第10話 森の咆哮、死霊と竜の契約
月光に照らされた木々のざわめきが、森の奥からの異音をかき消していた。
俺はその気配を感じながら、ただ前を見据えていた。
「次の試練は、フォレストドラゴン。成功すれば、新たな能力を与える」
オモイカネの声が響く。淡々とした音声。でも、その先にある意味を俺は理解していた。
「妹の死の真相に、近づけるかもしれないなら……やるしかないだろ」
ギルドの正規ルートでは到底立ち入れない禁域、深緑の領域。その奥に奴はいた。
樹々がざわめき、森が警告を発する。神聖すら感じる圧倒的な威圧感。
そして現れたのは、全身を苔と蔓に覆われたような巨大な竜。
フォレストドラゴン――森の守護獣と呼ばれながら、今や異形と化した存在。
「侵入者よ。貴様は何を以て、我に挑む?」
「……過去を断ち切るためだ」
その一言にすべてを込めて、俺は構えを取った。
振り下ろされる巨大な爪。地を震わせる咆哮。
「迅速」で跳ね、斬撃をかわす。「剛力」で拳を叩き込むが、竜の鱗はびくともしない。
「効かない……っ!」
その瞬間、俺は叫んだ。
「来い、死霊たち!」
青白く光る輪郭。まず現れたのは、牙を剥く幽狼――デスファング。
続いて、鎌を携えた影の刺客――シャドウリーパーが出現。
「援護を頼む!」
二体は躊躇なく飛び出し、竜の注意を引く。
俺はその隙に脚へ回り込み、何度も拳を叩きつける。
死霊たちは咆哮を浴びながらもひるまず、連携して隙を作り出してくれた。
「今だ――!」
俺の拳が竜の目の下へ、寸分違わず突き刺さった。
獣が悲鳴を上げ、ぐらつく。
「とどめだ……っ!」
渾身の一撃を叩き込んだ直後、体の奥が熱くなる感覚。
オモイカネの声が脳に直接流れ込んでくる。
「試練クリアを確認。能力『竜化』を付与します」
同時に、俺の足元に横たわるフォレストドラゴンの肉体が崩れ――魂だけが残った。
「――契約を交わしますか?」
その言葉が、俺の中に響いた。
「……来い。お前も俺の力になれ」
青白い光が渦を巻き、ドラゴンの魂が俺の手に収まる。
新たな使役――フォレストドラゴン、獲得。
「天城優、補足報告です」
オモイカネが続けた。
「死霊使役における霊体は、戦闘経験を蓄積することで種族進化が可能です。デスファングの進化条件を満たしました。進化させますか?」
「もちろんだ」
デスファングの体がさらに光を放ち、体躯が一回り大きくなる。牙が伸び、爪が鋭くなっていく。
「進化完了――《デスファング・ノワール》に変化しました」
俺は、戦いながら確実に力を手に入れている。
それは、妹の死の真相を突き止めるため。そして、あの“奴ら”への復讐のために。
だが、この先――俺が辿る未来に、何が待っているのかはまだ分からない。
心の奥で、何かが微かに囁いていた。
(“あれ”を倒せば、お前は神をも超える……)
その囁きに応えるかは――まだ、俺自身にも分からない。




