
「……応えろ。《ソウルリンク》──!」
影がうねり、崩れた肉体から淡い光が浮かび上がる。
3つの魂が、優の影に溶け込むようにして消えていった。
──その名は、まだない。
だが、彼らもまた“戦う理由”を持った存在になった。
そして、倉庫の床に残されていた魔導装置の欠片には、
夜刀財閥の刻印が、くっきりと焼き付いていた。
『データ照合完了。魂転化実験場。対象は街の住民。被験者番号、数十名規模と推定』
「……殺して、使って、捨てたってわけかよ」
唇を噛み、優は拳を握る。
『優。君の魂負荷、限界値まで到達。だが制御は安定している』
『次なる試練地点の座標を取得。“異空間試練領域”へ移行可能』
優は振り返らず、倉庫をあとにする。
「この先に何が待ってても、進むしかない」
「奪われた命を、無駄にしないために」
彼の背後で、影が静かに蠢いた。
そして、その遥か遠くでは――倉庫の屋根から優を見下ろしていた“影”が、姿を消す。
──次なる敵は、すでに動いていた。




