言葉を交わした数は少ないけど
今日。友達が、死んだ。
でも、凄く仲がよかったのかと言われたらそうじゃない。
でも、私にとって、人生で最初の友達だった。
きっかけは、私が意地悪されていた時。
自分の荷物をまるでゴミみたいに外に放り出されて、
泣きながらそれを元に戻していた時。
やった連中はキャハハなんて笑って喋ってた。
はらわた煮えくり返ったけど相手が強すぎて何も言えない。
そんな時だった。
手を差し伸べてくれたのは。
「ダイジョブ?」
荷物を片付けるを手伝ってくれたのが、その子だった。
「ねえ、あんたさ、はっきり言わないからいじめられんだよ」
話があると言って、その子は学校の食堂にわたしを連れていった。
飲み物を奢ってくれて、その子は私の向かい側にズンッと腰を下ろす。
「はっきり言わないって……」
「そう、コレされたら嫌だからやめて、アレされたら嫌だからやめて。これはっきり言わないからだよ」
だから、
やってもいいんだと勘違いされていると。
でも、そんなこと言われても、私、何にも出来ないし、はっきりそんなこと言ってますます嫌われたら、クラスに居場所がなくなるし。
私がそう言うと、その子はフンッと鼻で笑った。
え?
「だったら一生そう言っとけば?」
その子はそう言って、先に席を立った。
その子にそう言われた後も、私は相変わらずの立場だった。
クラスの中で、まるでいないかのような扱い。
私にぶつかっても誰も謝りもしない。酷い時はクラスメートの私物が無くなったのを私のせいにされたこともあった。
さすがにその時は他の子が証言してくれたけど。
でも、それでも私から何か言えなかった。
喉の奥に大きな塊が出来たみたいで。言えないんだ。
元々、親にも言いたいこと言えない人間だから。
小さいころから、言葉尻を親から兄弟から捉えられて、時として、どうして怒られているのか分からないこともしばしばあって。
そんなことも手伝って、私はこうなってる。
一生そう言っとけばって。
言いたくないよ。私だって。
そう思ってた。
その子が死んだ理由を聞くまでは。
その子は、頭に動脈瘤ってのが出来てしまって
それがいつ破裂するか分からなかったんだって。
つまり、いつ死ぬかも分からない体だった。
それを先生から聞いた時、クラスのみんながびっくりしてた。
そんなこと、彼女は一言も言わなかったから。
いつも明るくて、言いたいこともずばずば言って、好きな様にしてたから。
そんな影すらなかったから……。
――だったら一生そう言っとけば?
彼女のあの時の言葉がまた、心の中に響く。
あの時、どんな気持ちで私に言ってくれたんだろう。
それを思うと、涙が止まらなかった。
言葉を交わしたのはほんのわずか。
一緒にいた時間は、ほんの数分。
でも彼女は、私が人生で初めて
初めて出来た友達だ。
たとえ周りがなんと言おうと。私はそう、思ってる。