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さよなら、魔法のランドセル

作者: ヤギマルケイト

「GC短い小説大賞」参加用作品のため、1投稿内にそこそこの文字数が詰め込まれております。


いくばくかのお時間を頂くことになるかと思われます。

どうかご了承ください。

「──それじゃあルリちゃん。これで今度こそ本当にお別れだ」

 体と瞳をぷるぷるさせながら、悲しそうな顔でプルルは言った。


「うん」と私も小さくうなずく。

 悲しくないと言ったら嘘になる。


「キミと過ごしたこの1年間は、ボクにとって最高の想い出だよ」

「まぁいろいろあった……けどね」

「ホントホント。でも……それも含めて、やっぱりとても素敵な時間だった。そう思う」

「うん。……そうだね」


 この光景は、他人からはどう見えているんだろう。

 子供がぬいぐるみに向かって一人で話しているように見えるだろうか。

 それとも……季節の節目にアニメの最終回なんかでよく見かける、戦いを終えた魔法少女とそのパートナーとの感動的な別れのシーン、そんな風に見えるだろうか。


 それが正解なのだ、と言ったら、果たしてあなたは信じてくれるだろうか。


 本当に私は魔法少女で、

 この謎の生き物はそのパートナー。

 今まさに、別れの時が訪れているのだ、と。


「キミと出会ったあの日のことを、まるで昨日のことみたいに覚えてるよ」

 目を閉じ、しみじみとプルルが語り出す。

 彼はパッと見カワイイし根はいい奴なんだけれど、ちょいちょい説教臭くて、話し出すとやたら長くなるのが難である。


「ボクはそう、あの時──」

 どうも長めの想い出語りが始まったっぽい。

 お別れだと言いつつ、実際に別れの時が訪れるまでにはまだしばらく時間がありそうだ。


 私は軽く相づちを打ちながらプルルを見る。

 ちょっと涙ぐんで……みたりなんかして。

 別れの寂しさを必死にこらえている……顔なんかしてみせたりもしながら。

「なのにキミときたら──」


 だけど。


 正直この時の私は、まったく別のことを思っていた。



 どうか頼むから、

 お願いだから、


 早く帰ってくんないかな。


          ☆


 一応、自己紹介をしておく。


 私の名前は小山内(おさない)瑠璃子(るりこ)


 魔法少女ミルキールリィ──なんて名前で言ったって知らない人の方が多いかな。

 でも、中には、見覚えがある人もいるんじゃないかと思う。何だかヒラヒラした可愛らしい衣装を着て真っ赤なランドセルを背負って、リコーダーにもなる魔法のステッキを手に悪い怪人と戦う、小さな女の子の姿を。

 確か本当は存在も戦いも秘密って言われてたはずなんだけど、まぁアレだ。いろいろ面倒くさくて、この際細かいことはいいじゃん的ノリとか勢いで、ちょいちょい人前で戦っちゃってた気もするから。


 そう。あれが私だ。


 ある日、魔法界からやってきたぬいぐるみみたいな不思議な使者プルルと出会った私は、伝説の魔法少女とやらに選ばれてしまい、変身して戦う魔法の力を与えられ、この世を悪夢で満たそうとするくらやみ魔女ネムレーヌとその一派の手からみんなの笑顔と世界の平和を守るために──ってまぁその辺はいいか。

 いや別に世界平和がどうでもいいってわけじゃないんだけど……

 終わった話だし。


 そう。

 いろいろあったけど──いや本当にいろいろあったんだけど、

 とにかく、どうにかこうにかくらやみ魔女に勝利した私は、その力と魂とを封印することに成功した。


 長い戦いは終わった。

 世界には平和が戻ったのだ。

 たぶん。


 そして、全ての使命を終えたプルルは魔法の世界へ帰ることになり、私は魔法のアイテムと力を彼に返し、いよいよ別れの時が──


 って今ここ。


 魔法少女アニメなら最終回の後半、感涙必至のクライマックス。まさしくそんなシーン。

 感動のエンディング。

 とてもいいとこ。


 の……はずなんだけど。

 普通ならそうなるのが当たり前なんだけど。



 ひとつ、断っておかねばならない。

 声を大にして、はっきりと言っておかなければならない。


 魔法少女だなんて堂々と名乗っちゃいたわけなんだけど……

 私は、少女じゃない。

 全然、まったく、少女じゃない。


 今年で21になる。


 立派な成人女性だ。

 現役マックスの大学生。新入生どころかむしろ卒業の方が近いところに立っている。

 ……はず。たぶん。

 お酒だって飲める。

 実際飲んでるし。ビールよりも芋焼酎が好みだ。お湯割り最高だよね。


 魔法少女のお約束という奴なんだろうか。私もご多分にもれず「何の取り柄もないごくごく普通の女の子」としての人生をここまで歩んできた。

 小さい頃はテレビの魔法少女や戦うヒロインに憧れたこともちゃんとある。

 まさかこの歳になってチャンスが巡ってくるとは思ってもみなかったけど。



 悩みが、ある。


 1つ。大きな。とても大きな。

 悩みというかコンプレックスというか。


 外見。

 私の……見た目の話だ。


 魔法少女としての私の姿を思い出してほしい。

 可愛らしいコスチュームに身を包み、赤いランドセルを背負った元気な小学生。

 そんな風に思っていた人が多いと思う。実際町の声を聞く限り、ほぼ例外なくそう思われてたっぽいし。


 あれは、変身した私が魔法の力で子供の姿になっていた……

 わけではない。


 あのままだ。


 何も変わっていない。


 確かにコスチュームやらアクセサリーやらは魔法少女のそれに変わってはいたんだけど、それ以外の見た目というか、私自身はそのまま。

 背丈も容姿も体型も全部。

 鏡で毎日見る、いつもの私のまま。

 何ひとつ違わない。


 あのまんま、だ。


 あれが、私の姿だ。


 もう一度はっきり言っておく。

 私は少女じゃない。

 断じて少女ではない。

 れっきとした、大人の女である。


 昔から──と言ってももちろん十代半ば過ぎくらいからの話ではあるけれど、この見た目が本当にコンプレックスだった。


 まるで伸びない背。

 あからさまな童顔。

 もう口に出して表現するのもいいかげんイヤになってくる、それはそれはもう素敵すぎるボディライン。


 歳相応に見られることなんてまずあり得ない。

 間違いなく、子供だと思われる。


 大抵は中学生。高校生以上に見てもらえた場合は十中八九気を遣っていくらか盛ってくれた結果だ。本心でそう思っているわけじゃない。ヘタすると小学生にすら間違われる。


 若く見られていいわね、なんて好き勝手なことを言う輩もちょいちょいいるけど、つくづく思う。そうじゃない。全然判ってない。

 「若々しく見える」と

 「小さな子供にしか見えない」は

 似て非なるものである。

 違う。

 全然違う。


 私は子供に間違われたいわけじゃないんだっ。


 休日、一人で町に買い物にでも出ようものなら、しょっちゅう補導員に声をかけられる。

 警官ならまぁほぼ100%だ。

 説明がまた面倒くさい。免許も何も持ってないもんだから。

 身分を証明できるのは学生証くらい。それも出したところで一発で納得なんてしてはもらえない。何か怪訝な顔をされる。イタズラかおもちゃか何かと思われる。挙げ句わざわざ大学まで連絡されたりとかもする。

 ようやく納得してもらえたところで謝りもしない。むしろちょっと面白げに笑われたりとかする。さんざっぱらそれをやられる側のこっちにとってはひとつも面白い話じゃない。

 子供に見える私が悪いってのか。


 大きな商業施設なんか歩いていると、迷子だと思われる。日常茶飯事だ。

 買い物でちょっと大きなお金を出したりすると、何だか怪しい目で見られる。誰の財布からも盗ってない。私のだっつーの。


 スーパーなんかで買い物してると、今度は逆に偉いわねぇ、とか言われる。たかが夕食の買い出しに偉いも偉くないもあるか。

 アメとかくれたりする。


 映画館やバスなんかの場合、何も言わなければ確実に子供料金を告げられる。

 正規の金額を払おうとすると、親切にもちゃんと間違いを指摘してくれる。

 間違ってないんだよっ。

 大人なんですけど。

 いっそ開き直って子供料金を払う、という手もあるし、そうすりゃ安く済むわけだけど、そこはそれ、プライドの問題だ。

 受け入れたらおしまいだと思う。


 名前が名前なもんだからまたややこしい。

 「オサナイです」と名乗ると、相手は私をしばし眺めた後、あぁなるほどとばかりにうなずいたりする。ちょっと意味ありげな含み笑いなんか浮かべたりして。

 言わなくても大体何を思ったかは見当がつくし、なるほどじゃねぇよ、と思う。

 好きでこんな名前で生まれたわけでも好きでこんな顔してるわけでもないんだよっ。


 さらに一歩進んで、おさないロリ子、などとぬかしやがる阿呆は、まず間違いなくついうっかりのふりをした極めて悪質な確信犯の大バカ野郎なので、問答無用でグーでぶん殴ることにしている。

 生まれた我が子に「ロリ子」なんてド阿呆な名前をつける親がどこのマルチバースにいるかってんだっ。

 阿呆かオマエはっ!

 阿呆かっ!

 ドアホっっ!!!



