表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

言葉を交わした数は少ないけど

作者: ニコ

 今日。友達が、死んだ。





 でも、凄く仲がよかったのかと言われたらそうじゃない。

 でも、私にとって、人生で最初の友達だった。






 きっかけは、私が意地悪されていた時。

 自分の荷物をまるでゴミみたいに外に放り出されて、

 泣きながらそれを元に戻していた時。


 やった連中はキャハハなんて笑って喋ってた。

 はらわた煮えくり返ったけど相手が強すぎて何も言えない。


 そんな時だった。

 手を差し伸べてくれたのは。



「ダイジョブ?」

 荷物を片付けるを手伝ってくれたのが、その子だった。




「ねえ、あんたさ、はっきり言わないからいじめられんだよ」

 話があると言って、その子は学校の食堂にわたしを連れていった。

 飲み物を奢ってくれて、その子は私の向かい側にズンッと腰を下ろす。


「はっきり言わないって……」

「そう、コレされたら嫌だからやめて、アレされたら嫌だからやめて。これはっきり言わないからだよ」

 だから、

 やってもいいんだと勘違いされていると。

 でも、そんなこと言われても、私、何にも出来ないし、はっきりそんなこと言ってますます嫌われたら、クラスに居場所がなくなるし。

 私がそう言うと、その子はフンッと鼻で笑った。

 え?

「だったら一生そう言っとけば?」

 その子はそう言って、先に席を立った。






 

 その子にそう言われた後も、私は相変わらずの立場だった。

 クラスの中で、まるでいないかのような扱い。

 私にぶつかっても誰も謝りもしない。酷い時はクラスメートの私物が無くなったのを私のせいにされたこともあった。

 さすがにその時は他の子が証言してくれたけど。


 でも、それでも私から何か言えなかった。

 喉の奥に大きな塊が出来たみたいで。言えないんだ。


 元々、親にも言いたいこと言えない人間だから。

 小さいころから、言葉尻を親から兄弟から捉えられて、時として、どうして怒られているのか分からないこともしばしばあって。

 そんなことも手伝って、私はこうなってる。

 一生そう言っとけばって。

 言いたくないよ。私だって。

 そう思ってた。

 その子が死んだ理由を聞くまでは。





 

 その子は、頭に動脈瘤ってのが出来てしまって

 それがいつ破裂するか分からなかったんだって。

 つまり、いつ死ぬかも分からない体だった。

 


 それを先生から聞いた時、クラスのみんながびっくりしてた。

 そんなこと、彼女は一言も言わなかったから。


 いつも明るくて、言いたいこともずばずば言って、好きな様にしてたから。

 

 そんな影すらなかったから……。









 ――だったら一生そう言っとけば?

 

 彼女のあの時の言葉がまた、心の中に響く。


 あの時、どんな気持ちで私に言ってくれたんだろう。

 それを思うと、涙が止まらなかった。


 


 言葉を交わしたのはほんのわずか。

 一緒にいた時間は、ほんの数分。


 でも彼女は、私が人生で初めて

 初めて出来た友達だ。


 たとえ周りがなんと言おうと。私はそう、思ってる。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こころ震えました。 好い物語を拝見させていただき、どうもありがとうございました(●´ω`●) [一言] たとえひと言だけでも、その言葉に救われることはありますね。 一瞬の邂逅のような出会…
[一言]  よかったです。いじめられても反論出来ない女の子と、自由に生きているように見える女の子の少し歪な交流が描かれていると思いました。  「自由に生きているように見える」だけで、病気によって不自…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