第21話 断罪の刃
「影狼、包囲――残眼、右斜線の死角を潰せ」
俺の声に応じて、死霊たちが即座に動いた。
影の中から跳び出した**影狼が、グレイホーン隊を取り囲むように奔る。
空中には残眼**が旋回し、その瞳が敵の位置を視界に焼きつけていく。
「なんなんだコイツらは!? 死霊が……こんな数……!」
荒谷 剛志の声がわずかに震える。
「影の中から……!? どこにいたのよ、こんなの……!」
理央が後退しつつ、魔力刃を構えるが、そこに毒気をまとった牙が迫る。
**毒牙**が茂みから飛び出し、理央を薙ぎ払おうとした。
「チッ……!」
魔刃が辛うじて毒牙を弾くが、その毒液が地面を焼き、彼女の顔色が青ざめる。
「……こんなはずじゃ……俺たちは、“無能者”を始末しにきただけなのに……!」
黒嶺 一真は冷静を装いながらも、焦燥を隠せていなかった。
「そう思ってたんだな。ずっと」
俺は静かに言葉を落とす。
「お前らには、無能者なんて簡単に殺せる存在に見えてたんだろう。
でもな――」
「俺の影からは、誰も逃れられない」
地面に這う影の中心から、咆哮と共に現れるのは――ヴァルガル=ノワール。
牙を持つ闇の騎士。その漆黒の体躯が、地を叩きながら黒嶺に向けて突進する。
「っ、クソッ!!」
黒嶺は盾を構えて応戦するも、巨大な剣の一撃で吹き飛ばされる。
「一真ッ!!」
理央が叫ぶが、すぐに自分の背後に現れたハルパスの存在に気づき、絶叫する。
「……な、に、これ……!」
翼を持つマガツカミの死霊体――その不気味な気配に、彼女の膝が崩れかける。
「なァ優ッ!! 本気で殺す気かよ!!」
荒谷の叫びに、俺の拳が止まった。
そう――俺は、まだ“人を殺した”ことがなかった。
今までは、マガツカミ。モンスター。
“人間”ではなかった。
(けど――)
思い浮かぶのは、妹の死。
あの時、力があれば。
知識があれば。
立ち向かう“覚悟”があれば。
きっと俺は、間に合った。
「これが、その代償だよ」
俺は拳を構え直し、躊躇いながらも前へ出る。
だがその隙を突いて、黒嶺が再び短剣を抜いて突撃してくる。
「死ねッ!!」
「……っ!」
俺は影で交わし、背後から現れたフォレストドラゴンの尾撃で彼の動きを封じる。
轟音。
吹き飛ぶ黒嶺。
地に伏せ、彼は動けない。
「まだ……終わって、ねぇ……!」
理央と剛志が、血まみれの姿で俺を見上げる。
その目に、怯えと、わずかな後悔と――命乞いの色。
「た、助けて……お願い、優……!」
「俺たち……ただ、命令に従っただけで……!」
黒嶺たちを見下ろしながら、俺は拳を握ったまま問う。
「教えろ。なぜ俺が狙われた? なぜ妹は死んだ? お前たちは、どこまで知っている?」
沈黙が、森を包む。
その空気を切り裂くように、理央の口が震えながら動いた――。




