第5話 お前は俺にとって…‼︎ アンタは私にとって…‼︎
遅くなりすみません。なるべく次回からは早く投稿します。
林間学校2日目になった。朝起きてジャージのまま蓮は、下の階の食堂で行われる朝の朝礼に向かう。向かう途中、階段の近くで蓮は詩織とすれ違った。
((あ…))
「なぁ、若月…あのさ昨日は…」
昨夜の失言を弁解しようとする蓮だが、詩織は無視し通り過ぎる。
昨日の弁解ができないまま朝の朝礼が終わった。朝ごはんの時もお互い無言のままで翔太と菜穂は、食べながら二人の様子を見つめていた。
朝食を終えて午前中は、班ごとに施設内の掃除をした。だが蓮と詩織は、ムスッとしお互い黙ったまま離れた場所で掃除していた。翔太と菜穂は掃除しながら二人を心配そうに見守る。
「なぁ、お前ら、どうしたの? 」
「「はぁ? どうもしてないし」」
翔太に聞かれ蓮と詩織は、お互い同じ発言をしてしまった。
「仲…良いんだな。二人とも」
「「はぁ⁈ 誰がこんな奴と‼︎ 」」
詩織と蓮は、あまりにも息ピッタリ同じ発言をしてしまい
「「真似すんな‼︎ 」」
とお互いに怒鳴りあった。
「なんかあったの? 二人とも」
と菜穂が聞くと
「「何もない‼︎ 」」
と詩織と蓮は揃って答えた。また真似しやがって‼︎ と言いたげな怒った表情で蓮と詩織は互いに歪み合う。
それからお昼も、午後のウォークラリーでも2人は、口を聞くことはなく気がつけばあっという間に夜になり2日目最大のイベント、「肝試し」の時がやってきた。
男女2人でペアを組んで林間学校をスタートして事前に先生が決めたルートを歩いて最初のスタート地点である林間学校につくというものだ。
ペアは、各クラスそれぞれクジで決める。蓮たちのクラスもみんなそれぞれクジを引いていく中、詩織はどこかそわそわした様子だった。
蓮が引いたクジには、「23」と書かれていた。つまり蓮は、「24」のクジを持つ人とペアを組むことになる。誰だろう…と周囲を見回していると偶然にも詩織と目があいお互い全てを察した。詩織の持っているクジは、「24」、つまり蓮は詩織と周ることになったのだ。
全クラス、ペアが決まりクラス順にスタートしていく。蓮たちのクラスもスタートしていくが詩織は、蓮の袖を掴んでスタートしていった。
しばらく歩いていると詩織が
「ねぇ、橘、ちょっといい? 」
「なんだよ? 」
「私、橘に言わなきゃいけないことがあるの」
「なんだよ? 」
「実は私、すっごく怖いの。お化けが」
「ぷっ…あっはははwwwww。もしかしてそれでずっとさっきからくっついてたの? 案外可愛いとこあんじゃんw お前w 」
「フンッ!! 」
思い切り大笑いする蓮の脛を詩織は、強く蹴った。
「だぁっ!! 」
「笑うな!! クソ橘!! 」
(ガサガサ…)
林から聞こえるガサガサ…という不審な音に2人は、なんだろうと音が聞こえてきた方をじっと見つめる。
「私、怖い…。橘、先に行って…」
普段の強気な感じとは違い、蓮の後ろに隠れ怯えたような声をだす詩織。蓮は恐る恐る林の方にゆっくり近づいていくと林の方から
「わぁーーっ!!」
と落ち武者の仮装をした先生が出てきた。
「きゃぁっ!! 怖い!! 」
詩織は、ぎゅっと蓮の背中に強くくっついてきた。
(まさかコイツにこんな一面があるとは…。なんだろう…、急にコイツが可愛く見えてきた…。って俺はなに考えてんだよ!! 一瞬でもコイツが可愛いと思っちまった!! )
「行くぞ!! 若月」
蓮は、詩織を守るように詩織を手でガードしながら先を急いだ。
「ハァ…怖かった…」
「お前、ビビりすぎだろ。あんなん作り物だぞ」
「うぅ…それが逆に無理なの…。お化け苦手なんてダメだね…私」
「別にいいんじゃない? 苦手な物あっても」
「え…」
「さっきは、笑ってごめんな? 誰にだって苦手な物ってあってもいいと思うよ。そういうのを抱えながら生きてる人っていっぱいいるんだからさ」
「橘…。私も昨日はごめんね…」
(あれ…なんだろう、この気持ち…。私…橘のことが…、って何考えてんのさ、私‼︎ コイツのことを一瞬でも…)
蓮の言葉に詩織の頬がほんのり紅く染まる。詩織は、今までとは違うような心の中が暖まるのを感じた。
「いいよ。行こう、若月」
「うん! 」
その後、詩織は蓮にくっつきながらお互いに楽しそうにルートを周り無事林間学校に着いた。
「えぇ〜。いいな〜詩織。橘君と楽しそうにして」
その夜、就寝間近、詩織達の女子部屋では肝試しでのことを話した。
「そんなにみんな橘のどこがいいの? 」
と質問する詩織に菜穂は
「じゃあ聞くけど詩織はさ…橘君の何が嫌なの? 橘君に会わない方が良かった? 」
(え…)
詩織は、今日までのことを思い返してみた。突然の蓮との出会い、大輝に別れを告げられたあの日の夜のこと、吹部のコンクール前のこと、蓮はいつも助けてくれた。詩織は、全て嫌な思い出ではないと気づいた。
「菜穂、私、橘のとこ行ってくる」
今ならまだ間に合う。橘に今の気持ちを伝えたい、そう思って詩織は、蓮のいる部屋がある一階の方へと階段を駆け降りていく。途中、先生とすれ違い「おい、もう寝る時間だぞ」と言うがそれを無視して1階に向かう。
階段を降りて詩織は、左右を見回して蓮を探す。ちょうど同じ部屋の仲間と部屋に戻る蓮を見つけて
「橘ー‼︎ 」
と大きな声で叫んで呼ぶと蓮は、詩織の方を向き
「何? 」
と叫んだ。
そして詩織は、
「私ー‼︎ 橘のこと、大事な友達だって思ってるからー‼︎ 」
と大きな声で言った。
そして蓮も
「俺もー。お前のこと大切だって思ってるからー」
と大きな声で返事した。
「橘…。ありがとうーッ‼︎ 」
と詩織は、蓮に向かって大きな声で叫んだ。
詩織と蓮は、この林間学校を通してお互い大事な関係であることを自覚したのだった。
林間学校2日目が終わろうとしていた頃、ある1人の少女が夜の街中を一人歩きながら
「久しぶりに蓮に会いに行こうかな」
と呟いた。