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両想い

第五章

作者: ひより

高校一年の五月。初めての中間テストを終えた俺は「終わったー」といって大きく伸びをした。

「それはどっちの意味で?」

隣の加藤がにやにやしながら聞いてくる。

「普通に終わったっていう意味だな」

「んだよ面白くない」

「最初だからな。問題は次」

「それな」

簡単なホームルームが終わると、いそいそと部室へ向かった。ようやく走れる嬉しさから、つい早足になる。

「おっ明智あけち...じゃなかった。陽平ようへい

後ろから声をかけられ、速度を緩める。首だけ振り向くと同じ陸上部の大知だいちがいた。

「おう、お疲れ」

「やっと部活だな」

「ああ、やっとだ」

今日の練習は楽なやつがいいなーなどと言いながら一緒に部室へ向かう。一番乗りだった。続々と同級生や先輩が来る。先輩たちは早速テストの答え合わせをしていた。不意に俺ら一年に話題を振る。

「一年はいいよな、最初だから超簡単だったろ」

「けど次は容赦ないから覚悟しとけよ」

「そうなんすか」と大知の顔が引き攣る。俺も同じ気持ちだった。

グラウンドに集合し、今日の練習メニューを確認する。基本的にはウォーミングアップに近い軽い内容だった。もうちょっと走りたいところだが、久しぶりの練習ということを考えると妥当に思えた。

「短距離アップ行くぞー」

リーダーの呼びかけに「はい!」と応じて走り出した。



「あーあ、走り足んねー」

陸上部一年男子数名で帰っていると、隣を歩く大知がぼやいた。俺も同じ気持ちだったが、自分に言い聞かせるつもりで釘を刺す。

「いきなりやり込むと故障するぞ」

「わかってるって、言ってみただけ」

大知にはこういう、子どもっぽいというかお調子者みたいなところがある。それはたった一ヶ月でわかったが、だからといって慣れたわけではない。

「そうだ、みんなは女子部員で誰がかわいいと思う?」

おいおい…と出かかった言葉を慌てて止める。他のやつらも「待ってました」と言わんばかりの顔をしていたからだ。どうやら呆れたのは自分だけらしかったので、さりげなく最後尾に移動する。そんな俺に気づく様子もなく「俺、橋本さん」「あー美人系な」「かわいいっていえば土屋先輩かなぁ」「わかるー」と盛り上がっていく。「二人で戯れてるのがいい」「もはや存在が癒し」とよくわからない言葉も聞こえてきたが黙って歩く。

「陽平は?」

大知に振られた瞬間、日向の顔がよぎった。

「そうだな…年上はかわいいって感じじゃない気がする」

「てことは橋本さん派かー」

いつの間にか二択になっていたらしい。答えを聞いて満足したらしくまた戻って盛り上がり始めたし正直何でもよかったので何も言わなかった。

部員の誰かにバレたら、あっという間に広まりそうだな…気をつけよ。盛り上がる同級生を尻目にひっそりとそんな決意をした。



月末の土曜日。この日の部活は午前練習で、野球部とグラウンドが一緒だった。トラックを走ってきた大知が「ったく気に食わねー」と吐き捨てた。

「どうした?」

「野球部の前通るときに、陸部のせいで練習にならねーって聞こえてさ。明らかに聞こえる音量で言われんの」

「それは…気に食わないな」

「だろ?お互い様だっての。こっちが走るときはボールを飛ばさないようにしてもらってるけど、逆に飛ばすときはこっちが半周しか使えないっていうルールなんだから」

走ったせいか興奮したせいか、鼻息荒く捲したてる大知。どうにか落ち着かせないと、と思っていると、近くで聞いていた先輩に「まあまあ」と声をかけられた。

「勝手に言わせときな。集中力を試されてるんだよ」

「おー、なるほど。つまり俺の集中力ゼロってことですね!ってひどい!」

「そこまで言ってないぞー」

ドッと笑いが起こる。お調子者も時と場合によってはムードメーカーになるようで、入部したての頃ガチガチだった俺たち一年が打ち解けることができたのも、実は大知のおかげだと俺は思ってる。

お調子者っていうと聞こえ悪いよな。たまに空回りするムードメーカーってことにしよう。

昔もらった言葉を教訓にそんなことを考え、よしっと頷く。野球部の印象は悪くなったが、大知の印象は良くなったようだ。

練習が終わると、急いで制服に着替えて学校を出た。昨日発売されたばかりの新刊を買いに行くと決めていたのだ。自転車を走らせショッピングモールに着いたのが午後一時前。真っ先に本屋へと足を向けた。

「あった」

お目当てのブツを見つけほっとする。レジでブックカバーをつけてもらい、フードコートまで移動した。手っ取り早く一番手前のたこ焼き屋で二人前買い、店から程近い席に着いて腹を満たすと、早速本を開いた。

しばらく経ち、ふう、と本を閉じて腕時計を見る。もうすぐ三時。何か買って帰るかーと何気なく右から左へと辺りを見渡し、固まった。知ってる顔がそこにあった。つい数ヶ月前まで教室でよく見ていた顔。知らないのは見に纏う制服と話してる男。

誰だあいつ…。二人とも似た色の制服だから同じ学校なんだろうけど。二人きりか?デート?まさか。まだ五月だぞ?つーか男の方、よりにもよって野球部だし。いやまあ、彼にとっては完全に濡れ衣だけど。

楽しそうに笑いながら遠ざかってく二人を未練がましく見ているとクレープの店に並んだ。他に同じ制服っぽい姿はない。やっぱりデートなのか。俺もクレープ買いに行って偶然を装って話しかけてみようか、なんて絶対行動に移せないことを考える。そうこうしてるうちに二人がクレープを持って出てきた。そのままフードコートから遠ざかる。幸いにも「一口ちょうだい」とか「あーん」とか、いかにもカップルがしそうなことはやらなかった。やっぱりまだ付き合ってるわけじゃないんじゃ…と都合よく解釈する。

にしても、高校の制服姿、可愛かったなー。

しばらく悶々と考えていたが、頭を振って中断する。帰ったら気分転換に走りに行こう。とりあえずそう決めて早々に帰ることにした。


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