第35話 探り合う眼差し、交わらぬ真実
静けさが支配する、瓦礫と影の地下空間。
火も灯らず、気配すら薄れたその場で、天城優と高瀬美月は並んで腰を下ろしていた。
二人の間には、どこか妙な間があった。
沈黙と、それを破るための言葉を探しているような気配。
「……ずっと、“無能者”だって聞いてた」
美月がぽつりと呟く。
「なのに……君、すごく強かった。さっきの戦いも、逃げ切ったのも……正直、まだ信じられない」
「俺も、自分が生きてることが信じられないよ」
苦笑交じりに答えた優の言葉は、冗談のようでいて、どこか本音だった。
「それに……強いってわけじゃない。まだ、足りない」
美月は、少しだけ安心したように微笑んだ。
「でも、私が見た限りだと……“無能者”なんかじゃ、なかったよ」
「ありがとう。きみにそう言ってもらえると、少しだけ救われる」
しばしの静寂。
そして、優がふと顔を向けた。
「……ところで、どうして暗部に狙われてた?」
「うん、話すつもりだった」
美月は、そう言って視線を宙に向けた。
「ギルドにいた頃、仲間が突然いなくなったの。失踪扱いになったけど、私は納得できなくて……調べてた」
「それが、財閥に繋がってた?」
「そう。夜刀財閥の中に、“消された記録”があった。たぶん、私がその情報に触れたのがきっかけ。暗部に目をつけられて、狙われた」
「危険なことだな」
「うん。でも、後悔はしてない。……私は、真実を知りたいから」
その言葉に、優はわずかに頷いた。
「……ありがとう。話してくれて」
「ううん、こちらこそ」
再び静寂が訪れた。
けれど、その空気はさっきよりも、少しだけやわらかかった。
「ねえ……」
と、美月がぽつりと口を開いた。
「さっきから“きみ”って呼ばれてるけど、ちょっと照れる。私のこと……なんて呼べばいいと思う?」
「そうだな……じゃあ、“美月”って呼ぶよ。距離が近くなったら、だけど」
「……ふふ、わかった。じゃあ私も……“優”って呼んでいい?」
「……好きにすれば」
ぼそりと返す優の声に、どこか照れくささがにじんでいた。
――そのとき。
《再試練可能地点――座標情報を転送》
脳内に響く、オモイカネの声。
「また来たか……」
《強化上限に接近。次段階試練地点を提示。試練内容は現地にて開示》
優は、立ち上がる。
「少し、行ってくる。……強くなるために」
「危険な場所なの?」
「たぶん、簡単な旅じゃない。でも、俺には必要なことだ」
「……気をつけて」
「うん。じゃあ、またな――美月」
小さな別れの言葉を残して、優は暗がりの先へと歩き出した。
彼の背は、もう迷っていなかった。




