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エピローグ

 深夜。虫の声が聞こえる学校前。


「あー、ほんと俺、口裂けてたのが嘘みたいのイケメン具合だな?」


「自分で言わないでよレイン。それじゃあ、口裂け女が私って綺麗? って聞いてくるのと同じだから」


 レインがすっとぼけた顔をするので、すみちゃんがげらげら笑う。すみちゃん、頭にやっぱり怪我があったけど縫うほどじゃなくて良かった。


「ほんま、あのときのことニュースにもなったのにな。誰も、口裂け女やって認めへんの、ほんま笑うやんな」


「いいのかな。事件として取り上げられて、マスコミも町のあちこちにまだいるのに。死体もあったでしょ?」


「あれやねんけど、ほんまに口裂け女の曽音田そねだ美杏みあんが殺したか分からんて言うやん?」


「そうなの? まあ、あの人仲間を増やしたいって言ってただけだもんね。手段選ばずだけど」


「はいはい、ちゅーもーく! カメラはこっちだよ。三人とも!」


 引田先生は、暗闇に立ち尽くす私達三人にビデオカメラを向ける。いや、先生じゃなかった。怪人キラードSの「エース」。


「先生、やっと先生らしいことをしてくれるようになったと思ったのに、私達までユーチューブデビューさせることないじゃないですか」


「ロエリくん! いや、マドンナロエ子。配信中は先生って呼ばない!」


「私、その名前で出演することだけは認めませんから!」


 私はマドンナロエ子、レインがウエーイ雨男、すみちゃんがスミコンって名前になった。絶対、変えてもらうんだから。


「いいかそっちは」


「先生が、変な名前つけなければいつでも」


「スタンバイいいか? 幽霊担当曽音田そねだ美杏みあん!」


 先生は私達の後方の学校の校門の陰に隠れている曽音田美杏に無線で確認する。


「いちいち、フルネームで呼ばなくていいのよ。それ、偽名だし」


「偽名だったのか。まあ、いい。マドンナロエ子、ウエーイ雨男、スミコンを思いっきりビビらせてくれ!」


「彼ら、私が「赤いスカートの霊」をやること知ってるんでしょ?」


「レインとすみこくんは知らない。君が器物破損罪や住居侵入罪で逮捕される前に一度だけ撮影する。最初で最後の頼みだ」


「ふん。私だって好きで口裂け女をやってるわけじゃないの、分かってくれたでしょ? それなのに、この仕打ち」


「いいじゃないか。君は君自身の魅力で幽霊を演じ、ネット上の怪談好きに崇められる存在になれるんだぞ? ポイントは、本当に危害を加えないことだ。それさえ守れば、口裂け女も商売としてやっていける。そうだろう?」


 さっきから、こそこそやっているのが丸聞こえ。レインもすみちゃんも薄々気づいている。曽音田そねだ美杏みあんが逮捕されるのも時間の問題。本人は釘で穴だらけになった自分の顔に嫌気が差して自首するつもりらしい。今は軟膏を塗って、顔中テープで穴を塞いでいる。口が裂けていることより怖いんだけど。


「じゃあ、配信スタート」


 私達は昼間とは違う顔の学校に赴く。驚かされると分かっているので、校門の横に嫌でも目が行ってしまう。あれ? 幽霊役の曽音田美杏がいない?


「ねえ、私って……」


 今の聞こえた? 振り返っても誰もいない。先生が無言でカメラを回し続けているだけ。あ、いた。曽音田美杏は校庭に入って、立ちすくんでいる。


「きゃああああああああ」


 こっちに走ってきた! なになになに! つられて私達も叫び出す。レインと、すみちゃんは曽音田美杏がまた黒幕だと思ったのか、ポケットやポーチからそれぞれ武器を取り出した。


「食らえべっこう飴BB弾!」


 先生に加工してもらったの? 地味に痛そうな音がパンパン鳴る。


 ヒールで足のもつれた曽音田美杏が転ぶ。


「もう、騙されへんで! 今までのお返しや! あんたに選ばしたる。マリトッツォかべっこう飴がチュッパチャップスか」


「あそこ! あそこよお! 三階の窓から誰かこっち見てるでしょ! 赤いスカートの女の子!」


 え? どこどこ?


 見えない。見えないけど……。


 あ。


 あああああああああああああ!


 あそこは三階のトイレ前の廊下!


 私も背筋がぞくぞくして、逃げ出した。すみちゃんもレインも気づいた! み、みんな見えるんだ! ヤバイって!


「君たちどこに行く!?」


「帰ります!」


「カメラは回ってるんだぞ!」


「先生は止めずに頑張って下さい! 私達はギブアップです!」


 あの曽音田そねだ美杏みあんが逃げるぐらいなんだもん。怖いに決まってるじゃん! 何か見たわけじゃない。見えなかったし、見えたかもしれない。曽音田美杏が見たというから見えただけだと思いたい。私達はビビって帰った。そのことが帰り道で面白おかしく思えてきて笑った。田舎の道は真っ暗。ほんと、気をつけて帰ってね。曽音田美杏だって、逃げ帰るような夜道なんだから。じゃ、また明日。学校でね。



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