 …………とにかく。


 100パー七五三に間違いない、と友人たちにもそれはそれは大好評だった成人式を経て、いよいよこれはもう何とかしなきゃいかんだろと確信したまぎれもなく大人の私は、どうにかこの不愉快な現状を打破すべく、努力することを決意したわけだ。


 外見はもう変えられない。

 でもメイクやファッションひとつで、パッと見のイメージはかなりコントロールできる。


 あまり得意な方じゃないけど、我ながらずいぶん勉強したと思う。いろんな人たちにも手伝ってもらった。まぁ、その過程でずいぶんいいように遊ばれたり笑われたりしたような気もするけど。今に見てろよ。

 着られる服だってかなり限定される。けど、組み合わせいかんで明らかな子供服とは思われずに済むはずだ。


 結果──進歩はあった。


 見るからにただの子供でしかなかった私は、いくらかは年上の、そこそこ大人っぽくも見え……ないことはない感じを何となくはかもし出せるまでには、どうにかなってきた。

 なってきたはず。なってきたと思う。

 なってきたに決まってる。


 まだまだ子供っぽくはあるけれど、このまま進化を続ければ少しずつ、少しずつでもセンスに磨きがかかり、やがては歳相応に見られる明日にもたどり着けるのではないか。そんな気がする。

 そう思っていたのに──


 これである。


 今回のこの事態。

 魔法界からの使者である。


 あろうことか私は、魔法少女なんかに選ばれてしまった。


 いや別に魔法少女が悪いと言っているわけではない。

 さっきも言ったけど、私だって子供の頃は子供らしく、ちゃんとテレビの魔法少女に憧れたりしたのだ。いつか魔法の国から不思議な生き物がやってきたりしないかと夢見たりもしたわけだ。

 そういう意味では、そんなアニメみたいな機会を、普通ならば絶対にあり得ないであろうこんな歳になって得られたわけであり、こんな子供にしか見えない身体も時にはプラスに働くこともあるのか、なんて思ったりもしたのである。

 最初。ほんの一瞬は。


 問題は……格好だ。

 私の。魔法少女としての。

 ──そう。


 あの、真っ赤なランドセル。


 私があれを背負うとどうなるか。

 答えは簡単。一目瞭然。言うまでもない。


 小学生にしか見えないのである。


 これもさっき言った。

 私は大抵は中学生、ヘタをすると小学生にも間違われると。

 ()()()()()()、なのだ。

 ()()()()()()、でしかなかったのに。


 あの赤いランドセルのせいで、100パー小学生にしか見てもらえなくなってしまった。


 年齢後退しとるやないかい!


 下がってどうする!

 より子供に近づいてどうする!


 阿呆かっっ!!


 何回だって言うからな。

 私は、子供じゃ、ないんだっ。



 ……まぁイヤだった。

 変身してあの格好で戦うのがもうホント。


 戦っているとみんなからガンバレの声援なんか飛んできたりする。

 それはもちろん嬉しいことなんだけど、聞こえてくるそれは「平和を守るため戦うヒーロー」というよりは明らかに「頑張って戦っている小さな子供」に対してのものだ。


 くらやみ魔女やその配下の悪夢使いたちからは「この小娘がっ!」とかよく言われた。

 たぶんあいつら私よりは年上なんだと思うんだけど、そういう意味で放たれた台詞じゃないんだろうな、とも思うわけだ。小娘じゃねぇよタコ、と声には出さずよくツッコんだものである。


 プルルにだって私は最初にちゃんと言ったんだ。私、大人ですけど。全然少女じゃないんですけど、って。そしたら「大丈夫、少女に見えればいいんだよ」なんてお気楽で能天気でド失礼な返事がさらっと返ってきやがった。まったく不思議生物って奴はこれだからもう。

 何度注意したって未だに私のこと“ちゃん”付けでしか呼ばないし。


 何とかならんものかと思っていろいろ試してみたけど、何ともならなかった。

 せめてこのランドセルだけでもどうにかなれば、と思ったんだけど、どうすることもできなかった。

 理由は簡単。

 この赤いランドセルこそが、魔法少女としての私の変身アイテムであるからである。

 メロディアステッキ──リコーダーにもなるあの魔法の杖は、ランドセルについてきたただの付属品だ。あんなものがぶっ刺さっていたせいで、私の小学生感がより増してた気がしないでもないが。


 ミルキーバッグ、って名前だけ聞いた時は、もっとこう、おしゃれアイテムみたいな感じだと思ったんだけどな。

 まさかランドセルだとは思わないじゃないか。

 それが判ってたら最初から引き受けやしなかった。こんなランドセル魔法少女なんか。


 もちろん、魔法少女任命後でも、ランドセルをプルルに叩き返してふざけんな全部やめてやる畜生め、という選択肢はあった。

 だけどくらやみ魔女によってこの世界が大ピンチ、というのは嘘ではなかったし、プルルもふざけた見た目に反して言ってることやってることは大真面目だ。

 私の極めて個人的な事情と世界の平和とを天秤にかけて、さぁどうする、と言われて全てを投げ捨てられるほど、私も鬼でも悪魔でもゾンビナースでもなかった。

 大人なのだし。


 ならば──残された手は一つ。


 くらやみ魔女を、倒す。

 全ての戦いを終わらせる。

 それしかない。


 ……まぁ頑張った。

 あえて多くは語らないけどホントいろいろ頑張りました。ガンバりましたとも。

 思えばあの頃、私以上に悪夢の一派打倒の炎をメラメラに燃やしていた人間なんていなかったと思う。それこそプルルや魔法界の人たち、もちろんこの世界のみんなよりも誰よりも。

 言うなれば、この世界の誰よりも平和を願っていたとも言えるわけで、

 なるほど。そりゃあ伝説の魔法少女に選ばれるだけのことはあったってことか。


 さすがだな私。

 すごいじゃん私。


 ……なんて自虐めいたことをつぶやいてみたりなんかして。



 で。

 いろいろあったけど──いやもうホントにいろいろあったんだけれども、

 既に話した通り、1年近くにもなろうかという戦い日々の果て、私はどうにかこうにか大勝利という終止符を打つことに成功した。


 くらやみ魔女は倒して、封印した。

 配下である悪夢使いの一派も全員やっつけてやった。まぁ別に命まで奪ったわけじゃないんだけど……その辺くわしく説明してるとまたややこしくなるのでとりあえずパス。

 いずれにせよ、たぶんこれでもう大丈夫。

 世界の危機は去った。

 はず。


 これがついこの間の話。


 人類の平和と、

 世界の未来と、

 私の人間としての意地と尊厳とをかけた長き戦いは、こうしてようやく幕を閉じたのである。


 あと少し。

 ほんのあと一歩。


 それで全ては終わる。


 輝かしい──きっと輝かしいに違いない私の未来が、この手に戻ってくる。

 残すはあとたった1つだけ──


 ──そう。


 この不思議な生き物が、

 魔法のランドセルを持ったプルルが、


 とっとと魔法の国に帰ってさえくれれば。


          ☆


「──正直あの時ばかりは、本当にもうダメなんじゃないかと思ったよ」


 しみじみとプルルが語っている。

 想い出話はまだまだ続いているらしい。

「でも驚いた。キミがまさかあんな──」


 これでもけっこう長めの回想シーンを入れたつもりだったんだけどな。


 プルルは真面目なんだけど、真面目すぎるゆえか話がやたら長くてムダにくどくなる傾向がある。どうにもそれが欠点だ。

 だからお説教とか始まるとまぁ面倒くさい。私がうっかり人前で変身しちゃった時とか。

 「まったくもうキミって奴は本当に──」とお決まりの台詞から始まって長いの長くないのって。つまり長いんだ。

 くどくどくどくど、まぁ飽きもせずに同じ話を何回も繰り返したりする。ようやく終わったかな、と思ったらまた最初に戻って始まったり、とっくの昔に終わったはずの以前の私のミスの話なんかにも飛び火して、いつ終わるんだってくらい続く。

 絶対上司とか先輩とかにしたくないな。外見が可愛いのがせめてもの救いだ。


 そんな時は大抵、神妙にうなずくふりだけして話半分で聞き流していたものである。

 うっかりそれがバレるとそこから説教時間が倍化する可能性があるので、リスキーな賭けではあるのだけれど。


「キミには本当に驚かされてばかりだ」


 まぁ、でも今回は別に怒られてるわけじゃない。彼が別れを前にちょっとばかり想い出にひたりすぎているだけだ。

 同じ長いにしても、説教よりはずいぶんましってものだろう。



「そうだ。夏のあの海の──」


 とは言うものの。


 ……長いな、やっぱり。


 ちょっと長いな。

 いやかなり長いな。ずいぶん長いな。

 長すぎるんじゃないかな。


「あの時もボクは確か言ったよね」


 あのね、プルル。

 私は、帰ってほしいんだけど。


 早く、帰ってほしいんだけど。

 とっとと、帰ってほしいんですけど。



 ……カン違いしてもらっては困る。

 別に私だって、この別れに何のさびしさも悲しさも感じないってわけじゃない。

 別れはやっぱりつらいもの。

 相手が人間であろうと魔法の国の不思議生物であろうと、それは同じことだ。ましてそれが友達ともなれば。


 私はプルルを友達だと──友達のようなものだと思ってる。

 さんざん文句も言ったし文句も言ったし、文句も言ったけど、プルルとの出会いは、魔法少女として共に過ごしたこの日々は、私にとってとても大切な想い出だ。長めの説教だって、思い出したくもないけどもちろん想い出の1つに違いないんだ。

