第20話 黒き取引
天井のない空間。
世界のどこともつかない、虚無のような部屋の中央に、一人の男が立っていた。
黒いスーツ。無表情。冷たい瞳。
それが、五大財閥のひとつ――**夜刀財閥**の執行官だった。
「……ご報告いたします」
スーツの男は、目の前に浮かぶ漆黒の椅子に向かって静かに頭を下げた。
その椅子には、誰かが座っていた。
だが、その姿は影のように霞んでおり、顔すら見えない。
名前も、肩書きも、一切が伏せられている。
ただ記録上、“???”とだけ表されているその存在――それは、すべての財閥にすら逆らえぬ存在だった。
「……報告によると、件の少年――天城 優は生存しているとの確認が取れました」
スーツの男の声は一切の揺れもなかった。
ただ事実を淡々と述べるその姿は、むしろ不気味ですらある。
「生存……想定外だな」
椅子に座る“???”の声は低く、冷たい。
だがその響きは、人間というより“何かの枠外”から来たような響きを持っていた。
「以前の記録では、すでに処理済みだったはずだ」
「はい。我々の認識でも“処理済み”であり、実際、外部への情報流出は一切ありませんでした」
「ならば……なぜ、生きている?」
「不明です。現時点では、干渉の痕跡や復活要因も掴めておりません。
ただ、彼に関する一部記録に、解析不能な領域が存在していることが確認されています」
「……異常干渉、もしくは禁域起因か」
「その可能性は否定できません」
沈黙が走った。
ただ空気だけが、音もなく重くなる。
「それで?」
“???”の声が再び響いた。
「どう対処する?」
「排除対象として、既に動いております。
我々が保持する私設戦力――“グレイホーン隊”を、先ほど派遣いたしました」
「夜刀財閥が直轄している隊か」
「はい。」
「理解した。……だが」
“???”の声がほんのわずかに濁る。
「……あの少年がただの“無能者”で終わると思うか?」
スーツの男は、わずかに眉を動かしただけで、依然冷静な声音で応じた。
「現時点では、彼に能力の発現は確認されておりません。
過去の記録も、神託未発現の“無能者”のままです」
「ならば、“排除”に支障はないと?」
「……その通りです」
沈黙。長い、無音の時間。
やがて、“???”はぽつりと呟いた。
「芽は、根から絶たねばな」
スーツの男が頭を垂れた。
「……はい。我々、管理者としての義務を果たします」
「計画は、予定通り進めよ。必要な犠牲は問わぬ」
「御意」
影が揺れた。
会話は終わった。
だが――その場に残ったものは、言葉以上の“予感”だった。
“まだ知られぬ脅威が、確かに蠢いている”




