第11話 禍影の名はハルパス、地に這う神意
「……この空気、またかよ」
森の奥から滲み出すような瘴気。微かに空気が重くなる感覚。
俺の本能が告げていた――マガツカミだ。
前に一度、遭遇している。
その時は死に物狂いで倒したが、今回の気配は、それよりも数段“濃い”。
オモイカネの声が頭に響いた。
『敵性存在を確認。マガツカミ・ノウマ級個体、“ハルパス”です』
「……名前付きか。前のやつもそんな感じだったな」
マガツカミに個体名があることは知っていた。
だが――
「ノウマ級って、何のことだ?」
『階級の呼称です。マガツカミには存在ランクがあり、下位から順に
“ノウマ級”、“シグラ級”、“エイレ級”、“ルキフェル級”、“オリジン級”が存在します。
今回の“ハルパス”は、最下位にあたる“ノウマ級”です』
「……まじかよ。あの時のやつも、それだったのか?」
『前回の個体はノウマ級の中でも最弱クラス。
ハルパスはそれよりやや上ですが、同階級内ではまだ“弱い部類”と推定されます』
「それでこの威圧感かよ……」
木々の奥から、異様な影が這い出してくる。
三つの眼。嘴のような口。干からびた皮膚と、地を這うような長い手足。
それが――“ハルパス”。
「来い、死霊たち!」
俺の声に応え、三体の死霊が姿を現す。
デスファング・ノワール。
シャドウリーパー。
フォレストドラゴン。
頼れる相棒たちと共に、俺は構えを取る。
「一気にいくぞ!」
デスファングが飛びかかり、シャドウリーパーが影から切り裂く。
フォレストドラゴンが咆哮し、体当たりを仕掛ける。
俺も竜化を発動し、拳を叩き込んだ――が。
「……っ!」
手応えは、ある。
けれど、それを上回る反撃が返ってきた。
ドガッ!
「ぐぅ……!」
俺の体が木に打ちつけられ、肺が潰れそうになる。
『警告。現在の敵は階級内では“下位”個体ですが、あなたの戦闘経験では依然として危険です』
「知ってるよ、オモイカネ……でも負けられねぇ」
妹の死。
あれが“事故”なんかじゃなかったことは、もう確信に近い。
あの日を境に、世界が俺に牙を剥いた。
「真相を追うために……俺は、ここで立ち止まるわけにはいかないんだよ!」
死霊たちが再び立ち上がり、ハルパスを睨む。
俺も、拳を握る。
「まだ終わらせねぇ。こっからだ……!」