 きっと忘れない。

 忘れることはないと思う。

 まぁ……いろんな意味で。


「でもやっぱりキミは思った通り──」


 だがそれは、あくまでも、

 プルルが帰ってくれたら、の話だ。

 全てが過去になってくれた後で、の話だ。


 件の魔法アイテム──呪われた赤いランドセルは今、私の目の前にある。

 これが消えてくれて、

 いなくなってくれて、

 初めてこれらは“想い出”になるのだ。


 だから早く。

 早く。さぁ早く早く。


 早くしてってばっ。



 くらやみ魔女や悪夢使いたちとの戦いはもう終わっている。あとはプルルが帰ってくれるのを待つばかり。

 だったら何もそんなに焦らなくとも、遠からず訪れるであろうその時をおとなしく待っていればいいのに──なんて思う人もいるだろうか。

 甘い。そうじゃない。


 私は知ってる。

 油断しちゃいけない。

 勝利が確定する最後の瞬間まで、この手のものは絶対に安心しちゃダメだ。


 あるんだ。

 万が一って奴が。


 例えば──

 封印したはずのくらやみ魔女ネムレーヌが復活し、魔法少女の戦いは新たなステージに突入──とか。

 新たに魔王ナントカみたいなのが出現し、パワーアップした魔法の力を手に入れた魔法少女の次なる戦いが幕を開ける──とか。

 アニメならいわゆる2ndシーズンだとか新シリーズだとか、新作劇場版とかそういう奴。


 あるのだ。

 始まっちゃう可能性が。


 もちろん、現実はあくまで現実でもあってアニメじゃない。そんな都合よく話が展開するとは思わない。

 けど……魔法界からの使者だのランドセル魔法少女だの、アニメかゲームでしかあり得ないような代物をイヤってほど現実として実体験してしまった私には、もはや正直はっきりとそう断言する力がない。その自信がない。


 判らない。何があるか。

 何があっても不思議じゃない。


 完全に、

 はっきりと、

 間違いなく、

 プルルが帰っていなくなるまで。


 だから。

 頼むから。お願いだから。

 とっとと帰ってはもらえないでしょうか。



「──そうだ。そう言えばこんなこともあったよね。ルリちゃんとボクが街で──」


 ……などと口に出して言うわけにももちろんいかないのが困ったところで。

 うっかりそんなことしようものなら、そこから新たな説教が幕を開けること間違いない。

 私の栄光の瞬間は遠くなるばかりだ。


「ホントびっくりしたよ。まさか──」


 仕方がない。待つしかないか。

 プルルがたっぷりと想い出を語り終えて満足するのを。改めて別れを切り出すのを。

 何も起きないよう祈りながら。



「覚えてるかい?ルリちゃんは言ったよね」


 半分泣いているような、笑っているような。

 別れを前に感極まっているみたいな顔で、プルルの話に時折うんうん、とうなずいてみせたりなんてしながら……

 私はぼんやり周囲に目をくれていた。

 何となく、そこいら辺を見回しやる。


 大丈夫……だよね?


 魔女の復活、といった突拍子もない不安も払拭しきれなかったけど、それ以前にもっとシンプルで些細な懸念があった。


 あまり長いことこうしていて、もしも誰かに見られたりしたら──

 決して喜ばしい事態とは言えない。


 ちなみにここがどこなのかと言えば、自宅からほど近い、とある川原だったりする。

 土手の上は道路になっていて、人も車も通る時にはそれなりに通るが、通らない時にはもうさっぱり通らない。

 仮に誰か通ったところで、こんな川っぺりまでわざわざ下りてはまず来ないし、すぐそこにある大きな橋の陰になっているから、どこから見てもこの辺はよく見えないはずだ。


 つまり、魔法少女と不思議生物なんてものがのんびり別れのシーンを演じるには、まさしくうってつけの……

 ──というのもまぁ確かなんだけど、そもそもの話として、ここが私とプルルの出会いの場所でもあるのだ。


 そう。

 あの日、ここから──全ては始まった。


 ……うっかりこんな所へ来なければ何も始まらずに済んだのに、という意味でもあるわけだけど、まぁもう今さらそれは言うまい。

 大丈夫大丈夫。まもなく終わる話だから。

 もうすぐ全てはただの過去になる。なる……はずだから。きっと。


 1年前、どうして私が1人でこんな所へやってきたのか──については話すとまた長くなるのでとりあえず割愛する。

 いろいろあるんだよ、人間には。

 大人には。



「そしてボクたちは力を合わせて──」


 ここまでもそれなりに気にはしていたつもりだけど、とりあえず……今のところ、辺りには誰もいないっぽい。まずは安心だろうか。


 さんざん人前で変身したり戦ったりとかもしたわけだけど、

 もう戦いも終わって残すはラストシーンくらいな段階であるんだけど、

 変身後の姿を鏡とか映像とかで見て、何だこれ私の顔のままで全然変わってないじゃん、一発でバレバレなんじゃないの?とか思ったりもずいぶんしたもんだけど、

 一応、私の正体は──小山内瑠璃子が魔法少女ミルキールリィである、というのは、秘密なのだ。

 知られてはいけない。

 そういうルール。

 最後の最後だからもうバレてもいいや、ということではないと思う。

 見られていないに越したことはない。


 ……そうか。

 そういやバレてないんだよな、なんて改めて思う。


 魔法少女とかヒーローものとかって、最終回近くで正体バレるのがお約束って気がする。

 実は○○さんが✕✕だったんだ、ってみんなにバレてしまって、でもみんなはそれを受け入れてくれ、むしろみんなのその声援を力として変身して、ラスボスとの決戦に──

 みたいなのがよくあるパターンって奴なんじゃなかったっけ。


 私、結局誰にもバレてない。

 正体は知られていない。

 ……はず。たぶん。


 ということは、

 ひょっとして……


 ()()()()()()()()()()()()()()という──



 いやいやいや。

 ないないないない。


 大丈夫。終わり。ちゃんと最終回。

 お約束だけがこの世の全てじゃない。そういうパターンだってあるある。

 約束とお約束ってのは破るためにあるんだ、と昔部活の先輩が言ってた。そう言ってよく約束をすっぽかしては彼女に引っぱたかれてたけど。


 もう何も起きない。起きやしない。

 起きないでくれ頼むから。


 大丈夫だよね?

 大丈夫ですよね?


 いいからもう本当に早く終わってくれっ。



「──そうだ思い出した」

 私の心からの叫びもむなしく、プルルの想い出物語はまだまだ絶好調のようである。

「ルリちゃんのとんでもない一言が大勝利をもたらしたこともあったよね。あれは──」

 まぁ心からの、というか心の中だけの叫びでもあるわけなので仕方がない。


 察してくれないかな。

 仮にも魔法の国の生き物なんだから。

 魔法の力とかでサクッと。


「あの時も驚いたよ。キミがまさか──」


 やはり私にできるのは黙って状況を見守り、結果を待つだけなのか。

 とりあえずは何か良からぬ事態が起きないよう、ただただ祈るばかり──と、


「──っ!!!」


 瞬間。

 我が目を疑った。


 危うく大声を上げるところだった。

 目が点になった。


 とんでもないものを、目にしてしまった。



 土手の上の道。

 一匹のネコが歩いている。

 こちらへ向かっている。


 ……いやまぁネコはいい。何やらちょっと変わった首輪をしてるけど別に何がどうってわけでもたぶんない。ただのネコだ。特に珍しいものでも驚くようなことでもない。

 問題なのは……その動線上。

 彼が歩み進んだその先。そこの土手を下って……川原近くの草むらの陰。

 蠢くものがある。


 気のせいか?

 目の錯覚か?いや錯覚であってくれ。

 一瞬そう思った。けど……


 ……あダメだ。

 今度こそはっきり見えちゃった。

 やっぱり間違いない。


 ほんの小さな、

 うねうねと細長い、糸くずかミミズか何かみたいな、

 そこに細い足みたいなものがいくつも生えた、

 真っ黒いもの。


 知ってる。


 “悪夢のタネ”。


 正式な名称は知らない。私たちがそう呼んでいたもの。

 悪夢使いたちがこの世界にバラまいた、文字通り悪夢と災いと……その他諸々やっかいごとを生み出す種子。

 たぶん生き物だ。どれくらい自我や意思があるのかは判らないけど。


 こいつは他の生き物──人間や動物の気配を察知しそれに近づいて……文字通り取りつく。

 寄生する。

 悪夢のタネに取りつかれた相手は、心に悪夢を宿す。いわゆるマイナスエネルギーというか邪な負の感情というか、要するに悪いものが心に湧き出すようになる。

 そして凶暴になったり卑劣になったり悪質になったり……周囲に対して迷惑を及ぼす、困った存在になる。

 そうして周りから生まれたマイナスのパワーを喰らって、さらに成長していく。

 そして……完全に成長しきったタネは、宿主を支配し、変貌する。

 ワルユメデスと呼ばれる怪人と化す。


 とてもよく知ってる。

 この1年間、私がさんざん戦ってきた相手だ。

 悪夢の一派は倒したわけだけど、彼らが無作為かつ大量にバラまいたこいつらまで全て回収することは、もちろん不可能だった。


 だったらマズいじゃないか、何も解決なんてしてないじゃないか。最終回なんてまだまだ先の話だろ、なんて思うかもしれないけど……案外そうでもなかったりして。


 今はざっくりシンプルに説明したけど、実は悪夢のタネが成長するにはものすごく時間がかかる。周りに迷惑をかけながら、そこに生まれた負のエネルギーを少しずつ、少しずつ喰らって成長していくので。

