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第18話 影を縫う者

最終試練の場は、どこまでも続く“影の迷宮”だった。


上下左右が曖昧で、立っている感覚すら不安定。

唯一の頼りは、足元にかろうじて映る自分の影だけ。


「気持ち悪い空間だな……」


闇の奥から、這いずるような音が響く。

現れたのは、巨大な獣のような影――影獣ダロス。

光も質量も持たない、“闇そのもの”のような存在だった。


 


「速い……!」


影獣は、音もなく接近してくる。

剣も魔弾も、その身体をすり抜けるだけ。

反撃すら成立しない。


――まともにやったら勝てない。


目の前で影の尻尾が横薙ぎに迫る。

回避が間に合わず、体が吹き飛んだ。


「くっ……!」


地面に叩きつけられ、肺から空気が抜ける。

それでも俺は――まだ、心を折られていなかった。


 


「……俺は……死なない」


その瞬間、影の奥でなにかが共鳴した。


 


《空間適応確認。影魔力との共鳴率上昇――発現条件達成》


《特殊能力“影縫い転位シャドウジャンプ”を解放》


 


右足の影がぐにゃりと揺れ、俺の意識とリンクする。

“あそこへ飛べ”――そう思った次の瞬間には、もうそこにいた。


視界が歪み、光がねじれる。

影と影を繋ぎ、瞬間移動する力。


「これが……!」


影を利用した戦術が頭の中に浮かぶ。

攻撃を誘い、距離を取って魔弾を撃つ。

影を足場に、何度も“位置”を取り直しながら、一点を狙って魔力を集中させる。


 


――蒼い閃光。


影獣の中心核に魔弾が突き刺さり、その姿は静かに崩れていった。


 


「……終わった、のか」


全身が震えていた。痛み、疲労、けれど――そのすべての先にある確かな達成感。


 


《最終試練完了。全能力適合》


オモイカネの声が静かに響く。


《討伐対象:影獣ダロス。死霊使役候補:登録可》


「……従え、“影狼えいろう”。お前も俺の影になれ」


影の奥から、四足の獣が姿を成し、影の領域へと溶けていった。


 


試練の間が解け、元の世界へと戻るゲートが開いた。


 


◆ ◆ ◆


 


――ダンジョンから脱出した後。


俺は荒れた山道を歩いていた。

街へと続く帰路。時間は夕暮れ。

疲労は限界に近かったが、それでも――胸には、確かな手応えがあった。


「……久々に……ベッドで寝たい」


疲れた笑いがこぼれたときだった。


ふと、背筋に悪寒が走る。

影が動いた。誰かがこちらに近づいてくる。


(……魔物じゃない。これは――人の気配)


振り返った先に立っていたのは、3人の男女。


風に揺れる白いマント。黒い装備。――そして、その顔。


「……グレイホーン……隊」


俺の声は、思わず震えていた。


かつて憧れた“英雄たち”。

だが今、その視線は冷たい。


「まさか、生きてたとはな」


隊長――黒嶺くろみね 一真かずまが、口元を皮肉げに歪めた。


その横には、副隊長のたちばな 理央りお、前衛の荒谷あらたに 剛志つよし


「無能者がどうやって生き延びたか、さすがに俺たちにも謎だよな」


「ま、依頼されたんで。ここで死んでもらうぜ、優」


その言葉に、足元の影がゆっくりと揺れる。


「……俺は、もう“ただの無能者”じゃない」


 


静かに、戦いの幕が上がろうとしていた。

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