第19話 牙を剥く影
「まさか、生きてたとはな」
黒嶺 一真の声は、昔と変わらぬ静けさをまとっていた。
けれど、そこに宿っていたのは、かつての“英雄”の輝きではない。
ただ一方的な、“処理対象”を見るような冷たさだった。
「……どうしてお前らがここに?」
俺の問いに、黒嶺はわずかに口元を歪めた。
「命令だよ。上からの」
「“上”ってのは……どこだ?」
そのとき、理央が口を挟んでくる。
「言えないこともあるのよ。優くん。世の中って、思ってるよりずっと面倒なの」
「お前ら……」
「ま、ひとつ言うなら――お前、目をつけられてるってこと」
「目を……?」
「そう。“ある方々”にね」
頭の奥で、重く鈍い何かが沈んだ。
“妹の死”の裏にある影。その核心に、少しだけ近づいた気がした。
「……紗羅のことを、知ってるのか」
俺の声は低く、重かった。
荒谷 剛志が笑った。
「別に、大した話じゃねぇよ。あの子――都合が悪かっただけだ」
「何……?」
「優、お前はさ、ずっと“無能者”だったよな。
妹にしがみついて、生きてるようなもんだったろ」
拳に、自然と力が入る。
「そんな奴が、今こうして生きてることがまずおかしい。
普通は、途中で勝手に死ぬもんだろ? ……あの時、死んだと思ってたのにさ」
理央も、冷ややかに笑みを浮かべる。
「紗羅ちゃんもさ、最初は同情してたんだろうけど……
結局、無能と一緒にいたせいで不幸になったのよね」
「……」
心が軋む音がした。
紗羅のことを、あんな風に……。
「……お前たちが、紗羅を――」
黒嶺が一歩前に出る。
「優。勘違いするな。俺たちは命令に従って動いてるだけだ。
お前が何を知っているのか。何を見たのか。それすら問題じゃない。
“消せ”と言われたから、消す。ただそれだけだ」
「それが……英雄気取りだったお前らの言うことかよ」
「英雄? そんなもん、金が出るか?」
「財閥に従って、何でもやるってことか。人を殺すことも含めてな」
「金がすべてさ。力がなければ、生きていけない。無能者なんて特にな」
荒谷の目が嘲笑を浮かべていた。
「だいたい、何もできなかったお前が生きてたことが驚きなんだよ。
お前が死んだって、誰も気にしねぇよ」
「お前たちは、妹を――紗羅をどうしたんだ……!」
俺の叫びに、一瞬だけ、黒嶺の表情が曇る。
だがそれもすぐに消え、冷たく言い放つ。
――心の中で、何かが静かに崩れた。
俺が――俺たちが、どれだけ馬鹿にされていたか。
「……いい加減にしろ」
足元の影がざわめいた。
脳裏に、あのときの感覚が蘇る。
「てめぇら、まとめて――」
「絶対に、許さねぇ」
影が、牙を剥いた。
「なっ……!? 影が……」
「これって……お前、まさか……!」
「無能者のくせに……何を――」
「もう“ただの無能者”じゃねぇよ」
俺の声に、静かに怒気がにじんだ。
「全部、終わらせてやる」
――バトル、開始。