 しかもタネ自体はかなり弱い。完全に成長しきる前に力尽きてしまったり、ちょっと強い衝撃を受けただけで宿主から分離してしまったりもするみたいだ。

 悪夢使いたちは、タネに悪夢エネルギーを与えて一気に急成長させる不思議な力を持っていた。便利なものである。だからこそ、毎週のようにこんな怪人なんてものを生み出すことができていたわけだ。


 くらやみ魔女も悪夢使いもいなくなった今、悪夢のタネが放っておいて自然に生き物をワルユメデスにまで成長させる、なんてことはたぶんほぼあり得ない。

 完全成長しなくたって迷惑な存在には違いないのだが、そもそも人間って奴はそれほど善良な存在でもないわけで。タネが宿ろうと宿るまいと、周囲に害を及ぼすものなんていくらでもいる。それが何人か増えたり減ったりしたところで、別に世の中が突然滅びたり平和になったりはしないわけだ。


 いずれにせよ、魔法少女が必要なレベルのことではない。

 コンビニ前の酔っ払い相手に、なんとかレンジャーだのなんとかライダーだのがわざわざ出動したりはしないのと同じ理屈だ。


 魔法少女の戦いは終わったのである。

 私の物語は、やはりここで最終回を迎えて何の問題もないのである。


 ただし──

 それはあくまで理屈の上でのお話で。


 実際に、この悪夢のタネが、目の前で生き物に取りつく場面なんてものを、

 生真面目で話の長いこのプルルが目にしちゃったりなんかしたら、

 さてどうなるか。


『──やっぱりダメだ』

『ボクはまだ帰るわけにはいかないよ』

『ルリちゃん。もう少しだけ、ボクに力を貸してほしい』


 ……うわ。

 言いそう。すごく言いそう。


 そうなったらおしまいである。

 エンディング目前まできて、私の栄光の未来は一瞬でパーである。


 気づかれてはいけない。

 絶対に。



「──ボクはてっきり、キミがもうあきらめてしまったんじゃないかと思ったんだ。だけどそうじゃなかった」


 幸いなことに、当のプルルは今なお想い出にどっぷりひたりまくっている。

 背後で──しかもちょっと離れた場所で起きているこの光景に気づく、なんて可能性はほとんどない。私が黙ってさえいれば。


 問題は……ネコだ。

 そう。ここであいつの存在がカギになってくる。


 悪夢のタネがあのネコの存在に気づき、近づいて取りついたとしたら──

 その瞬間、ある種の魔法的なパワーが発生する。

 “アクム反応”と私たちは呼んでいた。

 そのアクム反応が起きたとしたら──


 たぶんプルルは気づく。

 気づいて後ろを振り返る。

 そして目にする。悪夢のタネが一匹のネコに取りついた、その光景を。

 そして──


『ルリちゃん、大変だ!』


 大変だ。


 絶対ダメだ。大問題だ。

 絶対に阻止しなければならない。


「まさかキミの本当の狙いが──」


 だが。

 それが判っていながら、私にはどうすることもできない。

 行動どころか何のリアクションも起こすことが許されない。そんなことすれば、気づいてくれと言ってるようなものだ。


 何とか、

 全てが無事に、

 何事もなく終わってくれることを期待し、ただただ祈るほかない。


 可能性は2つ。


 ① 悪夢のタネがネコに気づかず、あるいは無視してどこかへ行ってしまう。

 いずれどこかで何かに取りつく可能性はあるけど、その頃にはプルルもランドセルも魔法の国のはずだ。いなくなった後ならばどこの誰に寄生しようと何の問題もない。


 ② タネに取りつかれる前に、ネコがどこかへ行ってしまう。

 これも同じことだ。パッと見たところ人気もないので、ネコさえいなくなればこの場に生き物なんて私たちくらいである。いずれ何かが来る可能性はあるけれど、その頃にはプルルもランドセルも以下略。


 要するに。

 あのネコと、あの悪夢をタネとが、接触さえしなければいい。

 それだけでいい。


 逆に、接触したらその瞬間アウトである。


 祈るしかない。

 奇跡を。

 ミラクルを。


 さぁ──どうだっ?



「ボクはルリちゃんを甘く見ていたのかもしれない。キミはやっぱり本当は──」


 ネコは?


 歩いている。のんびりこっちに向かってきている。

 来なくていいのに。

 いや来ないでくれ。こっちには何もないから。どっか行ってくれ。頼む。


 タネは。


 うねうねと動いている。

 ネコには……まだ気づいてないっぽい。

 いいぞその調子だ。そのまま気づくな。

 何もいないから。

 ネコなんていないから。


 ……あ。

 今、一瞬ピクッてなった。


 うねうねとゆっくり動き出す。

 気づいたっぽい。

 何で気づくかなお前はもう。


 ネコはっ?


 ……気づいてない。のほほんと歩いてる。


 お前は気づけよっ!


 危機だ危機。今お前に危機が迫っている。

 逃げていい。いや逃げて。

 早くっ。


 ネコ立ち止まった。

 座り込む。

 軽くあくびなんかしてる。


 ふわあぁ、じゃない!

 のんびりしてるな。急げ早くっ。


 タネはっ?


 動いてる。少しずつ近づいている。

 お前は気づくなよっ。


 気づかなくていい。無視しろ無視。

 今からだって間に合う。全然遅くない。

 気のせいだ気のせい。全部お前のカン違い。

 ネコなんていないってば。

 いないってのに。


 ネコはっ?


 ……寝るんじゃないっ。

 ここで寝るんじゃない。いつどこでどう寝ようとお前の勝手だけど、今ここでだけは寝るんじゃない。どっか行ってからにしろっ。

 そんな眠いなら寝とけよな昨夜のうちにもっとっ。時間なんていくらだってあったろうが。山ほど持ってるだろうが。

 時間はもっと有効に使わないと。

 時は金と同じだぞ。


 タネはどうしたっ。


 ……あぁもう。近づいてるよどんどん。

 人の話を聞けよ少しはっ。ネコなんていないって言ってるだろ。

 百歩譲ってネコがいたとして、何も今それ狙わなくたっていいじゃないか。

 もっと良さげな相手がいくらだっていると思うぞ。他に何もないからって、目の前の獲物に安易に飛びつくんじゃない。ちゃんと考えろよ。慌てるなんとかチューバーはいいねが少ないって、偉い人も言ってたぞ。よくないぞそういうとこっ!


 ネコっ!


 あ。起きたっぽい。いいぞ。

 それでいい。あとはそのままとっとと急いでどっか行ってくれ。早く。

 ……のんびり道端の雑草なんて眺めてんじゃないっ。

 面白くも何ともないからなそんなもん。食べられもしないから。

 もっと他のどっかに行けば、何かもっと面白いものがあるから。世の中面白いものだらけだぞ。たぶん。知らんけど。


 タネはっ?


 お前はもう少し、遠回りとかしていいんじゃないかな。そういうの覚えろよ。

 もしくはいったん止まれ。休憩。人間働きづめはよくない。休みが必要だぞ。

 動くなだからもう。

 そっち行くなって。


 ネコはっ?


 お前は早くどっか行けってのっ!

 危機感が足りない。

 自覚しろ。お前に生命のピンチが迫ってるんだよ。絶体絶命なんだよっ。

 ……いやまぁ別に死ぬわけじゃないんだけど、それくらいの気持ちで対しろって話だ。

 常に命がけで生きろよ。

 ネコだろうが仮にも。

 野生動物の端くれじゃないのか。

 意地を見せてみろっ。


 タネはっ。

 どんどん近づいている。

 あわてるな。落ち着け。

 いいかげん止まれっ。


 ネコはっ。

 相変わらずのほほんとしてる。

 落ち着くんじゃないよ。

 お前はあわてろっ!


 早くしろ。早く。

 早くっ!!!


 近づいていく悪夢のタネ。

 近づいてくるネコ。


 私の心の叫びはまったく届かない。

 全然聞きゃしない。

 まったくこいつらはホントにもうっ。



 両者の距離はどんどん近くなる。


「ルリちゃんは他にもたとえば──」

 プルルが話を終えて帰る様子もない。


 時間がない。

 もう本当に時間の問題だ。


 どうする。

 どうする?


 どうするっっ?



 私は──

 意を決した。



「あの時もキミは──」

「ごめんプルルっ」

 そう言うと急ぎ手を伸ばす。

 目の前の、赤いランドセル。

 そこに刺さったメロディアステッキ。そいつをつかんで、引っこ抜く。


 かなり危険だ。けど──

 たぶんこれしかない。


「ミルメルミルキー!」


 叫んでステッキを振りかざす。

 瞬間、キラリンッと星色の光がその先端から放たれた。

 目標にまっすぐ飛んでいく。


 基本的に、魔法少女としての力は変身してからでないと使えないけど、これでも私だって1年間、魔法少女をやってきた。

 ステッキがあれば、ごく簡単な魔法くらいは撃つことができる。

 タネを吹っ飛ばすくらいならば。

 わけもない。


 問題は──目に見えてはっきりと、行動を起こしてしまったということ。

 プルルだって当然気づく。

 何事かと振り返るに違いない。


 これは賭けだ。

 極めてリスキーな。


 プルルが事態に気づくのが先か。

 私の魔法がタネをぶっ飛ばすのが先か。

 どちらが速いか。

 スピードの勝負。


 もちろん……うっかり的を外したりすれば、それだけでもうアウトである。


 魔法少女ミルキールリィが願う。

 私の魔法よ──

 最後の奇跡を、起こせっ!



