レースが始まる
ロックイーゼンは春と秋に行われる。
八つのカラーに分かれて一つのカラーに精鋭の選手が15名。
オープン戦は全員出場できるがレース後人気投票で選ばれた選手と、握ったホールドの数字とクリアした速さの秒数で、数字が加算され次の準決勝でAとBに分かれる。そして決勝レースではAとBのどちらかが出場する権利が得られる。
人気度と身体能力の数値とが細かく出されるので、レースの予想が立てやすく素人が賭けに没頭しやすく、子供から大人までレースの期間中は街はロックイーゼン一色になり、顔にペイントでバッテンを付けた子供たちが走り回るのも風物詩となっている。
軽やかなフアンファーレと共に、わらわらと色の流れとなって20メートルの高さから滝つぼに見立てたプールに選手たちは飛び込む。
深さは15メートル。むやみに潜ると落下から水中の穴くぐりまで時間がかかり過ぎる。
大半の選手は選手同士ぶつからぬように間隔を置いて頭から入水する。
ミリアムことミカエラはぶつかる相手を変えていた。
細身で何の競技者かわからないカレリンに、新人戦の時にはかなりちょっかいをかけたが、なぜかするりするりと逃げられてぶつかることは無かった。
華やかな顔立ちのビレーデもミカエラが近づくとその筋肉の鍛えた運動神経をいかんなく発揮して、手の届かないところへ移動してしまう。
そうなると故障者リストに載せるターゲットを変えるしかない。
グレガーは水は嫌いらしくスタート地点は足から飛び降りて浮上して水中の穴くぐりに向かう。
一度飛び込んでいる新人は頭から飛び込みそのままの勢いのまま穴に入る。
新人戦は失敗したがミカエラは、グレガーの身長もあり横派もある陸上競技では投擲をやって居たような体格に目を付けた。
グレガーが落ちるのを見計らって、彼の背中が浮くであろう地点めがけて崖の端を蹴ってかかとから水面に落ちる。
グレガーは水中の穴の真ん中を通り抜ける、端は大きな体が引っかかりそうなのだ。
ミカエラの狙い通りにグレガーの右肩に左足の踵が食い込む、とミカエラのストッパーの役割をグレガーにさせて穴に泳ぎ出す、これはレースでタイムを競うのだ。
ミカエラに右肩を踏まれたグレガーはバランスを崩すも、慌てて水を手でかいてミカエラの後を追った。
飛び込んだ選手たちが穴に吸い込まれるように泳いでいる。
滝つぼから浮上すると濡れて重くなった体で傾斜度120度の壁を登る。
グレガーには全く向いてないが、ホールドの色を選んで登るほどの技量が無いので手の届く範囲のホールドを選び、6メートル上のゴールを目指す。
ミカエラはざっと点数の高そうなホールド見回して飛びついて行った。
クライミングから3本しかない空中ウォークと呼ばれる10センチの幅しかない橋の上を30メートル歩く。橋を落ちれば滝つぼのプールにまた落ちる。プールからもう一度クライミングが待っている。
ロックイーゼンの選手に選ばれるには総合的に様々な筋力を求められる。例えば筋肉お化けのようなグレガーでも走力と跳躍力も並み以上にある。
空中ウォークをクリアしぶんぶんと大型キノコが回っているエリアに到着する。
当然吊られて回っているキノコの下の部分につかまって、水辺の浮き島に着地してビックウェーブに向かう。
慎重に足を使った選手たちはキノコの大きさやその速度を吟味しながら飛びつかなければならない。
キノコの傘下に飛びついて回りながらずり落ちて、浮き島に転がり込む者や、腕力を頼りにへばりつき
回転するキノコを利用してふわりと浮き島に着地する選手もいた。
多くの選手は、先に成功した者と失敗例とをよく見ていた。
「お願い大波の前で待っててね」
ミカエラがしれッとグレガーに声をかける、同じナランハのメンバーである。
先にアンネマリーもカレリンもキノコにぶら下がって小さな浮き島に着地している。
次から次に他の選手がキノコに縋りつき振り落とされて行く。
ちらりと後ろに居るグレガーの肩をミカエラは見る、少し赤くなっているの気のせいか。
水に片足浸かりながらもミカエラも浮き島に着地出来た。大波の前まで来るとアンネマリーとカレリンが後からやって来たグレガーを見ている。
「すまん、腕が上がらない今日はバラで行こう」チーム戦は諦めてバラバラで他の選手に上げてもらおうと提案してる。
アンネマリーとカレリンは顔を見合わせると。
「わかった、。私とカレリンが手を組んでグレガーを放り投げるから、グレガーは残った片手で波をよじ登れる。?」せっかくナランハのメンバーが揃っているのにここでばらけるのを二人は嫌がった。
「うんやってみる、すまん」メンバー二人の提案に唇を引き締めて謝る。二人の即座の判断と心意気に感謝する。
「助走をつけてね」とアンネマリー。
「着地は、前転をして転がるのよ」はカレリン。チームが勝つためには最善の方法を取りたい。
カレリンとアンネマリーが互いの手首を持つと走ってくるグレガーを待った。
青い顔をしたグレガーは半分諦めた悲壮な顔で走って左足を二人の組んだ手を踏み台にした。
カレリンとアンネマリーがグレガーの体幹を信じて、グレガーの体重を半分ほど手に感じた時に波へと振り上げた。
三人の力加減が目測通りなら、波の頂点にまで放り投げられる。
グレガーの横に広い身体がゴロゴロと波の上を転がった
「良し、うまく行った。」アンネマリーがほほ笑むと。カレリンはうなずく。
「あら今日はスタイルが違うのね、私も良いかしら」とミカエラが声をかけて走りはじめ
グレガーを跳ね上げた二人の重なった手を踏んで飛んだ。
軽々とミカエラが波の向こうに消えると。
「アンネマリー、私がしんがりを務める。」
カレリンは両手指を組むと波の下に立った。
周りはまだ回転するキノコから浮き島に到着してる選手は少なく
一人で登るべきか、それとも後から遅れてやってくる仲間を待つか考えあぐねている選手がちらちらとナランハの選手を見ている。
アンネマリーが助走をつけて走りカレリンの手に足をかけると、両手に乗った足を思い切り後ろへと放りあげた。華麗にアンネマリーは一回転すると着地をさっと腹ばいになってカレリンに声をかけた。
「いいわよ」
軽く助走をつけてカレリンは跳躍して2メートルを超えた波の先にぶら下がる。
突起物は無い。じりじりと指先だけを這わせ登る、と腹ばいになったアンネマリーがカレリンの手首をつかむ、そこからは早かった。
カレリンはアンネマリーの腕を手でつかむとアンネマリーの上を駆け上がり
アンネマリーの足を掴み引き上げて二人は次の大玉に向かった。
カラフルな虹色に染められた大きな球体が柱にぶら下がっている。球体を吊り下げているの乾燥していない接着剤だ。
穴だらけの大玉は決まった重さで外れるようになっており、人間が7人から8人乗れば下の床に落下し障害物ににぶつかりながら緩やかな傾斜を下って行く。ロックイーゼン最大の見せ場である。
その大玉を追って行くも良し、乗って行くも良し、転げた大玉の止まった岩をよじ登った先にあるゴールを切る。このレースはナランハの圧倒的勝利は目に見えていた、ただロックイーゼン始まって以来の故障者が出ることになったが。