第34話 静寂の影、燃える誓い
逃げ切った――
そう認識した瞬間、優はその場に膝をついた。
肩で息をしながら、冷たい壁にもたれかかる。
美月もまた、隣で震えるように座り込んでいた。
「……はあ……っ……っ」
静まり返った廃ビルの地下。
そこにはもう、あの化け物の気配はなかった。
だが、恐怖だけがまだ体内に残っている。
「生きてる……んだよね?」
美月の呟きは、震えていた。
「……ああ。ギリギリ、な」
優は、汗に濡れた額を拭いながら苦笑した。
体のあちこちが痛い。クロノスとの交戦で裂けた肩、裂傷、打撲、魔力の枯渇――それでも、死ななかった。
いや、死ねなかった。
「……どうして、助けてくれたの?」
美月がぽつりと訊く。
「無関係な人間のはずなのに。命の危険まで冒して」
「さあ……正直、自分でもよくわからない。ただ……放っとけなかった」
美月は静かに笑った。
「優しいんだね」
優はそれには答えず、ただ黙って空を仰いだ。
(足りない)
そう思った。
逃げ切った。だが、それだけだ。
死霊たちは全力で応えてくれた。
オモイカネも、また命を繋ぐ力をくれた。
けれど――
(あのとき、もし一瞬でも判断が遅れていたら、美月は……)
脳裏に浮かぶのは、あの仮面の男――クロノス。
元S級。今はマガツカミと融合した“人を超えた存在”。
一撃でも受けていたら即死だった。
死霊を出しても、時間を稼げるだけだった。
(まだ、勝てない)
(強くならなきゃ、意味がない)
「……強くなりたい」
ぽつりと口をついた言葉に、すぐさま脳内が反応した。
《意志確認。再試練ルート解放、可能》
「オモイカネ……」
優はゆっくりと立ち上がる。
「俺は、あいつを超える。今度は守るためじゃない。戦うために」
美月が不思議そうに見つめていた。
だがもう、優の瞳には迷いがなかった。
彼は、死を乗り越えた。
そしてこれから、さらなる深淵へと歩き出す。
――続く。