 キラキラキラリンッ


 魔法の光は──途中で2つに分裂した。


 失敗?──いや。

 狙い通り。



 パシュッ!


 小さな光が悪夢のタネに直撃した。

 タネは一瞬にして弾け飛び、消滅する。


 そしてもう1つ。大きな方の光は……

 ネコに。

 その身体をふわり包んで浮かび上がらせ……少しばかり離れた場所ヘ、ゆっくりと着地する。



 どうだ──?



「ルリちゃん……」

 プルルが目を丸くして、私を見ていた。


「キミは──」

「あ……いやほらそのあの」

 さえぎるようにあわてて口にする。

「ネコ。──ほらネコがね?トラックにその……危なかったもんだから」


 ブオオオン、と音を響かせながら、1台の大型トラックが土手の道を通り過ぎる。

 トラックもちゃんと来てはいた。

 嘘はついていない。一応。


「……まったくもう」

 軽く息をついてプルル。


 魔法の光は2つに分かれた。

 より大きく、後まで残っていたのはネコを包んだ方のそれだ。

 プルルが振り返っていたとして……とっさに目についたのはそっちだったはず。


「キミって奴は本当に──」


 もう1つの光に、

 悪夢のタネの存在に、

 私がそれをぶっ飛ばした事実に、

 気づいた──か?


「こんな調子で……ボクがいなくなってからも、本当に大丈夫なのかい?ボクは心配だよ」

「あ、あははは。そ、そうだよね」

 頭をかいて笑ってみせる。


 ………………


 気づかれて……ないっぽい?


「でも──」

 プルルを見る。ちょっと真面目な顔に戻って、私はそう言った。

「それでも、ガンバらなくちゃ」


 成功か?

 うまくいったのか?


「いつまでも、魔法にばっかり頼りっぱなしってわけには、いかないもんね」


 バレてないですか?


「私だって──子供じゃないんだから」


 プルルをまっすぐ見つめて、微笑む。

 彼も私をじっと見る。

 そして──


「うん」とプルルはうなずいた。


「まぁ……子供にしか見えないけどね」

「あぁもうまた。それは禁句だってのに。私が気にしてるの知ってるでしょっ」

「そうだった。ゴメンゴメン」

「まったくプルルはもうっ」

 あははは、と笑い合う。



 ……バレてない。

 バレてないっぽいぞ。


 大丈夫。うまくいった!

 やった!


 よっしゃ━━っ!


 しかも……何だか話の流れ的にもキレイにまとまったっぽい感じがしないか。

 かなりいい雰囲気なんじゃない?

 アニメの最終回としては。


 いつ果てるともなくダラダラと続いていたプルルの想い出語りも、今の一連の騒動で水を差されて止まったみたいだし。


 これは……

 ひょっとすると……

 大成功、という奴なのでは。


 全てがキレイに丸く収まったのでは。


 やった!

 すごいぞ私。偉いぞ私。

 さすがは魔法少女だ!



「じゃあ──ボクはそろそろ行かなくちゃ」

 プルルは改めてそう言った。


「今度こそ本当に……お別れだ」

「……うん」

 これでもう何度めかになる、待望の一言。


 今度こそ本当に。

 その言葉が真実であることを、

 切に願う。


「ルリちゃんを魔法少女に選んで、本当によかった」

「……そうかな」

 照れくさそうに笑ってみせる。

「本当にそう……だったら嬉しいな」

「自信を持ってそう言えるよ。今なら」

 彼は大きくうなずいた。

 真面目なプルルのことだ。きっと……嘘じゃないんだと思う。


「でも正直言うと、最初はそうじゃなかったんだよ。キミと出会ったあの日──」

「──私──」


 マズい。

 ヘタをするとここからまた新たな長い想い出語りがスタートしかねない。

 そう思った私は、彼が語り始める言葉をさえぎるように先手を打って口にした。


「──忘れないから」


 止める。

 今度こそ──ここで。


「プルルのこと。──絶対に」


 ちょっぴり涙ぐむ。涙ぐんでみせる。

 でも精一杯の笑顔で。

 まっすぐに、プルルを見つめる。


「──ボクもだよ」

 プルルは答えた。

「絶対に忘れるもんか」


 そのまま……しばし見つめ合う。


 言葉がなくたって心と心とで通じ合う、

 2人だけの時間。


 ──あるいは、

 これ以上余計なことは何も言ってくれるなという、私からの無言のプレッシャー。


「また……会えるかな」

「さぁ。どうだろう……判らないよ」

 涙の私にプルルは言う。

 こういう時、無責任に「きっと会えるよ」などと言わない辺りが彼らしい。やっぱりどこまでも真面目な奴だ。


「でも──」

 と言う。

「いつかまた……会えたらいいね」


「……うん」

 私はうなずく。


 正直、会いたくはないけど。

 できることならば……二度と会わずに済むのがベストに違いないのだけれど。

 もちろん言わない。


 穏やかな時が、流れていた。



「──じゃあね」


 プルルは言った。

 ぬいぐるみみたいなその身体が、

 目の前の赤いランドセルが、

 静かに浮かび上がる。


 音もなく、その背後に丸い穴──魔法のゲートのようなものが開いた。

 吸い込まれるように……

 ゆっくりとその中へと、沈んでいく。


 バッ、と私は手を広げた。

 大きく振る。


 さよなら、とは言わない。

 またね、とも言わない。

 いいからさぁとっとと帰ってくれ、ともあえて言わない。


 いろいろとひっくるめた、

 無言のバイバイ。


 プルルが私を見た。

 その口が開いて、最後に──

 何か言った。


 光に包まれる。

 大きく弾けるように。

 そして──



 彼らは消えていた。


 そこにはもう、何もなかった。



 何もない、ただの虚空となったそこを、私はしばし見つめる。


 さらにしばし見つめやる。

 さらにしばらく見つめる。

 もう少し待つ。

 もうちょっとだけ待ってみる。


 ………………


 消えた。


 消えた。帰った。いなくなった。

 本当に?

 大丈夫か?本当に消えたか?

 戻ってこないか?


 本当の本当に、大丈夫か?


 ……………………


 何の変化もない。

 特に変わった様子もない。


 消えた。

 間違いない。消えた。いなくなった。


 プルルは、魔法の国に帰った。



 よぉぉぉっっ…………

 しゃああぁぁぁ━━━っっ!!!!



 昔、何かで見たマンガの一場面のように、私は力強い拳を高々と天に突き上げた。


 やった!

 やったぞ!やったー!


 プルルは帰った。いなくなった。

 忌まわしきランドセルも消え失せた。

 もう戻ってこない。

 間違いない。もう大丈夫。


 終わった!今度こそ終わった!

 確実!絶対に!


 私の平和な日常が、

 ごく普通の日々が、

 小学生じゃない世界が、

 この手に戻ってきたのだ!


 よっしゃああぁ━━っ!

 バンザ━━イっ!



 プルルは……最後に何か言った。


 ──ありがとう。


 そんな風に言ったように見えた。


 こちらこそだ。ありがとう!


 今までありがとうプルル。

 そして本当にありがとう。

 ちゃんと帰ってくれて。


 君のことは忘れない。

 あの言葉はウソじゃない。

 絶対に忘れない。忘れられるものか。忘れてなんかやらないとも。


 たった今──

 全ては、想い出になった。


 過去の物語となった。


 終わったのだ。

 全部、終わったのだ。


 さよなら、魔法のランドセル。

 さよなら、魔法少女ミルキールリィ。


 そしてようこそ!

 希望に満ちあふれた、私の未来!


 まさしく私は──幸せの絶頂にあった。




「──あのぅ、もしもし」

 であるからして。


「そこの可愛らしいお嬢さん」

「はァいなんでしょうかっ♪」

 不意にかけられた声に私が満面の笑顔で応えたのは、当然のことと言えた。


 振り返ってから気づく。

 誰も……いない。


 ……あれ?

 今、声かけられたよね?


 気のせい?いや確かに聞こえた。

 まさか幽霊とか妖怪とかそういう──


「あぁ、こっちですこっち」

 もう一度声がした。……下の方から。

 視線を落とす。


 一匹のネコが、そこに座っていた。


「先程は……どうもありがとうございました」

 ぺこり、と可愛らしく頭を下げる。

 なんだネコか。道理で見えなかったはずだ。よかった魑魅魍魎の類でなくって。

「本当に助かりました」


 言われて気がついた。

 あぁ。この子──さっきのネコだ。

 悪夢のタネから私が助けた。何かの紋章みたいなものがついた、このちょっと変わった首輪に見覚えがある。


「ありがとうございます」

「いやいやそんなそんな」

 ちょっと照れくさく頭をかく。

 まぁ結果として悪夢のタネやらトラックやらから助けた形にはなったわけだけども、言っちゃえばあれは私の個人的な都合であったわけで、改まってお礼を言われるような大したことでは──


 などと思いかけて、

 次の瞬間。私の表情は固まった。


 このネコ……

 今、しゃべった──?


