第九十七話 妖怪 雨女 其の三
歩いていた石畳の道でなく、野原にある細い道に立つ雨女。
霧が濃い。が、空気が澄んだ。全く違う場所だという事は、分かる。
あきらかに清々しい草の匂い。
「ろくろっ首、お岩?」
返事なく、静かだ。
「なんだい?」
周りを見渡すと霧が濃い。
「はぁ、何なのさ。」
天を見上げる雨女。
すると辺りの霧が晴れていく。
薄暗いが、草原の様だ。
「ふ~ん、で、なんだい?」
「聞いてるんだろ?誰なんだい?」
「はぁ。」
飛ばされた感じは、しないけどね。
目を閉じて、何かを感じる。
「妖の気は、感じないね。」
あの子らを探さないとね。
取り敢えず、道を歩いて行く。
お日様が上がり始めた。
警戒しながら、一本の木の影に入る。
「いい所じゃないか」
地の力が元気だ。
何でだろうね。
何でこうなっちまったんだ。
まぁ、様子みるしかないね。
暫く歩くと、一軒の家があった。
家の前で、芋を箱に入れている老人がいた。
まぁ大丈夫そうだね。
「すまないんだけど?教えてくれないかい?」
「は、はい、何でしょうか?」
お爺さんは、雨女の姿を見て高貴な人と思った様で、頭を下げている。
「ここらは、なんて所だい?」
「サッカーの街の外れの外れです。」
「で、そのサッカーの街ってのは、どっちだい?」
「あちらの方です。この道をずっと行けば宜しいかと。」
話声をきいて、家からお婆さんが、出てくる。
そして、頭を下げる。
「実は、疲れちまってね。少し、休ませてくれないかい?」
「はい、汚いですが、どうぞ、どうぞ。」
「さぁ、中に、お入りください。」
二人は、見た事もない服を着た雨女を何回も、見ている。
何も悪気がない老人なのは、わかる。
いい人達だね。少し、長居させてもらおうかね。
空を見ると、どんどん雲が集まって暗くなる。
「お爺さん、片付け、片付け。」
「えっ、ええ、ああ、。、」
バタバタバタ、大粒の雨が屋根を叩く。
降り出した。
開いたドアの向こうから、椅子に座り慌ただしく動くお爺さんを見る雨女。
「いや~良かった。」
お婆さんは、外を見ながら言う。
「どうしたんだい?」
「ここらは、最近、雨が降りませんでしたから、芋が小さくて。」
「それに、わしらの井戸は、雨が降らんとすぐ枯れてきます。」
「いや、恵の雨です。」
嬉しそうに話すお婆さん。
嬉しい事言ってくれるね。
雨女は、ニコリと微笑む。
はるか昔。
飢饉の折に、雨乞いの為に人柱、人身御供された村一番の美人。
生まれ変わり、村長の子供の時も、雨乞いの為に生贄にされた。
三度目の生まれ変わりは、自分から、人柱、人身御供として志願した。
どうせ、村から売られ出ていく事になっていた。
顔がいいから、花街で生きて行く方が、幸せだと言ってくれた人もいた。
憧れてもいた。
でも、雨をもたらす為に、誰かが死ないといけないと思ったら。
なぜなのか、分からないが志願していた。
すべて、雨乞いの為だった。
腹が減る、喉が渇く、飢饉が憎かった。
皆の祈りを信じ、自分を捧げる事で、雨が降る事を祈った。
不思議な事が起きたのは、三度目の死を迎えた時だった。
小太刀で切った自分の手首から流れ落ちる血を、神々に捧げ、滴る血を見ながら意識が亡くなった。
気が付いたら、涙を流し横たわり死にゆく自分を、横で立って見ていた。
村人も誰も、立っている自分を見てくれない。
死にゆく自分の顔の涙を指で拭い、ふと笑ってしまった。
雨が降ればいい。
天を見上げてそう、願った。
晴れているのに、ポツリ、ポツリと雨が落ちて来た。
空を見上げる村人達。
これじゃ足らない。
強く思った。
雲が集まり暗くなっていく。
どんどん、雨音が強くなっていく。
歓喜の声を出す、村人たち。
皆、死んだ自分を雨の中拝んでいる。
笑顔なのに泣いている。
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