第29話 四体の影、狩りの布石
――これは、高瀬美月を救う直前の夜。
月明かりも届かない裏通りに、天城優の影があった。
「やっぱり来たな……夜刀の暗部」
気配が裂けるように広がり、黒装束の者たちが静かに三方から現れる。
優は微動だにせず、淡々と呟く。
「ようやく俺を狩りに来たか。……遅かったな」
次の瞬間、地を這うような闇が蠢いた。
「出ろ、フェンリエル」
俊敏な影が飛び出す。
鋭い視線と黒き羽根を持つその死霊は、斬りかかる暗部の背後を一瞬で取り、喉元に爪を突き立てた。
反応する間もなく、暗部の一人が地に伏す。
もう一人が間髪入れずに手刀を振るうが――
「アミュナ=リリス」
毒気をまとった女型の死霊が虚空から現れ、鞭のような杭を巻きつけて腕をねじる。
砕けた骨の音が響き、暗部は叫びも出せぬまま倒れた。
残る一人が即座に距離を取り、煙玉を投げて視界を遮断。
「……ヴォラク=グリード」
優の影から湧き上がった死霊が、重く沈んだ一つ目を開く。
霧の中でも敵の魔力を正確に捉え、追跡の意志を示す。
「いや、待て。あれは……使う」
優は右手を掲げ、逃げる暗部の背に魔力の紋様を刻む。
《試練達成を確認。報酬授与》
脳内に響く、AI・オモイカネの機械音。
「《影印》――対象に魔力の痕跡を刻印し、一定範囲内で追跡可能とする。潜伏および転移不可」
「ふ……ちょうどいい。餌としては十分だ」
逃げる暗部を見送り、優はゆっくりと歩を進める。
その足元には――重装甲の死霊、ヴァルガル=ノワールが姿を現していた。
「おまえが出るまでもなかったな。けど……これからは、そうもいかなくなるか」
背後に並び立つ四体の死霊たち。
フェンリエル、アミュナ=リリス、ヴォラク=グリード、ヴァルガル=ノワール。
すべてが主の意志のもと、沈黙のまま従っていた。
「行こう。今度は“こちら”が狩る番だ」
優は闇の中に溶け込むように歩き出す。
向かう先には――
まだ知らぬ誰かが、暗部の刃に晒されていることなど、まだ知る由もなかった。




