第百二十一話 妖怪 元の木阿弥 其の三
あっしは、また、部屋に行きまして、おかどさんに飯を食べさせて頂きやした。
「あ、あの、おかどさん?」
「はい、殿が仰せの様に、おかどと、お呼びください。」
「お、おかど、」
「はい、」
「あっしは、どうすればいいのか、その、」
「殿の命に従う事が、私にとっては、一番大事な事です。」
「へ、へい、そうでございますか?」
「はい、」
「お、おかどは、いやじゃないんですかい?」
「何がですか?」
「あっしみたいな者を、面倒見たり、。」
「いえ、別に。」
「べ、別に?」
「はい。」
あっしは、黙ってしまいやした。
再び、殿の居間。
「おお、昼飯は、どうだった。」
「大変なご馳走で、ございやした。」
「そうか、良かったな。」
「へい、ありがとうございやす。」
「で、どうだ?」
「へ、へい、・・・。」
「まぁ、聞いてくれるか?」
「へい。」
「皆の者、さがれ。」
「で、な、うむ。」
「へい。」
「もっと、ちこう寄れ、。」
すっすっすっと近づきやして。
「いいか、黙って聞いてくれるか?」
「・・・。」
「実は、な、。最近、どうも、身体が痩せて来てな。」
「まぁ、お主も、揉んだからわかるであろうが、」
「こうして、何とか、保っているが、しんどいのだ。」
「儂が思うに、長くはあるまい。」
「・・・。」
「便は、下しているし、夜も、元気がない。」
「でだ、木阿弥。」
「・・・。」
「儂がやる事など、実のところ、大きな事がなければ、一つか、二つ返事すれば、いい様な事ばかり。」
「だがな、儂が、死んだら、。親族衆や、誰かが、息子を殺し、取って代わろうとする可能性もな、。、、。」
「あるやも、知れぬ。」
「まぁ、少し、儂と一緒にいて、考えてくれ。」
「少し疲れた。今日は、下がれ。」
「へ、へい。」
夜。
「布団をひきます。」
「これは、お、おかど、先程は、ご馳走さまでやした。」
「はい。」
布団をひき終わり、
「どうぞ、」
「ありがとうございやす。」
あっしは、横になりやす。
すると、おかどさんが立っていなさる。
「どうされたんで?」
畳に何かが落ちる音がしやす。
「私の様な、年増でありますが、抱いて頂けます様。」
「へっ?」
帯をほどく様な音。
「まった、まってくだせえ。」
服が畳に落ちると共に、おかどの匂いが脳天に刺さりやした。
布団に入るおかど。
「ふるえて居るでやんすね。」
「・・・。」
「あっあんま致しやしょ。」
あっしだって、震えやした。
「・・・。」
揉み始める木阿弥。
柔らかく、しっとりしている肌。
「どういう?」
「・・・。」
「役目終えるまで、身を挺して木阿弥殿に尽くすと決めました。」
「・・・。」
「だからと言っていけやせんよ。」
「いけやせん。」
「もう、後戻りは、出来ぬのです。」
「・・・。」
「さぁ、」
「あっっ(汗。)」
あっという間の時間が過ぎやして。
朝。
「おはようございます、木阿弥殿」
「へ、へい、。」
「その、へいという返事、変えて頂けます様に、はいです。」
「は、はい。」
「木阿弥殿、これからは、毎夜、添い寝を務めさせて頂きます。」
「はい?」
「宜しくお願いします。」
「はい、宜しくお願いします。」
狐に包まれるとは、この事なんじゃないかと思いやした。
美味い飯に、最高の夜。
この際、影武者ってぇのになって、ズバッと切られやしても。
そんな気がしてきやして。
なりやしたよ。
なりやした。
影武者に。
殿さまがお倒れになってからが本腰ですが。
影武者っていうのは、なってみると簡単でして。
ちょいと説明しやすと、
布団に横になって、誰だかわからん者が、スラスラと、読むのを聞いて。
