第九話 へぐら島から
あたりは、暗くなってきた。
遠くの夕日が、今にも沈みそうだ、。
暁色とは、美しい。
冷たい風が吹き抜ける。
夜は、冷えそうだ。
「はぁ~びっくり。わ、私、神の使いになっちゃった。」
(百舌鳥カマキリ殿、申し訳ござらん。某、百舌鳥カマキリ殿の、百舌鳥カマキリ殿の、うう~。)
「はぁ~ほんと、びっくり。何かおっきくなったと思ったら、神様がねぇ~」
(百舌鳥カマキリ殿、某の事、守って頂き、うぅ~うう。有りがたき幸せにござる。有りがたき幸せにござる。)
「はぁ~なんか、自分が凄くなった気がしてたのよね~。でも、もしかしたら、私も封印されてたのかしら~。」
(百舌鳥カマキリ殿、今、言います。ずっとお慕いして居り申した。今、はっきりと言わせていただきます。お慕いしております。)
「ゼンマイさん。あんなになるまで、我慢せずに、私に逢いにくればよかったのに。」
(しかしながら、某は、百舌鳥カマキリ殿にひどい事を、)
「わかったから、わかったから。」
ゼンマイの事を抱きしめる百舌鳥カマキリ。
「私のお腹に入りなさい。」
夜が明けた。
一段と冷えた夜だった。
力を得たおかげなのか、元気だ。
相変わらず、百舌鳥カマキリの周りには、雄カマキリ達が、群れていた。
「ゼンマイさん、旅に出ましょう。」
(某も、そう思うておりました。某、人間を一人、乗っ取りました折にこの島から、船が出ている事を知り申した。その人間は、妖怪の事、知っており申した。また、世の中、色々な事があるようでござる。)
「ゼンマイさん、凄いじゃない。ちなみにその人間は?」
(元気でござる。某に乗っ取られた事すら、気が付いてないでござる。まぁ多少は、影響あるやも知れぬが。)
「まぁ、ゼンマイさん凄い。」
少し遡り、、。
バードウォッチングに来ていた、○○氏は、いきなり下腹部に違和感を感じた。
疲れがたまっていたのか?
なんとなく、視界がボンヤリと見え始めた。
ついに、きたか?そう思う。
52歳になり、勤め上げていた銀行から、子会社の○○警備に出向したのは、今年の事だった。
○○警備に出向した事により、休暇も取れ、ようやくここ、へぐら島にバードウォッチングに来れた。
就職してから休暇を取った事は、冠婚葬祭以外、初めてだった。
出向から転籍になる事だろう。と自分に言い聞かせている。私は、帰り咲く事が出来る訳ない。
それでも、今の境遇には、満足している。
東京で、働きながらも仕事帰りの居酒屋で、知り合った、バードウォッチング好きな友人達と、こうして、へぐら島に来れたんだ。
本来なら、嫁と旅行に行こうと思っていた。
が、たまたま、飲んでいる時に話した約束を友人たちが、守ってくれた。
いつか、行きたいなぁなんて言った自分の事を。
良い友人達を持ったと思う。
笑顔で、見送ってくれた嫁。
身体が、言う事を聞かなくなってきた。
座り、遠くの海を見る。
失恋したような、胸の苦しさ。
辛い。
嫁に会いたい。
こんなに嫁に会いたいと思った事は、過去になかった。
これが、死なのか?
幸い、どこも痛くなかった。
嫁に会いたい。好きだ、愛してると伝えたい。
強く思う。
意識がなくなった。
「○○さん、○○さん、大丈夫ですか?」
「おーい、○○さん、おーい○○さん、」
んっ私は?
友人達の声に目を覚ます。
「ああ、気が付いたぞ、大丈夫か?」
「おお、良かった。」
み、みんな。
「疲れが出たんだろぅ。ひとまずは、良かった。」
「帰って、調べた方がいいよ。」
「そ、そうだな、○○さん、医者行った方がいいよ。」
た、たしか、身体が言う事聞かなくなったと、思うが。
起きて、手足を動かしてみる。問題無い様だ。
「無理するなって、」
「そうだよ、とりあえず宿に戻ろう。」
「疲れがでたんだよ、○○さん、。」
身体は、なんか、元気な気がする。
歩こうとすると、
「ほら、肩かすから。」
「カメラ持つから、無理すんなって」
「いや~よかったよ。一時は、どうなるかと。」
なんか、元気なんだけどなぁ。
まぁ断るのも申し訳ないか。
「甘えさせてもらいます。皆さん。」
「いいから、いいから。」
みんな、いい人だ。良い友人を持った。嬉しい。
有難う。
嫁に迷惑をかける事にならなくて良かった。
帰ったら、嫁孝行しなければ。
そうだ、カメラを買おうとしていたお金で、何か、プレゼントしよう。
そして、もう一度、気持ちを伝えよう。
話は戻り、
「凄いじぁない。」
(お褒めの言葉、身に沁み申す。それででござる。オキツヒメ様は、修行をと、仰って居り申した。ならば、他の妖怪に逢いにいくというのは、どうでござろうか?さすれば、ご助言頂けると思い申す。)
「ゼンマイさん。そうしましょう。」
(ならば、港にて船に乗り申す。一日一便に乗れ申す。行きましょう。)
「も、もう。凄いじゃない、何でも知ってるのね。じゃぁ行きましょう。」
「ちょっとそこの百舌鳥さん、港まで、連れてって。」
百舌鳥は、遠慮しながらも百舌鳥カマキリをそっとつかんで、飛び立った。
重たいようだが、頑張っている。
「みんな~~ちょっといってくるね~」
頭を垂れるカマキリ達。
雄カマキリ達は、がっかりしている。
牝カマキリ達は、ほっとしている。
「私、飛んでる~。」
風が、身体を吹き抜けていく。
百舌鳥カマキリは、感動していた。
遠くから見かけたのなら、鳥につかまっている虫であるが。
丁度、船が出ていくようだ。
船の真上に来ると、
「百舌鳥さんありがとう。ここでいいわ~。」
優しく離す百舌鳥。
「いってくるね~。」
羽を広げて百舌鳥カマキリは、船の上に降り立った。
へぐら島から旅立つようです。
応援よろしくお願いいたします。




