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下弦の月  作者: KOUHEI
3/11

舞台裏

「オウエンはまだ戻ってこないのか、さっさと戻ってくるように言え」

インカムでサイモンに怒鳴られたスイッチャーは20もあるモニター画面の中からこの会社のNO2を探さなければならない。

壁面に並んだモニターから小さな人影を求めてズームアウトを繰り返している。

「滝の正面の画像が出て無い、臨場感を出すには一瞬だが必要だ、わかって無いなー」

とサイモンは頭をかく。

スイッチャーはすぐに傾斜のある壁にぶら下がって作業をしているオウエンを見つけた。

オウエンは選手らが手をかけるホールドの点検をしている。

「呼びかけますか」

サイモンはちらりとランプのついているモニターを見ると、やれやれと言った顔をしてため息をついた。まだやっているのかとは声に出さない、その場に居た人間ならばしっかりとサイモンの言いたいことは理解していた。

オウエンの安全点検はレース前もレース後もきっちりやる。

そのお蔭かロックイーゼンが始まって5年、選手は一人も使われている器具では故障者は居ない。

サイモンは首を横に振った。


安全点検を終わらせない限りスタートをさせない頑固なオウエンに嫌悪感が顔に出る。


サイモンは手に持った台本に気が付くと、

「進行係と解説者はかごに入ったのか。台本はかごに置いたよな、一言一句間違えないようにきつく言っといてくれ」とニンマリ笑った。

台本には演出家の名前は書いてない。が、きっちりと但し書きには特定選手の名前を連呼するように書いた。

しかも抑揚をつけて。たくさんの細かい感嘆符も書き入れた。


後は自然に個人の驚きとしてその選手の名前を言うだけだ、進行係は役者並みの演技力で選んでいるから問題はない。

問題は定点カメラと、遠くから動きを狙っているカメラマンが、彼女を彼をうまくズームアップするかだけであった。


大きなドームの中で中腹よりやや高めの位置で横に広い穴がある。その黒いゴムのカーテンの奥には

色分けされた、80人の新人が待っていた。


ロックイーゼンの競技場は自然石風に化粧はしていてもコンクリートでできている。

サイモンに言わせると滝つぼに落ちる選手を水に見立てて、水深20メートルのプールに落下させて水中の洞窟を潜り抜け、カラフルなホールドが一杯の壁をよじ登り空中に3本ある丸太の橋を渡りきり、

ゆらゆら揺れるぶら下がった丸太に飛びつきその反動を利用して、5メートル下の飛び石に着地し、ビックウェーブの前に降り立つ、

大きな波の先までは2メートル以上の高さがあり。その波の背を越えると大きな穴だらけのボールが待っている。

コンクリートの波の次はチーム戦で分けられた色のチームと、または別の色の選手と組んでゴールに駆けこむ。大玉運びのような物だ。


進行役の男性がかごから降りてきて満員の観覧席に向かってコースの説明を始めた。


ツインドームのつなぎ合わせの位置に洞窟に見立てたスタート地点の、

ゴムでできた重いカーテンの奥では。8カラー、80人の選手達が、ケガ防止とアピールする筋肉を見せるためのウエットスーツを皆着込んでいる。顔にはその指定のカラーのばってんがあり

遠目にもズームアップにも個人を特定できないようになっていた。


80人も選手がいるのに穴の中は空調が効いていて暑くはない。

10人ずつ固まった色の選手たちに心得を伝えるべく、古参のカラーのリーダーが声をかける。


「ナランハのソーサーだ」

「グレガー」「シドセル」「スラアラン」「アンネマリー」「ミカエラ」「パオレッタ」「ビレーデ」

「ゾルトハイム」「カレリン」「パントウラ」


新人の口から出る名前を噴出さずに聞き流す。

ソーサーはサイモンの愛称付けはあいも変わらずで、どこから想像して持ってきた名前なのか、そのセンスの悪さに小さくため息が出た。


「今日のレースは下見だと思ってくれ。順位を考えていたら大事な情報を仕入れられなくなる、例えば水から上がった後の身体の重さとか、壁のホールドの高さとか、無駄に力んでしまうと最後まで筋力が持たない。ああそれとビックウェーブでは、皆で協力して超えるのがベストだ、他のカラーの者を利用しても良いが、引き揚げられないと騒動の元になる。落ち着いて対処してくれ」


ソーサーは新人の中でも特別に美しい女性に向かって語っていた。

顔をペイントで塗られていても華やかな美しさに目が引きつけられる。


ソーサーの説明中にミカエラと名乗ったちょっと魅力的な女性が、しげしげと隣の女性の胸元を見ている。

「ねえ、それ本物。邪魔にならない」

話しかけられたのはカレリン。ほっそりした体形で少し胸元が膨らんでいた。

「あら良いんじゃない、男性の方だってそれくらいの胸のお肉はついててよ、ね」

答えたのはアンネマリー。

優しげなほほえみでミカエラから隣の筋肉隆々とあるグレガーをみる。


「嫌だー必要ないでしょう」んふふと笑うとなぜかほんの少しミカエラの顔のバランスが崩れた。

笑わなければミカエラも完璧な美貌だ、だがアンネマリーの美しさには負けていた。


改めてカレリンは周りの女性たちの胸元を見まわした、確かに選手たちは女性らしい胸の膨らみとはいえず皆筋肉質である。

ミカエラと名乗った選手は上半身は細いが、腰から太ももにかけて太くしっかりして居る。


ペイントを塗っていても美貌が損なわれないアンネマリーはもっと筋肉質で、鍛えていない筋肉は無いのではないかと思われた。カレリンの視線ににこりとアンネマリーは微笑むと

「鍛えているでしょう、時間かかっているのよ」と小声で言った。


新人を集めた研修室という名前のトレーニングジムで、なんどか隣同士になったことのあるアンネマリ―とカレリンは視線を合わせて笑った。


ミカエラは最初のターゲットにカレリンとビレーデを選んだ。

競技施設内の器具では故障者は居ないが、選手同士のぶつかり合いは別だ。

20メートルの滝から落下し、踵から落ちてぶつかれば骨の一本や二本は折れる。

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