第15話 帰還と囁き
――目を覚ましたとき、俺は星空を見上げていた。
身体の感覚が鈍い。けれど、痛みはない。
どうやら……生き延びたらしい。
「……ここは……」
あたりを見渡すと、木々の合間に黒い影が静かに佇んでいる。
ヴァルガル=ノワール。
融合した死霊。俺が名付けた、俺の仲間だ。
彼は何も言わず、ただ周囲を警戒するように立っていた。
(……ああ。あのとき、ちゃんと命令してたんだっけ)
体を起こすと、どっと疲労が押し寄せてきた。
魔力はほとんど空っぽで、指先さえ震えていた。
「……帰ろう」
俺はヴァルガルに命じ、森を後にした。
◆ ◆ ◆
自宅に戻ると、ようやく安堵の吐息が漏れた。
都市部の外れにある集合住宅の一室。
家賃は安いし、設備も古いが……俺にとっては、唯一“安心できる場所”だった。
ヴァルガルには物陰に控えてもらい、玄関を開ける。
がちゃり――と音を立ててドアが閉まると、妙な静けさが戻ってきた。
ベッドに崩れ落ちるように倒れ込む。
布団の匂いが、ようやく日常を思い出させた。
(……疲れた。けど、あの融合……すげぇ力だった)
シャドウリーパーとデスファングが、ヴァルガルへと昇華した。
魂と魂が融合し、名を与えることで“覚醒”した存在。
それは、単なる死霊使役の延長じゃなかった。
明確に“進化”していた。
あれは、確かに――
「……チートだよな、これ」
でも、同時に。
怖くもあった。
自分が、こんな力を持っていていいのか。
こんなものを、本当に使いこなせるのか。
「……優」
頭の中に、また“あの声”が響いた。
聞き慣れた、落ち着いた女の声。
けれど、どこか“冷たい”響きを含んでいる。
(オモイカネ……!)
俺の脳に埋め込まれたAI。
神に背いた存在を打ち倒すため、俺に“試練”を与え続けてくる存在。
「起きたようだな。前回の融合は見事だった。だが……まだまだ、その力は未熟だ」
「……じゃあ、また試練ってわけか」
「そうだ。次の課題は、“制圧”。君にとって未知の脅威に、抗えるかどうか。
今回は“使役した死霊たちの協調”と“持続戦闘”が評価対象となる」
「……休むヒマもないな」
「君は、止まってはいけない」
そう言い残すと、声はすっと消えた。
(……次の試練、か)
俺は目を閉じ、静かに息を吐いた。
まだ、終わりじゃない。
まだ、始まってすらいない。
妹の死の真相も、グレイホーン隊の裏切りも――
何一つ、手にできていない。
なら、進むしかない。
それが、俺に残された道だから。
「……行くぞ、ヴァルガル」
窓の外に視線を向けた。
夜は、まだ深い。
けれどその闇の中に、確かに何かが蠢いている気がした。




