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第百二十話 妖怪 元の木阿弥 其の二

「さぁ、お背中をお流しいたします。御脱ぎになって下さい。」

「へ、へい、」

あっしは、服を脱ぎ棄て、ふんどし一つに、なりやした。

ああ、きっと隠しの物を確認されるんだと、思いやした。

「ふんどしや、衣服も、こちらに新しい物が用意してあります。」


「ええっ?」

「殿は、鼻が良く匂いを嫌います。御脱ぎになって下さい。」

「へい、」

ふんどしを脱いで、前を隠して立っていやした。

「さぁ、こちらに大きな水桶があります。さぁ、」

「へい、」

一歩踏み出すと、

「つめてっ、ああ、失礼しやした。」

「我慢です。腰を落としてください。」

「ああ、なれてきやした、へい。」

おかどさんは、布巾で、あっしの体を清めてくれやす。


「思ったより清らかです。」

「へい、毎朝、井戸の水で拭いたりしてやす。」

「そうですか、」

「へい、あんまは、お客さんと近づきやすから、」

「手を挙げて下さい。」

「ええ、そいつは、」

「さぁ、」

「へい、。」

手を挙げると共にあいらの息子も、ひょいと挙がりやして、。

顔が真っ赤になりやす。

「あっしは、ひさかたぶりなんでやんす。」

「お、女の方に触れられるのは、」

黙って水を付けては、拭いて下さる。

「あんまをする事は、ありやしても、触られるのは、その、」

「わかりました。落ち着いてゆっくりなさって下さい。」

「へ、へい。」

こんな天国みたいな事があるでやんすな。

天にも昇る様な気持ちでございやした。


殿の居間。

「おお、待っておったぞ、ちこう寄れ。」

「へい、」

「うむ、では、あんまを頼む。」

「へい、何から何までありがとうございやす。では、やらせて頂きます。」

「うむ。」


「ああ、松蔵から聞いておったが、巧いではないか?」

「ありがとうございやす。」

「うむ。うむ。」


「ああ、大分、楽になったな、」

「へ、へい。」

「のう、木阿弥、」

「へい、」

「夜、寝る前も、一つあんまを所望したい。」

「へい、寝る前にやりやすと楽になりやす。」

「その通りだ、だから、今日は、泊っていけ。」

「へ、へい。ありがとうございやす。」

「では、休むが良い。ああ、あと、おかどにも、あんまをしてやってくれ、なっ。」

「へい。」

「うむ、さがれ。」

「へい、失礼しやす。」


あっしは、おかどさんに連れられて部屋に行きました。

「ここで、お泊りして頂きます。」

「へい。ありがとうございやす。」

「少し早いですが、夕食の準備をします。」

「あ、ありがとうございやす。」

「膝を崩して楽になさって下さい。」

「へい。」


待っていやすと、膳をもっておかどさんが来やして、

「魚は、鯛を、香の物は、なすび、吸い物は、山芋一つに川海老が入っています。」

「殿に、殿と同じ物を用意する様に言われましたので。」

こ、こいつは、凄い。

「な、なんと、」

「さぁ、鯛をほぐしましたから、お口をお開け下さい。」

「へっ、あ~ん。」

う、美味い。

「次は、飯です。」

「あ~ん。」

おっ、お米だ。

「お米でやすか?」

「はい。」

お米なんていつ以来だ。


「あの、こんな贅沢しても宜しいのでしょうか?」

「はい、」


「あの、おかどさんは、食べないのですか?」

「はい、私は、別の部屋に用意してます。」

「あの、お殿様も口を開けてあ~んですかい?」

「木阿弥さんは、面白い方ですね、殿は、自分で食べられます。」

「そ、そうですかい。」

「はい、ふふっ、」

「へへっ、」

「あの、自分であっしも、」

「駄目です、手に匂いがついたりしましたら、いけません。」

「そ、そうですかい?」

「はい、木阿弥さんは、殿のあんまをされる訳ですから。」

「へ、へい。」

「では、お口を。」

「あ~ん。」


夜になりやして、殿の居間。

「どうだ、飯は、口にあったか?」

「はい、あんなご馳走、今まで食べた事ありやせん。」

「うむ、では、頼む。」

「へい。」

「ああ、やはり、お主は巧いな。」

「ありがとうございやす。」

「おかどの事は、もんでやったか?」

「はい、お声掛け致しましたら、今はいいと言われまして、。」

「それは、いかんぞ、木阿弥。しっかりやってあげなさい。」

「へい、必ず。」

「うむ。」


夜が明けやして、殿の居間にて。

「木阿弥、ちこう寄れ。」

「へい、」

「お主、今日、用事はあるか?」

「いえ、ありやせん。」

「明日は?」

「いえ、ありやせん。」

「うむ。では、一つ頼みがあるのだ。」

「へ、へい。」

「皆、席を外せ。」


「は、」

「はは、」


何人か、どっかに行きやして、


「うむ。実はな、お主、儂と声色が似てると思わんか?」

「へ、へい、」

「松蔵がな、気が付いたのだ、。」

「は、はぁ。」

「それでだ、儂の影武者としてだな、居ては、くれんか?」

「・・・。」

「勿論、あんまもしてもらうがな、」

「あの、」

「良い、なんだ?」

「影武者って言いやすと、変わりにバッサリとその?やられると、いいますか、あの?」

「その様な事は、あるまい。まぁ、わからんが、」

「お主は、めくらだからな、戦に連れて行く訳にもいかん。」

「・・・。」

「試しに、おい、松蔵と、大きな声で言ってみろ。」

「・・・。」

「ほれっ、」

「おい、松蔵」


遠くから歩いて来る音がしやす。

「殿、お呼びでしょうか?」

「うむ。」

あっしは、お武家様を呼び捨てにしてしまった事が怖くて。

只々、畳に頭をつけていやした。


「松蔵、実はな、木阿弥に話していたところよ。」

「そうでございますか。」

「今、木阿弥の声を聴いて、小姓が、お主を呼びにいった程だ。」

「それは、それは、」

「木阿弥、表を上げよ。」

「へい。」

「なに、簡単な事よ。おかどと松蔵がそなたを助けるでな。」

「へ、へい。」

「まぁ、考えるがいい。昼飯を食った後、あんまを頼む。」

「へい、」

「どれ、おかどを呼んでみよ。」

「えっ」

「いいか、木阿弥、おい、おかどと大きな声で言うてみい。」

「・・・。」

「ほれっ」


「おい、おかど、」

遠くから歩いて来る音がしやす。

「お呼びでしょうか?」

「面白いな、木阿弥、のう?」

「・・・。」

「よし、これより木阿弥は、おかどの事を呼び捨てにするように。」

「そ、それは、ご勘弁を。」

「はっはっはっ、おかど、昼飯を食わせてやれ。」

「はい。」

読んで頂きありがとうございます。

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