耳とシッポが青いネコ
コウジくんは、小学生の男の子。
もうすぐクラスメイトのお誕生日会。
ネコが好きなあの子に、手作りのプレゼントをあげようと考えました。
公式企画『冬の童話2023』参加作品です。
別の小説『桜並木の青い猫』の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
バナー制作:七海 糸様
「あ、ミカ姉ちゃん。こんにちは。ちょっといい?」
小学校からの帰り道で、ぼくは近くの家のお姉さんを見かけて声をかけた。
後でお姉さんのところに行こうと思ってたんだ。
ミカ姉ちゃんは、ぼくが知らないことを教えてくれるんだ。
「あら、コウジくんじゃない。今日はどうしたの?」
「あの……あのね。ぬいぐるみの作り方を教えてほしいんだ。前にミカ姉ちゃんが作った、妖精のネコみたいな」
前に、ミカ姉ちゃんに手作りのぬいぐるみを見せてもらったことがある。
あれはすごかった。
それは白いふしぎなネコだった。耳が長くて、体は白い。
だけど、足のさきと耳のさき、それにシッポの先が青。
白から水色、それから青へとだんだん色がかわっていくのが、とてもきれいだった。
まほうの女の子のアニメとかで、なかまにこういうネコが出てきそうだ。
あのネコはミカ姉ちゃんが自分で考えたデザインだって。
「うーん……。コウジくん。きみがぬいぐるみを作ってどうするの? へやにかざっておくの?」
「あのね。クラスメイトにサユリちゃんって女の子がいるんだ。その子のおたんじょうびのパーティーによばれているの」
サユリちゃんはおとなしい子だ。
でもネコの話になると、とたんにおしゃべりになる。
わらったかおが、とってもかわいいんだ。
「へー……」
あれ? ミカ姉ちゃん、今ちょっと、きげんがわるい?
「それでね。その子はネコが大すきなの。だけどネコアレルギーだから、家でかえないんだって。だからぼくは、ミカ姉ちゃんが作ったみたいなネコのぬいぐるみをプレゼントしたいんだ」
「そっかそっか。……そうなんだ」
ミカ姉ちゃんは少し考えて、こう言った。
「それじゃあ、今からあたしとジャンケンをしよっか。コウジくんがかったら、おしえてあげる。だけど、もしあたしがかったら、ひとつ言うことをきいてね」
「え? うん、わかった。じゃーんけーん」
「「ぽんっ」」
「あ……」
ぼくがパー。ミカ姉ちゃんはチョキ。ぼくのまけだった。
「ざんねんね。ぬいぐるみの作り方は教えてあげないよ。あたしがかったから、ひとつ言うこときいてね」
「う、うん」
「じゃ、家にランドセルをおいたら、あたしの家にきてね。あ、しゅくだいがおわってからでいいよ」
ぼくとミカ姉ちゃんは、いっしょに歩き出した。
ぼくの家の前で買いもの帰りのお母さんがいた。
ミカ姉ちゃんはお母さんにあいさつした後、何か話している。
「それじゃあ、後でコウジくんをおかりしますね。なるべく気をつけるけど、もしかしたらケガしちゃうかも」
「いいのいいの。男の子なんだから、ケガの1つや2つ、だいじょうぶよ。こきつかってね」
何かぶっそうな話をしている気がする。
ミカ姉ちゃんとわかれた後、家に入ってしゅくだいをやった。
それからミカ姉ちゃんの家に行く。
ミカ姉ちゃんは、あたたかそうなふくをきていた。
そしてミカ姉ちゃんのへやにまねかれた。
「あ、これだこれ」
たなの上に、耳が長いネコのぬいぐるみがあった。
かわいいデザインで、毛はつやつやだ。まるでほんものみたいだ。
「それ。さわってもいいけど、こわれやすいから気をつけてもってね」
ぼくはそっとネコのぬいぐるみをもちあげた。思ってたよりかるくて、あたたかい。
あれ? もしかしてこれ、ぬいぐるみじゃない?