「?ボクの顔に何かついていますか?」

「あ、いや……そういうことじゃなくて」


 ネコはしゃべらない。

 普通は、人間と会話したりはしない。


 私だってこの1年間、魔法少女をやってきた身だ。もちろん今さらネコが人語を解そうと驚いたりはしない。この世の中には、マンガやアニメでしかあり得ない不思議なことがいくらでもあるのだと、ちゃんと判っている。

 問題はそこじゃなく。


 大事なのは──

 人の言葉を話すネコ。

 ネコのようなもの。

 それが今、目の前にいる。

 しかも私に話しかけている。


 それがいったい──何を意味しているか、ということ。



「申し遅れました。ボクの名前はネココと言います」

 深々とていねいに一礼すると、ネコはそう名乗った。

 うわ何て安直なネーミングセンス。……なんていつもの私なら呆れたくもなるとこだが、正直今はそれどころじゃない。


 何か……イヤな予感がする。


「あ、どうも。で……そのネコさんがまだ私に何か用事でも」

「ネココです。実は──ボクは、ネコじゃないんです。花咲きの王国フローラリアからこの人間界にやってきた、花妖精なんです」


 かなりイヤな予感がする。


「………で」

「ボクたちの国フローラリアは今、滅びの危機を迎えています。全ての草花と人々の心を枯らしてしまう、花枯れの悪魔ヒカラヴィルゾが復活してしまいました。この恐ろしい怪物と花枯れの使徒たちによって──」


 ものすごくイヤな予感がする。


「この人間界ヒュマーノのどこかに、決して枯れることのない永遠の希望の花エタナリスが咲いていると言われています。これを探し出すことこそがボクたちの──」


 とてつもなくイヤな予感がする。


「ですが、花枯れの使徒たちはこのヒュマーノにも目をつけてしまいました。この世界にも、大きな危機が迫っているんです。それに対抗する方法はただ1つしか──」


 とんでもなく、

 壊滅的に、絶対的に、

 イヤな予感がするんですけど。


 とてもとてもとても。

 聞いたことあるような話なんですけど。


「……えぇと」

 まさかそんなこと。

 あるはずない。

 私は恐る恐る尋ねてみる。

「要するに……私に何かお願いがあるとか?」


「はい!」

 ネコは力強くうなずいた。

「一目見てボクは確信しました。あなたしかいない──と」


 イヤな予感が、

 想像を絶する巨大さになる。



「お願いします。どうか、世界を救う伝説の魔法天使となって、ボクたちといっしょに戦ってはもらえませんか?」



 ドガシャ━━ンッ!!!!


 雷鳴が轟いた。

 私の頭の中に。

 そして直撃した。

 私の全身を。


「ボクを助けてくれたあなたのような心優しい人こそ、魔法天使にふさわし──ちょっと。何て顔してるんですかあなたっ」


 この時の私がどんな顔をしていたのか。

 もはや想像もしたくない。

 まぁたぶん……この世の終わり、みたいな顔をしていたんだとは思う。


 ………………なぜ?


 どうして。

 どうしてこうなるっ!?


 それはつまり、


 魔法少女ってことでしょうがっ!!!



 ……今だぞ今。

 ほんのついさっき。

 長い長い戦いにようやく、ようやっと終止符を打って、自由の身を手に入れたばかりだっていうのに。

 その舌の根も乾かないうちに。


 何だこのとんでもデスティニーは。

 どうなってるんだ私の人生は。


 いるだろふさわしい人間なんてこの世界にいくらだってっ。

 ガチな少女が星の数ほどいるだろっ。


 何で。

 どうして。

 何が悲しくて毎度毎度私のとこへ来るんだお前らはっっ!


 阿呆かっっ!



 大声で叫びたかった。が……

 極めて残念なことに、今回ばかりは心当たりって奴がある。


 あぁ……そうか。

 助けたから、か。


 さっきうっかり、私がこいつを助けてなんかしまったからか。悪夢の魔の手から。


「あのぅ……どうかなさいましたか」

「えぇまぁその。何というか」


 あれがマズかったとは。

 まさかあんな所に罠が仕掛けられていようとは。そりゃ引っかかるって。判るわけないじゃないかそんなもん。


 確かに、私の極めて個人的な都合のために勝手に魔法を使ったりしたのは事実だけど。

 私が悪いっちゃ悪い気もしないではないけども。

 バチが当たるにしたってあんまりじゃないですかっ。ひどいじゃないですかっ。

 もう少し手心とか加えてくれたって良さそうなものじゃないのかいっ。

 そうでしょ魔法の神様っ!


 このネコ妖精はお礼に来たつもりなのかもしれないけど、

 こういうのは普通な、

 お礼参りっていうんだよっ!



「それで……あの」

「え?あぁ」

 そっか。返答を求められてるのか。


 そんなもん決まってる。

 言うまでもないだろ。


 断固、お断りである。


 当たり前だ冗談じゃない。誰が二度とやるもんかあんなもの。

 魔法少女なんて大っキライだ。


 やらない。絶対にやらない。ノー。 

 はっきり断っておかねば。ここできっぱり言っておかないと、後々どんなやっかいごとを招くか判らない。

 大丈夫心配ない。魔法少女にふさわしい人間も魔法少女になりたくてたまらない人間も、探せば世の中ゴマンといるはずだ。私一人が断ったからって何の問題もあるものか。

 ネコ子だかネコ助だかネコ太郎だか知らないけど、彼にとってもきっとその方がいい。いいに違いない。


 そう。これは彼のためであり、

 ひいては彼のナントカ王国のためであり、

 つまりはこの世界のためであり、

 何より私の未来のためなのだ。



「悪いけど──」


 私には無理。他を当たってください。

 そう口にしかけた。

 が──その時。


 ──いや。待てよ。


 ふと1つの考えが頭をよぎった。


 よく考えろ。

 ちょっといったん冷静になってよ〜く考えてみろ。


 ……あるぞ。

 万が一って奴は。


 つまりそう、たとえば──プルルが、赤いランドセルを持って戻ってくる、という可能性。


 完全に帰ったと思って大喜びして小躍りしてたけど、よくよく考えてみれば、一度帰ったらもう二度と戻ってこない、絶対安心なんて保証はどこにもない。

 確か伝説のネコ型ロボットだって、いったん帰った後ちゃっかり戻ってきたじゃないか。伝説の魔法少女が同じようなパターンをたどらないと誰に言いきれよう。

 甘く見ちゃいけない。

 ロクなことにならないのだ。


 だけど……もし。

 もしも彼が戻ってきた時、私が既に別の誰かしら──たとえばこのネコ太郎と契約して、別の魔法少女になってしまっていたとしたら。

 どうなる?


 真面目に毛が生えたプルルのことだ。こっちの新しい契約を力ずくで破棄してまで、私をランドセル魔法少女に戻そう、なんて真似は恐らくしないだろう。残念だよ、とは言いながらも誰か別の相手を探し、新たな魔法少女ミルキーなんちゃらを誕生させるに違いない。

 ランドセルはそっちの彼女のものになる。


 言ったはずだ。別に魔法少女そのものが悪いわけでもイヤなわけでもない。

 忌まわしきは、あのランドセルなのだ。


 このネコ太郎の言う新たな魔法少女とやらがどんなものなのかは判らないが、まさかそいつまで赤いランドセルってことはないだろう。そんな偶然が続いてたまるかい。よもや全魔法世界中で現在ランドセルが大流行りってわけでもあるまいし。


 だとしたら──


 ここで彼と契約し、魔法少女になる。

 その選択肢は……アリなのではなかろうか。


 いやむしろ、

 それこそが最良の選択なのではなかろうか。


 花の魔法少女だか鼻の魔法少女だか知らないが、少なくともランドセルよりはましなはずだ。

 たぶん。恐らく。きっと。

 いやほぼ確実に。

 あれより悪いオチなんてそうそうあってたまるかってんだ。

 ならばやはり。


 そうだ。

 そうだよ。


 ここで私の選ぶべき答えは──


「私──」


 ──いや待った。


 ネコ太郎の求めに応じようとしかけて、私の頭の中に電撃のような警告が走る。


 ちょっと待った。まだ早まるな。

 いったんよく考えろ。


 言ったろ。

 万が一は、あるんだからな。


 赤いランドセル2連チャン、ってことも可能性として決して高くはなかろうが、絶対にあり得ないと断言できるわけじゃない。

 それに……ランドセル以外ならオールオッケーと結論づけるのもいささか危険だ。


 スク水だの半裸だの女ターザンだの、くらいならば最悪まだしも、

 生まれたまんまのすっぽんぽんです、とか言われたらさすがに笑えない。


 そんな放送禁止すれすれ……どころか100パーアウト確実な危険極まりないアニメを作る勇気ある製作会社もまさか存在なんかしないだろうが、残念なことにこれはアニメではなく現実なのである。


 確かめておく必要がある。

 私の輝ける未来のために。



「えぇと……ネコ太郎だっけ」

「ネココです」

「あぁそうだった。ねぇネコ子、そのあなたの言ってるナントカの魔法少女って……」

「魔法天使のことですか?」

「そうそれ。天使天使。その魔法天使ってその……いったい、どんなの?」

 私は尋ねてみる。


「魔法天使というのは、フローラリアに伝わる伝説の魔法使いです。ボクたち花妖精の魔法の力とヒュマーノの人間の心が持つという夢と希望のエナジー、それがひとつになった時に誕生すると言われています。5000年前、ヒカラヴィルゾが猛威を振るった時には、3人の魔法天使が力を合わせ──」

