第23話 標的(ターゲット)の名は
静寂の中、3体の死霊が俺の前に並んでいた。
生前の姿を残しながらも、瞳に宿る光はもう人間のそれではなかった。
「……お前たちの記憶を、辿らせてもらう」
俺が語りかけると同時に、影が揺れる。
オモイカネの力により、死霊たちの記憶が俺の視界に流れ込んでくる。
断片的な情景。
高層ビルの会議室、暗い地下の通信室、そして“命令”。
――『天城 紗羅は危険因子だ。事故に見せかけて、排除しろ』
その声は、誰のものか判然としない。
けれど、その場にいたのは間違いなく、黒嶺たちだった。
「お前らが……やったのか……?」
俺の声に、黒嶺の死霊は静かに首を横に振った。
「……監視役、だった。実行は、別の“部隊”」
かすれた声が、俺の脳内に響いた。
「紗羅を……追跡していた。“夜刀財閥”の……暗部が……動いていた」
夜刀財閥――
その名を聞いたとき、俺の奥底で何かが軋んだ気がした。
「暗部……名前も顔も分からない……存在ごと、抹消された……」
理央の死霊も、悲しげな表情を浮かべていた。
「私たち……何も知らなかった……ただ金で雇われて……それが、すべてだったのよ」
「真相は……もっと奥にある。俺たちは……使い捨て……」
荒谷の声は、もはや悔しさとも呼べない虚無感に満ちていた。
使い捨て。
言いようのない怒りが、胸を締めつけた。
「紗羅が、なぜ……“危険因子”だったんだ?」
俺が問いかけると、3人の死霊は、そろって首を横に振った。
「命令の内容……それだけだった。“理由”は、知らされていない」
――情報は、断ち切られていた。
「……だが、確かに繋がってる」
オモイカネの声が俺の中に響く。
《夜刀財閥。表向きは五大財閥の一角――だが、裏では情報操作と暗殺を請け負う“影”の機関。》
《紗羅の死と、君への攻撃命令の両方に関与している可能性は高い》
「つまり……そいつらが“次の標的”ってことだな」
俺はゆっくりと目を閉じ、拳を握りしめる。
「……俺は、夜刀財閥を潰す。紗羅の仇を討つ。
そして――この腐った世界の根を、絶つ」
3体の死霊は、影に溶けながらも、かすかに頷いたように見えた。
オモイカネの声が、低く告げる。
《標的を定めたな。次なる試練の準備に入る》
「上等だ。相手が誰であろうと――俺は、止まらない」