「気づいたみたいだね。あたし、ぬいぐるみはとくいじゃないから教えられないの。それはヒツジの毛をつかったワタで、『羊毛フェルト』っていうのよ。これを見て」
ミカ姉ちゃんが出した入れものには、いろいろな色のワタが入っている。
それと、太くて長いハリがあった。
ハリのとがっているほうが、すこしギザギザになっている。
はんたいがわは、くいっとおれている。
「このハリでワタをさしていくと、かたまるんだ。白いワタで大まかに形をつくって、色のついたワタをかぶせて作るんだよ」
ミカ姉ちゃんはピンポン玉くらいの白いワタを丸めて、ハリをざくざくとさした。
同じものをぼくにもかしてくれた。ぼくもマネをして、ワタにハリをさした。
「さすときは気をつけてね。ハリが手に当たるといたいから。この発砲スチロールの台においてさすと、あんぜんだよ」
「いてっ! 早く言ってよ」
ミカ姉ちゃんは黄色のワタのかたまりを少しちぎって、ぼくにわたした。
「じゃあ、これをゆびで引っぱってみて。うすく広げてみようか」
ミカ姉ちゃんは自分のぶんもちぎり、ひっぱってひらたくした。
「えーと、こんなかんじかな」
言われたとおり、広げてみた。
「そうそう。じゃあ、それを半分にちぎって。その2まいをかさねるの。糸のむきが、たてよこにズレるようにかさねてね。で、その黄色のひろげたやつを、さっきの白いボールにかぶせてみよっか。かんぜんにつつむんじゃなくて、ボールを半分だけかくすの」
ミカ姉ちゃんは自分の白いボールに、広げた黄色のワタをかぶせた。
あまったところは、うちがわにたたんで、おりこんでいる。
「こうかな……」
ぼくもマネをしてさっきの丸いかたまりに、黄色のワタをかさねた。
「そうね。それじゃあ、黄色のところにハリをさしていこっか。そうするとくっつくから」
ぼくはかぶせた黄色のワタに、ハリをざくざくとさしてみた。
しばらくすると、はんぶんずつ白と黄色のボールができた。
「できたね。これが『羊毛フェルト』の作り方だよ。どうぶつを作る時も、やり方は同じだよ。子ネコをつくるなら、この本を見るといいよ。かしてあげる。どうぐもかしてあげるから、作ってみてね」
「うんっ。ミカ姉ちゃん、ありがとう!」
「あたしもネコが大すきだけど、アレルギーだからかえないんだよ。がんばってね」
* * * * * *
それからしばらくして、ぼくはおたんじょう日のパーティーにでた。
そして手作りの子ネコのにんぎょうを、クラスメイトの女の子にあげたんだ。
パーティーの後、ぼくはまたミカ姉ちゃんの家にやってきた。
どうぐと本をかえしにきたのだ。
「で、プレゼントをわたしてどうだったの? コウジくん」
「う、うん。いちおう、よろこんでくれたけど……。ぼくが作った子ネコは、ほんものみたいで、ちょっとこわいって」
「あー……。もしかして、かわいいやつじゃなくて、本の後ろのむずかしい子ネコを作ったのかな。あたしがちゃんと言わなかったからだね」
ミカ姉ちゃんはわるくないんだ。
かりた本に、かんたんに作れそうな子ネコの作り方がのっていた。
でも、きれいな子ネコものっていて、そっちを作りたくなったんだ。
ぼくも作ってから『こわい』って思ったけど、作りなおす時間がなかったんだ。
それに、サユリちゃんはマサキくんにもらったぬいぐるみの方をよろこんでいた。
ぼくの子ネコはだきしめるとこわれるし、サユリちゃんは前からマサキくんとなかよしだったな。
「コウジくん。その手、すごくがんばったんだね」
ミカ姉ちゃんは、ぼくの左手のバンソウコウを見ている。
「いや、これはお母さんが大げさにやっただけ」
べつにバンソウコウはいらなかったと思う。
いっぱいさしちゃったけど、ちはすぐとまったし。
パーティーでは、左手のことをきかれなくてよかった。
ケガをじまんしているみたいで、なにかイヤだ。
「そうなんだ。じゃあ、コウジくん。もう少しがんばれるかな?」
「がんばるって、何を?」
ミカ姉ちゃんはノートを見せてくれた。
アニメのマスコットみたいな、きれいな鳥がかかれている。
たぶんミカ姉ちゃんのオリジナルキャラクターだろう。
クジャクみたいだけど、オレンジや赤っぽい色をたくさんつかっている。
ノートのつぎのページには『羊毛フェルト』での色ごとの作り方がかいてあった。
画・ウバ クロネ様
「これを作りたいんだけど、一人じゃたいへんなの。コウジくん、少してつだってくれる?」
ミカ姉ちゃんは、いつもよりしんけんな顔になっている。
「うんっ、いいよっ。いっしょにやりたい!」
プレゼントの子ネコを作るのはたいへんだったけど、それでも楽しかったんだ。
この鳥はミカ姉ちゃんと作るんだし、たぶんもっと楽くなりそう。
浩二くん&実佳姉ちゃんは、この下でリンクしている『青いネコとお姉さん』シリーズで登場しています。
今回は童話なので、なるべく難しい言葉はさけています。
実は『青いネコとお姉さん』シリーズで最初に考えていたのが、この『耳とシッポが青いネコ』のお話です。
昔描いた『じゃんけんをしている少年と女学生』の絵があって、それに合うお話を考えました。
昔の絵ではお姉さんはもっと背が高くて、高校生の設定でした。
考案時は恋愛要素は考えてなかったです。
また、当初は別シリーズ『K&K:胡桃ちゃんと暦ちゃん』での作中作にすることも考えていました。
お姉さんは中学二年生で少年は六年生という設定で、前日譚の『桜並木の青い猫』が先に公開され、このシリーズになりました。