第17話 癒しの核と影の兆し
「……やばっ――!」
毒沼に叩き落とされてすぐ、俺は直感した。
この試練、生き残れる保証はない。
足元を覆う緑の液体は、じわじわと靴を溶かし、肌を焼く。
反射的に跳ねて避けるも、ふくらはぎにまで痛みが伝わってくる。
「くそっ……っぐあ!」
さらに追い打ちのように、ヴェノムスパイダーが跳躍してくる。
その巨体が地面に叩きつけられた瞬間、辺りに毒霧がばら撒かれた。
視界がぼやける。喉が焼けるように痛む。
すでに限界に近い。
(……回復が……できれば)
その思考と同時に、脳裏に雷が落ちたような閃光が走った。
《回復系能力“癒転核”解放》
左腕の内側に、小さな光の球体が浮かび上がる。
「これが……癒しの力?」
試すように、焼けただれた足元に手をかざす。
光が染み込むように流れ込み、皮膚が再生していく。
さっきまでズキズキと痛んでいた部位が、じわじわと温かくなる感覚――
「……っ助かった……!」
時間はかかるが、確かに“命を繋げる”力だ。
これがあれば、継戦が可能になる。
(生きてる――まだ、俺は、生きてる!)
だが、敵は容赦なく襲いかかってくる。
ヴェノムスパイダーはその巨体を活かし、毒針と突進を繰り返す。
「今度は……避けきれるか!」
ギリギリで飛び退き、滑るように移動。
毒沼の性質を逆手にとって、あえて滑って距離を取る。
今度は魔力を右手に集中。
「喰らえッ!」
蒼白い魔装結晶の魔弾がヴェノムスパイダーの片脚を吹き飛ばす。
続けざまに2発、3発と打ち込む。
やがて、敵の巨体は動きを止め、毒液に沈んでいった。
「……はぁ、はぁっ……」
両膝をつく。
疲労も痛みも限界に近い。だが、達成感と同時に、ある種の確信も湧いていた。
《第二段階完了。能力適合:承認済》
オモイカネの声が響く。
《討伐対象:“ヴェノムスパイダー” 死霊使役候補:1体選出可能》
毒霧が晴れると同時に、蜘蛛の死骸が黒く変質し始める。
「……従え、“毒牙”」
言葉と共に、死霊の印を刻む。
影の奥で、蠢くように姿を変えた蜘蛛が、新たな仲間として待機状態に入った。
(まだ召喚できないが……これで2体目)
その瞬間、空気がまた変わった。
地面が収縮し、目の前に新たな空間が開く。
黒く歪んだ螺旋が奥へ奥へと続いている。
《最終段階:空間制御適性の確認》
「……ラストってことか」
そして、耳元でオモイカネが囁く。
《“空間と影を繋ぐ力”を、君は得られるか?》
静かに立ち上がり、俺はその先へと足を踏み入れる。
「やってやるよ。……全部な」




