第38話 闇に蠢く牙
森沿いの道は、異様な静けさに包まれていた。
腐った土の匂い。
ねじれた木々。
まとわりつくような、ぬるい風。
優は足を止め、周囲に気を配る。
その背後には、影に潜む死霊たち――
ヴァルガル=ノワール、フェンリエル、アミュナ=リリス、ヴォラク=グリード。
彼らの存在が、優の背中を静かに支えている。
「来るな」
ぽつりと呟いた瞬間、森の奥から一斉に気配が躍り出た。
牙を剥いた異形のモンスターたち。
その目は異様に濁り、まるで正気を失ったようだった。
「ヴォラク、フェンリエル、左を制圧しろ!」
「アミュナ、右の動きを止めろ!」
命令を受け、死霊たちは音もなく飛び出した。
ヴォラク=グリードが鋭い爪でモンスターを切り裂き、
フェンリエルが残像のごとき速さで敵を囲い、
アミュナ=リリスが毒の霧を放って足を鈍らせる。
(動きが粗い……操られてるな)
戦いながら、優は確信する。
これらのモンスターは、自然にここに現れたわけではない。
誰かが、意図的に操っている。
《魔力干渉源、検知。座標、北東方向》
オモイカネの報告が、鋭く脳を貫いた。
優は北東へ視線を向ける。
森の中、朽ちた木立の向こうに――
黒ずくめの人影が立っていた。
ローブを纏い、顔を隠した男。
手には禍々しい呪具が握られている。
「……誰だ?」
問いかけるも、男は一言も発しない。
代わりに、不気味な笑みを浮かべ、呪具を高く掲げた。
直後、周囲の魔力が暴発する。
「ヴァルガル、展開!」
指示を飛ばすと同時に、ヴァルガル=ノワールが優の前に立ちはだかる。
衝撃が大地を揺らし、砂塵が舞い上がった。
だが、死霊たちの防御によって直撃は防がれた。
(ただのモンスター使いじゃない……)
男は再び呪具を叩きつけ、黒い霧に包まれて姿を消す。
「……逃げたか」
深追いはしなかった。
だが、優の胸には微かな違和感が残った。
(操られたモンスター……あの魔力……)
(――夜刀財閥の暗部、か?)
根拠はない。
ただ、ここまで来て偶然とは思えないだけだった。
(まだなんとも言えないな)
ひとまず森は静寂を取り戻した。
死霊たちは最後のモンスターを片付け、影へと戻っていく。
そんな中、森の外れで、ひとりの若い男がこちらを見ていた。
ボロ布を纏い、顔の半分を隠しているが、目だけが異様に鋭い。
(……ただ者じゃないな)
優は警戒を解かず、男を見据えた。
どうやら、この町――
いや、この一帯には、まだ何か隠されている。