「あ、いや……そういうんじゃなくて」


 ……何て言ったら判ってもらえるかな。

 いや、そもそもあまりこっちの本意は知られない方がいいだろうか。


「あそうだ。名前」

 パッと思いついた。

「名前何ていうの?」

「ネココです」

「あなたの名前じゃなくて。魔法天使の。あるでしょマジカルなんとかとかミルキーなんちゃらとかそういうの」

 それだけでも何らかのヒントを得られる可能性は十分にある。

 危険な名なら要注意だ。


「あぁなるほど」

 そういうことですか、とネコ助はうなずいた。 

「花咲く魔法天使フラワーエンジェルです」


 うわ。

 また何て安直な。


 そう思ったけど声には出さない。表情には出てたかもしれないけど。


 花の魔法天使でフラワーエンジェル。

 まんまじゃん。てか同じこと2回言ってない?それ。大事なことなんだろうか。


 まさしく子供が考えたオリジナルヒロイン、みたいな名前だ。

 せめてもうちょっとひねってとかカッコつけた感じで、とかなかったかな。ヘヴンズなんちゃらとかホーリーなんちゃらとか……あいやまぁ、私のネーミングセンスも大概だけど。


 だが。

 時に安直は力ともなり得る。


 そのまんまなネーミングだけど、それは同時に「とても判りやすい」ってことでもあるわけで。


 フラワーエンジェルか。

 恐らくかなりヒラヒラとした、花だらけで背中に羽根とかついた、ガーリーな格好させられるんだろうな、とは見当がつく。

 だけど小学生だとか危険な響きはとりあえずなさそうな気が。花と天使ならそれだけでもうデザイン的にはいっぱいいっぱいだろう。他の要素をゴチャゴチャ足す必要はないはずだ。


「見たことってある?」

 私は聞いてみる。

「あるわけないですよ。伝説の魔法使いなんですから」

「でも伝わってる絵とか話とかあったりしない?どんな格好してるとか。聞いたことないかな」

「えぇと……まさしく天使のような、それは可愛らしく美しい姿だと聞いています。昔ボクが見た絵も確かそんな感じでした」


 うーん……何とも言えないところ。

 どうもそこそこ知ってるっぽい気がするけど、美しいとか可愛らしいとかその辺はあくまで個人の主観によるものだ。

 ネコ次郎の感性がそもそもとっ散らかっていたとしたら、あてにはならない。


 一応、子供のこと天使って呼んだりするな。まさしく天使のようってまさかそういう?……いやちょっとムリヤリかなそれは。子供のエンジェルの絵ってちょいちょい裸だったりするけどそれも……いや確かめた方がいいか。


「服とかちゃんと着てる?」

「当たり前じゃないですか。何言ってるんですか」

「ランドセルとか背負ってない?」

「何ですかそれ」

「えっと……背中に背負う四角くて大きな箱みたいなカバンみたいな……」

「さぁ……ボクが見たものにはそんなもの、ついてなかったと思います。確か小さなバッグみたいなものを下げていたような気がしますけど」

 それならいい。

 おしゃれバッグ程度の代物ならば全然問題はない。よくある魔法少女のデザインにもわりとついてたはず。

 てか逆に、そんなもの持ってるんだったら同時にランドセルも、なんてややこしいデザインにはならない気がする。そんなバッグだらけでしかも花で天使で、なんて見てるだけでもう大忙しだ。


 全裸とランドセル、といういちばん危険なところはとりあえず回避できた。はず。

 ならば──


 大丈夫……か?


 これは安全と思っていいのか?

 いろんな不安はまだあるような気がするけど、これは私の気にしすぎなのか?


 どうする。

 引き受ける……べきか。


 いつまでもこうしているのも、それはそれで相手に失礼というものだろう。

 お断りならお断りと早く言わないと。ネコ次郎にだって他の誰かを探しにいく都合って奴があるはずだ。


 そして……もしもそうしたとしたら。

 恐らく次のチャンスはもう巡ってこない。

 二度あることは何とやら、って確かに言うけど、まさか21にもなって魔法少女にスカウトされる三度目があるとはさすがに思えない。


 決めるならば今しかない。

 今、決めなければならない。


 どうする?

 どうする?

 どうすべきだ?


 選択しろ。決断しろ。

 今、ここで。


 私は、

 私が選ぶべきは、

 私が選ばなくてはならない道は、

 私の答えは。


 ……そう。

 そうだ。


 私は──



 私は、心を決めた。



「──判った」

 力強く、私はうなずいてみせた。

「ネコ次郎。私……やってみる。フラワーエンジェル」


「ありがとうございます!」

 彼の顔がとたんにぱあっと明るくなる。

 知らなかった。ネコの表情って案外判るものなのか。

「あなたならば絶対にそう言ってくれると思っていました。やはりボクの目は間違っていませんでした。あとボクの名前はネココです」

「うん、判ってる」


 そうだ。

 やっぱりそれが正解だ。

 私は、魔法天使になるべきだ。


 そうなれば、またここから新たな戦いの火ぶたが切って落とされることになる。その道は恐らく、決して優しいものではないのだろう。

 だがあの呪われた赤いランドセルが地獄から……じゃなかった、魔法の国からリターンしてきてしまう恐ろしい可能性を思えば、それに比べたら怖くなんてない。

 ランドセルの方が全然怖い。


 フラワーエンジェルの格好もたぶん、そんなにおぞましいものでもないだろう。

 あっちこっちに花とか咲くのかな。かなり可愛い感じになりそう。だけど少なくとも小学生ではなくなるはずだ。

 年齢は上がるはず。

 まだまだ大人には見てもらえないかもだけどとりあえずはそれでいい。あとはそこから少しずつでも上げていく努力をしよう。


 ……あ、さっきネコ三郎、伝説のフラワーエンジェルは3人とかって言ってなかったっけ?

 他の仲間がいるのかも。

 じゃああれだ。1人ずつ、いろんな花がモチーフになってたりするのかもしれない。

 私は何かな。……まぁ何が来たところで、極端に子供っぽくはならないはずだ。大丈夫。むしろ逆に上手いこと、たとえばバラの魔法天使とかに選んでもらえた日にゃ、大人の色気にみがきがかかってちょっとセクシーでダイナマイトでワァーオな感じにもなったりして。いいじゃんいいじゃん素敵じゃん。


 やっぱり間違いない。

 これで、いいのだ。


「──あ、そうだ」

 ふと思い出した。一応言っておいた方がいいだろうな。

「あのねネコ三郎。私……こんな子供に見えるかもしれないけど、実は子供でも少女でも天使でもなくって──」


 軽く事情を説明しておく。

 パッと見はともかく、既にここまでの知性や理性や立ちふるまいやらで、私がただのお子様でないことくらい、当然もちろん気づいてもらえているとは思うが……念のため、万が一にもカン違いしていて、ローティーンでないと花の魔法は使えませんよ、とかいう設定だったら申し訳ないので。


「それなら大丈夫ですよ」

 ネコ三郎はさらりと微笑んだ。

「少女に見えればいいんです。全然問題ありません。ボクだって気がつかなかったんですから」

 ……何だろう。

 この、以前にも覚えがある感じは。


 魔法の国の不思議生物ってのは、このいくらかざっくりした能天気なド失礼さって奴がデフォなんだろうか。



「それじゃあ──えぇと」

 口を開こうとしてちょっと言葉をつまらせるネコ三郎。

 あぁ──そうか。

 大事なことを忘れていたことに今さら気づく。


「──私は小山内瑠璃子。ルリでいいよ」

 私は名乗った。

「じゃあルリちゃんですね」

 ごく自然にちゃん付けされる。大人ですってたった今説明したってのに。

 まぁいい。少しずつ改善していこう。


「それじゃあルリちゃん。さっそくですけど、契約させてください」

「契約?」

「はい」

 ネコ三郎の首輪についた花のような紋章が光ると次の瞬間、私の手の中にそれは出現した。


 やや大きめのコンパクトみたいなもの。

 ピンクを基調としてわりと派手でカラフルな装飾が施され、花をデザインした宝石みたいなものが飾られている。

 いかにも──おもちゃ売り場の女児向けコーナーに並んでいそうな感じ。

 パカッと上部がフタのように開くと、中には花の形をしたアクセサリーというかブローチのようなものが収められていた。


 これがフラワーエンジェルの……変身アイテムってことだろうか。


 ……いいじゃん。

 すごくいい。少なくとも、赤いランドセルの5億倍は素敵である。


 この花は……タンポポ?