そんで、松蔵様が咳をゴホッとしやしたら、
「松蔵、良きに計らえ。」
と申します。
ゴホッと、しなければ、
「大義であった。」
で、ございます。
その際も、ずっと、おかどが手を握っていてくれます。
もっと、早く影武者になってりゃ良かった、何て思いやすよ。
月日は経つのが早いもので。、。
「木阿弥殿、役目ご苦労でございました。」
「は、はい、おかど?」
「無事、若殿が元服しました。もう、自由です。」
「は、はい。」
「この、用意した、衣類に着替えて下さい。私が、町近くまで送ります。」
「はい、、、。」
ああ、遂に来ちまったか、。
あっしは、着替えておかどと、一緒にお城から歩いて行きやした。
おかどに杖を引っ張ってもらいやして。
「おかど、さん、。どうか、後生です。あっしの事、近くにおいてくれませんか?」
「出来ません。」
「なら、時々でいい、逢ってくれませんかい?」
「それも、出来ないのです。」
「・・・。」
「そ、そうですか、満更でもないと思ってやした。」
「私も、木阿弥殿の事、嫌いでは、無いです。」
「な、なら、」
「ですが、私は、殿の墓前にて、忠義を尽くします。」
「へっ、。」
「殿は、私を大事にして下されました。役目を終えた事、報告したいと思います。」
「報告って、その、お墓にですかい?」
「はい、墓前にて、殉死します。」
「そいつは、いけねえ、おかどさん、」
「木阿弥殿、私達は、色々と、知り過ぎています。」
「それに、殿の生前、お約束したのです。忠義を尽くすと。」
「そいつは、いけねぇ、。」
「木阿弥殿、私を好いているのであれば、私を、私のままでいさせては、頂けませんか?」
あっしは、見えない目から、涙が止まりやせんでした。
泣いて、泣いて、。
「このまま、真っ直ぐ行けば、宜しいでしょう。」
「このお金があれば、暫くは、大丈夫です。」
「さあ、お別れです。木阿弥殿、ありがとうございました。」
「おかどさん、」
「では。、さようなら。」
あっしから、おかどさんの足音が、どんどん、遠ざかっていきやす。
「おかどさん」
「おかどさん、。」
「おかどさん。」
もう、お終めえだと、暫く座り込んでいやした。
ふと、思いやした。
ああ、夢から覚めたんだと。
そう、思ったとたんググ~と腹がなりやす。
カァカァとカラスの野郎が鳴きやして。
夕方になったのでしょう、食いもんのいい匂いがしてきやす。
あっしは、ふらふらと街に行きやした。
取り敢えず店で飯でも食べてたら、
「おい、おめぇあんまか?」
「へい、」
「あとで、少しやっちゃぁくれねえか?」
「へい、」
「飯の値段まけてやるからよ。」
「へい、ありがとうございやす。」
店の大将さんでやんした。
その後も、なんでか、知らねえが、お客が続きまして。
商売繫盛でした。
あっちゅう間に、歳月が過ぎまして。
「あれ、あっし、以前お揉みした事がある様な。」
「うむ、そうだな、やってもらった事があるな。」
「ああ、やっぱりそうだ。これは、松蔵様。お久しぶりでござんす。」
「うむ。あの時は、世話になったの、元気で暮らしおるか?」
「へい、」
「そなた、たしか、名は、、なんと言うたか?」
「へい、あっしの名は、、、。」
「あっしの名は、元の木阿弥でございます。」
話終えると、元の木阿弥は、頭を下げる。
再び、頭を上げる。
「いよっ元の木阿弥。」
「ええぞ、元の木阿弥。」
雨女と小豆洗いが、大きな声で言うと、拍手する。
皆も、拍手する。
立ち上がる元の木阿弥。
少し、嬉しそうだ。
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