第16話 魔力を超えて
「ここが……試練の間かよ」
目の前に広がるのは、黒曜石のように鈍く光る大地と、天井すら存在しない漆黒の空間。
空気が違う。重力すらわずかに歪んでいるような感覚。
そして、何よりも――
「……ヴァルガルの気配が、断たれてる」
影に控えさせていたはずの死霊たちの気配が、完全に遮断されている。
オモイカネの声が脳内に響く。
《この空間では、既存の死霊召喚機能は一時的に封印されます》
「……そういうことか。つまり、ここでは俺の力だけで戦えってことか」
《正確には、“お前自身が試練を乗り越えること”が条件となる。
ただし、ここで討伐した存在を試練終了後に使役対象とすることは可能》
「了解。……なら、やるだけだ」
◆ ◆ ◆
《第一段階:魔力操作適性の確認》
空間の奥から浮かび上がるように出現したのは、
歪んだ肉塊と巨大な眼球が融合した魔物――エビルアイ・オメガが三体。
浮遊しながらゆっくりと距離を詰めてくるが、その眼から放たれる魔弾は鋭く、誘導性すら持っていた。
「っ……!」
魔弾が俺の足元をかすめ、爆風で吹き飛ばされる。
反射的に転がって距離を取るが、腹を強く打って息が詰まる。
(魔法に対する経験が浅すぎる……このままじゃ削り殺される!)
そんな思考の中、ふと敵の行動パターンに一定のリズムがあることに気づく。
(魔弾の溜め、間隔、集中の瞬間――狙える!)
その瞬間、脳に走る痛みとともに、右手に熱が宿る。
《魔法系能力“魔装結晶”解放》
手のひらに、青白く光る魔法陣のような紋章が浮かび上がった。
(これが……俺の魔法?)
本能的に魔力を流し込むと、青い光弾が生成され、前方のエビルアイに向けて一気に放たれる!
ズドン――!
魔弾が敵の中心に直撃し、肉塊が爆ぜるように崩れ落ちた。
「……っ、やれる!」
だが、すぐさま残る2体が連携を取りながら魔弾を放ってくる。
動きに対応しきれず、右肩に直撃。
「ぐっ……!」
焼けるような痛みに悲鳴をあげつつ、転がって体勢を立て直す。
魔力の消費も激しい。片手を地面に付きながら、必死に集中する。
「……あと、2体だ」
二発目、三発目と魔弾を練り、放つ。
弾道が微かにぶれていても、必中を意識し、狙いすました。
ようやく全ての敵を撃破した頃には、全身から汗が噴き出していた。
《第一段階完了。能力適合:承認済》
ようやくオモイカネの声が告げる。
《討伐対象:“エビルアイ・オメガ” 死霊使役候補:1体選出可能》
(ここで……使役の準備ができるのか)
敵の骸が黒い霧に包まれる。
俺はその中でも一体に向けて言葉を投げた。
「従え。“残眼”、俺の影となれ」
残された魔力が霧の中に流れ、異形の瞳が俺に応えるように震えた。
(召喚はできないけど……試練が終わったら、こいつを使える)
少しだけ、安心する。
だがすぐに――
《第二段階:生存適性の確認》
地面が崩れる感覚。俺の足元が砕け、奈落へと落ちていく。
「うわっ――」
落下と同時に、視界に広がるのは毒霧が漂う沼地。
その中央に、巨大な多脚の魔物が蠢いていた――ヴェノムスパイダー
沼地に着地した瞬間、足元の毒液が皮膚を焼く。
「ッぐ……!」
痛みで膝をつく暇もなく、ヴェノムスパイダーが跳躍する。
次なる試練が、始まる。




