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下弦の月  作者: KOUHEI
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峡谷のレース

深い峡谷に突き出した大きな岩場がある。岩場には中央に高い岩山があり岩山を中心に

粗末な敷物や台が置かれて山菜や干した芋や毛皮などがぐるりと並べられていた、


中央の岩山の上には周囲の市場には目もくれない村長が立っており、

選手の数を数えるのに必死な役人に早くしろとげきを飛ばしている。


村長は岩のそばに集まっている若者たちをイライラしながら見ては

段々畑の、中腹、一番広い畑に乗り入れている大きなキャンピングカーを見上げては作り笑顔を浮かべていた。



「時間厳守とは・・無理かの」つぶやいたのはロックイーゼンのオーナー。


サイモン・トスは布を張っただけのパイプ椅子に飽き飽きしていた。

10分20分ボーっと景色を見るだけならキャンプ用の椅子でもいいかもしれない。

しかし美しい峡谷の景色は一晩で飽きていた。


「谷の下まで光が届いていないのでは、危険ですからね」

サイモンの独り言にオウエン・アワーズは返事をする。

「ほら町長が手を振っている」

オウエンがサイモンの代りに町長に手を振る。サイモンは指一本動かす気はない様だ。


山間部の市場の中央に集まった若者たちを、役人が黄色の紙紐を引っ張って揃える、町長に手を上げて合図を送る、町長は胸の前で手をびしゃりと合わせた。

手を叩いただけの音が集まった50人以上の若者に聞こえず役人の「行け!行け!」の声で

若者たちは市場の岩場から谷底に向かうくぼみのような道に駆けて行った。


「なんだ、走る姿も見えないのか、ずるのし放題だな」

若者たちの走るコースを設定したのはサイモンである。


オウエンは市場が開かれる広場のような岩場から、キャンピングカーのある段々畑を登って農作業用道路を二周を、上がり下りをさせてはどうかと言ったが、

ロック、岩を使ってこその選手の選別であるとサイモンがかたくなに反対して

峡谷のがけ下底を走る川に白い石を置いて

一番に取ってきたものをロックイーゼンのメンバーとして迎えると言い出して難関のコースになった。


ロックイーゼンはエリオン市の一大娯楽場産業である。

もとはと言えばオウエン・アワーズ親子が広大な荒れ地に木を植え、美しい森にした事からトレッキング好きが集まり岩登り競争が行われ伐採した丸太を使い川まで運ぶのをレースにしていたのが始まりだ。


静かな山々に囲まれた連なる段々畑とは、異なる姿を見せる対岸の峡谷の岩だらけの斜面をあの若者たちは必死に駆け上ってきている。


「何か布を振っている様子ですね、降りていかれてはいかがですか」とオウエン

「いや良い。持ってこさせればいい」


二人が見下ろしている中、突然崖に吸い込まれるように消えてなくなっていた道から、人影が表れて市場の真ん中の岩山で待つ町長のところに一人若者が駆け寄った。

役人が若者から白い石を受け取り、町長に渡すと、白石を掲げて

町長が叫んだ。

「この者が、一番じゃ、ロックイーゼンでの活躍を期待しよう!」露店を見ていた客らがパラパラと拍手を送る。


町長の叫びを聞きつつ、サイモンは自分の作ったストーリがいかに陳腐であったかを思い知った。

レースにはストーリーが必要なのだ。これはサイモンの信念だ。

優秀な選手の故障話とその復活劇をレース中に語れば単調なレースも視聴者にはドラマチックに見える、

まして誰も知らないような山奥から原人のような体躯の若者が、都会の洗練された選手らに交じって競技を行う、そんなストーリーを思い描いて、国境に近い山の又奥にまでポスターを張って参加者を呼び集めたというのに、集まった若者たちは皆ほっそりしていてこれと言って特徴が無い。誤算だ。


町長が一番最初に戻って着た若者に契約書という褒美を与えていた。

「オウエン、後は任せた。スポーツ歴は適当に作って書類を作成してくれ、、こんな糞田舎じゃ運動のしようがないものな」とサイモン。

さっと腰を上げると豪華なつくりのキャンピングカーに入って行った。


サイモンはソファに座り込むと卓上のタブレットを起動させる。

新しく選別したロックイーゼンの選手達の資料が呼び出されている。

六期生になるメンバーが画面に表示されると。

氷点下まで落ちていたサイモンのやる気が戻って来てた。


「こいつは美人だ、いいぞー」

「オウエンが戻り次第車を出せ、街に戻るぞ、田舎はもういい、何もないのだけはわかった」

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