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【完結】元婚約者としては誠に遺憾だが、王弟殿下には破滅していただく。~奴らにボロボロにされた元ヒロインは、私が責任をもって幸せにします~  作者: れとると
6.赤い縁~愛される女としては誠に遺憾だが、妄執深き悲恋は最期まで見届けさせていただく~
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6-8.縁とは未来を紡ぐもの

 輝きのない赤い糸からサクラに、ミモザの戸惑うような心の揺れが、伝わる。


 きっとサクラからミモザへも、想いが伝わっているはずである。



(あなたが、時間をかけて私に寄り添って。

 たくさんの……希望を与えてくれたように。

 私も。お二人の見せた希望を、ミモザに繋がなくては)



 届くのが遅かった、二人の〝縁の糸〟を想い。


 そこから伝わった、強い願いを想い。


 サクラは、ミモザの左手を握り締める。



「残されたあなたにできるのは――――伝えることよ。

 スネイル様とティーネ様は、縁を断っていらっしゃった。

 あの方たちのことを知る者は、少ないでしょう。

 あなたが語り、記し、伝えないと。

 あの二人が残した子は……親を知ることすら、できないのよ?」



 サクラの言葉に。


 ミモザは。


 その瞳に、涙を浮かべた。



「だからまずは。私に聞かせて?

 スネイル様のこと。

 ティーネ様のこと。

 ミモザが知っていることを、たくさん」


「――――――――はい」



 時折、涙を零しながら。


 ミモザはたくさんのことを、語った。


 これまでにサクラが聞いたミモザの言葉を、上回るくらい、たくさん。


 最後に、それを明日から書にしたためていこうと、誓い合って。


 語り疲れたミモザは、穏やかに眠りについた。


 その寝顔を、同じ寝床の中で見ながら。


 サクラもまた、様々なことを思い出していた。


 想いを、馳せていた。



(そう。これが、あなたが言っていた〝幸福〟なのね。

 縁がもたらすという、幸せ。ミモザがずっと感じていたもの。

 あなたが知る幸せ)



 サクラは笑顔を浮かべるが……その瞳には、涙が浮かんでいた。



(なんて、切ない。

 縁とはすなわち。

 信じあって――――希望を、繋げること。

 一つの縁が切れても、また別の縁に。

 そうして繋げて生きるのが、〝ブロッサムの魔女〟。

 ミモザが幼いころからしてきた、生き方)



 信じる心が、想いを伝えあう。


 それが果たせなくなったとき、未来を伝える。


 希望を残す。



(本当に……〝桜〟、みたい。

 その散り際までも、美しく、切ない。

 それは来年もまた咲くという、希望があるから。

 私は)



 ミモザはかつてサクラに。


 自分の知る最も幸せ感じられるもの……ブロッサムの技を、サクラに教えたと、そう言った。


 良いこと悪いことがあろうとも、必ずそれが幸福を紡いでくれると。


 ならば。もう次が紡げなくなる、赤い糸は。



(やっと、わかった気がする。

 この赤い糸は。『そうはさせない。幸せはここにある』という……そういう想いの結実。

 出会いと幸福の、終着点)



 次、ではなく。


 今、相手を幸福にしたいという、意思。


 他者への不信ではなく。


 強く信じた相手を、幸せにしたいという思いが。


 糸を赤くするのだ。



(でも、希望は残せる。ギリギリのやり方だし、私は……あのお二人のやったことには、賛同できないけど。

 ここで終わりじゃないんだって、それははっきりとわかった。

 相手の幸せを願って、願い合って結ばれることが、ゴールじゃないんだ。

 もっともっと、先があるんだ)



 スネイルとティーネの行動は、互いの子がほしいという、執念と愛情の結実。


 だが、生み出された子にとっては……ただ苦難を残すだけの選択。


 確かに子が生きるための手配はされていて。しかしサクラはその行いを「無責任だ」と感じていた。


 同時に……それが二人にとっての、限界まで力を尽くした結果なのだとも、理解していた。



(お二人にとっては、そこまでが限界。

 でも私は――――私もまた、〝縁の魔女〟よ。

 きっとその先を、紡いで見せる。

 でも)



 穏やかに寝息をたてるミモザの左手薬指に、静かに唇を重ねて。



(この赤い糸を元に戻して……いつか、私が死んだとき。

 あなたは誰かに私のことを、お二人のことのように、こんなにたくさん話してくれるかしら。

 いいえ。きっと今のままだと、絶望に泣き暮らし、いずれ死んでしまうでしょう。

 わかる。私も、そうだから)



 そうしてサクラは、目を閉じる。



(私たちが、お互いがいなくても、希望を先に繋いでいけるようになるには。

 とても……長い時間が、かかりそうね。

 その原動力が……たくさんの、幸せが要るわ)



 赤い糸の先にある、互いの未来に、想いを馳せて。



(私も、あなたにたくさん、幸せを教えてあげる。ミモザ)



 ゆっくりとその意識を手放す。



(わたし、なんであなたを、すきになったのかわかったきが……きっと――――)



 そうしてサクラは。


 夢の中でも、赤い糸の向こうに。


 先を行く師の背中を、見るのだった。



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【短編版】元婚約者としては誠に遺憾だが、王弟殿下には破滅していただく。

第1話のミモザ視点の内容です。
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