 つまり私はタンポポの魔法天使ってことか。

 バラでなかったのはちょっと残念だがまぁこの際ぜいたくは言うまい。これはこれで悪くない。それなりにカワイイし子供っぽすぎるわけでもない。ダンデライオンってくらいだからむしろちょっとダンディでハードな感じに聞こえたりするかも。


 などと考えていたら、タンポポのブローチはひとりでに宙に浮かび上がった。

 ペカッと光を放つと、私の目の前に何かの画面みたいなものが投影される。


「名前を書いてください」

「名前?」

 いつの間にやら、魔法のペンのようなものを渡されている。

「ひらがなで構いません」


 言われるまま、ペンで画面に名前を記す。

 る、り、こ──と。


 ポンと軽くタップすると画面はタンポポに吸い込まれる。

 そしてより大きくキラキラと──何だかパチスロのフィーバー大当たりか何かみたいに光り輝き始める。

 おめでたい感じだ。


「これでフラワッペンはルリちゃんをマスターと認識しました」

「認識するとどうなるの?」

「あなただけのものになります。もうルリちゃん以外の誰も、これを使って変身することはできません」


 なるほどそういうシステムか。

 セキュリティ面もわりとしっかりしているらしい。どっかの赤いランドセルとは大違い──ってあれは実際どうだったんだろうな。ひょっとして無理くり誰かに押しつければ、他の人を変身させることも可能だったんだろうか。私あんなに悩む必要なかったんだろうか。

 ま今考えたって仕方ないことだが。


 だが……同時にこれでもう、後戻りもできなくなった、ということである。


 私は魔法天使になるしかない。

 うっかり全裸だったらおしまいである。


 頼むぞ。どうか──

 当たりクジであれ。


「では、さっそく試してみましょう」

 ネコ三郎は言った。

「唱えてください。『フローラル・シャイニーアップ』」


 お、出たな。

 お決まりの変身の掛け声って奴だ。やっぱりどこでも必要になるんだなこういうのは。


 うん、大丈夫。

 そんなに恥ずかしい感じの奴じゃない。むしろヒーローっぽい響き。悪くない。

 まかせとけ。これでも1年間、魔法少女をやってきてるんだ。今さら照れもない。ちょっと開き直ればこんなのお手のものだ。

 ちなみにミルキールリィの時の変身の掛け声はどんなだったかと言えば……あいや、とりあえず今はいいか。過ぎた話だ。


 いくぞ変身!


「フローラル・シャイニーアップ!」


 高らかに、私は声を上げた。

 誰に頼まれたわけでもないのに、開いた右手なんか突き上げてみたりして。


 叫びと共に、タンポポのブローチ──フラワッペンが光を放つ。私の全身はまばゆい光に包まれる。

 魔法の光は私の身体をいったん裸に近い素体にリセットし、その上から新たなコスチュームを形成していく。


 プリーツの入った短めのスカート。

 やや丈の短い、淡いブルーのふわりとした上着が上半身をおおっていく。

 ひものついた可愛らしい小さなイエローのバッグが肩からかかる。

 頭の上に天使の輪のようなものが浮かび、パッと弾けると帽子となって頭にかぶさる。

 最後にフラワッペンがプレートのような形に変わり、左胸に貼りつく。


 これで完成。

 光が弾け飛んだ。


 魔法天使フラワーエンジェル。

 爆誕の瞬間である。


「やった!やりましたルリちゃん!素晴らしいですよ!」

 パチパチパチ、とネコ三郎が両の前足を叩き合わせ、拍手らしきものをしながら歓声を上げた。


 ──のだけれど。


 ……………………


 何だろう。

 この……違和感のようなものは。


「……ねぇネコ三郎」

「ネココです」

「鏡とか持ってない?」

 問いかける。


「鏡でしたら……確かエンジェチャームの中に」

 さっきの変身コンパクトのことか。

 いつの間にかバッグの中に収納されていたそれを手にすると再度パカッと開く。


 フタの裏側に小さな鏡。

 ちょっと小さいな、これじゃ見づらいなと思ってあちこちチョンチョンやってみたら、不意に大きな鏡が飛び出した。私の全身像をそこに映し出す。

 なるほどこれなら見やすい……って、


 その瞬間。

 私の目は点になった。


「──なっ」


 なっ…………


 なっっ…………………



 なんじゃあああぁあぁぁこりゃああああぁああああぁぁぁっっっ!!!!!



 その昔、何かのテレビで見た、昭和の懐かしの刑事ドラマみたいな男気あふれる絶叫が、私の脳内にこだました。


「どうかしましたか?ルリちゃん」

「どうかしましたかじゃないわよっ!」


 改めて説明しよう。


 プリーツのついた短めのスカート。

 いわゆるどこかの制服みたいな感じ。

 淡いブルーの丈の短い上着。

 小さなえりがついていて、大きめの前ボタンいくつかで留まっている。

 ふわっとゆったり余裕のある両そで。そで口の部分だけがキュッとしまっている。

 肩口から袈裟がけにかけられた長めのひも。その先についた小さな可愛らしい、イエローのバッグ。

 頭に同じイエローの帽子。つばの短いハットのような、布製の柔らかな感じの。

 天使の輪のように白いラインが走っている。


 これは……


 これは…………っ


 いわゆるその…………

 何というかアレだ…………


 一言でざっくり表現すると…………



 幼稚園児の格好って奴じゃないのかっ?



 ……いや間違いない。

 幼稚園児だ。

 幼稚園児だろ。


 幼稚園児のコスプレだろこれっ!


「どういうことっ!?」

「何がですか」

「これは、どういうことっっ!?」

「大丈夫。すごく可愛いですよルリちゃん。とてもよく似合っています」

「そういうこと言ってんじゃないわよっ!」


 そう。

 非常に言いにくいことなのだが……


 悲しいかな、

 とても残念なお知らせなのだけど、

 何というかこう……


 わりと、似合っている。


 私の顔に。ボディサイズに。

 無理なくフィットしてしまっている。

 似合ってどうすんだこんなもんっ。


 小学生にしか見てもらえない、と嘆いていた赤いランドセル姿のかつての私は、もうどこにもいなかった。


 小学生には見えない。


 どう見ても、

 ちゃんと、しっかり、


 幼稚園児に見える。


 ……………………



 年齢後退しとるやないかいっ!!!



 より下がってどうするっ!

 より子供に近づいてどうすんだっ!


 阿呆かっっ!!!



「どうしたんですかルリちゃん。まるでケダモノのような形相で」

 ケダモノそのものであるこいつに言われる筋合いはなかったが、実際そう言われても仕方のない顔を私はしていたのだと思う。


 がっくりとその場に崩れ落ちる。


 なぜだ………

 なぜ、こうなった………?


 ちゃんとリサーチしたはずなのに。

 万が一を考慮して、細心の注意を払っていろいろ調べた上で臨んだはずなのに。

 どうしてこうなるっ。


 フラワーエンジェルじゃなかったのか。

 フラワーとエンジェルはどこ行った。


 一番のフラワー要素と思われたあのタンポポのブローチ──フラワッペンは、薄いプレート状のエンブレムとして左胸に輝いていた。

 私が刻んだ「るりこ」の三文字が鮮やかに浮かび上がっている。


 これは……アレだ。

 タンポポの魔法使いってよりは……



 「たんぽぽぐみ おさないるりこ」



 そう。

 そんな感じ。

 見事なまでに幼児感に拍車をかけている。


 エンジェルはっ。

 エンジェルはどうしたっ?


 よくよく見たら、背中に小さな羽根がついていた。

 帽子には天使の輪のようなラインがある。


 まさか……これだけでエンジェルだと言い張るつもりかお前らはっ。

 ちょっとムリヤリが過ぎやしないかっ。


 やっぱり、子供のこと天使って呼ぶからなのか。

 まるで天使のようって、いかにも子供みたいってそう言いたいだけなのか。

 だからって何も幼稚園児である必要はないじゃないか。この格好に限定する意味なんてないじゃないか。別のコスチュームとかじゃダメだったのか?


 エンジェルって仮にも名乗るからには、もっとこうエンジェルらしい──


 ……あ。


 唐突に気づいた。


 まさか……

 よもやとは思うけど……


 エンジェルってのは──


 「()()()()、ってこと?


 …………

 ……………………



 ダジャレか━━いっっ!!!



「どうしたんですかルリちゃん。まるで地獄の悪鬼のような形相で」

「やかましいわっ!」


 こんな……

 こんなオチがあるか。


 私が何をした。

 何をしたってんだ。

 前世の私が、何か許されざる大罪でもやらかしたとでもいうのだろうか。

 何をしたらこんな罰が下るんだ。


 ひどいよ。

 あんまりですよ魔法の神様っ!



 私の人生を何だと思ってんだっっ!!



 ……だが。

 既に契約は成されてしまった。


 自分で言った。もう後戻りはできない。

 このアイテムを使って変身することは、私以外の誰にもできない。私がタンポポの魔法天使をやるしかない。


 自分で決めたこと。

 自分で選んだ答え。

 一度決まってしまったものを、個人の極めて勝手な都合で叩き返すようなことはできないし許されない。

 人間として。

 まぎれもない、大人として。



 ならば──そう。


 答えは、

 私のやるべきことは、

 やらなければならないことは。


 たった1つしか、ない。


          ☆


 ──かくして。


 魔法少女ミルキールリィ改め、

 花咲く魔法天使フラワーエンジェルが1人、エンジェタンポポとしての、私の新たな戦いの火ぶたは切って落とされた。


 愛すべきパートナー、ネコえもんと共に。


 新たな仲間、2人のフラワーエンジェルと力を合わせて。

 ガチ少女である2人といっしょに。

 同レベルで。

 10近くは年下のはずの彼女たちから、ちゃん付けかつタメ口で呼ばれながら。

 何ならむしろメンバー最年少、くらいにも思われながら。


 この世界のどこかに咲いているという希望の花エタナリスを探し出すため、

 花枯れの悪魔ヒカラヴィルゾを倒すまで、

 人間界と花の王国に平和と笑顔を取り戻すその日まで、

 魔法天使の戦いは続くのだ。



 行け!フラワーエンジェル!

 戦え!エンジェタンポポ!


 頑張れ私!

 負けるな私!

 本当に負けるな私!

 くじけるな私!

 気をしっかり持て私!


 輝く未来は、

 希望にあふれる明日は来るぞ。


 いつか──きっと。



 魔法少女なんて、大っキライだ。

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