第百十九話 妖怪 元の木阿弥 其の一
「あら、あんたも来てたんだね。」
雨女は、嬉しそうに手を合わせる。
「いつ以来だろうねぇ、久しぶり。」
「ゴホッゴホッ、これは、姉さん久しぶりでござんす。」
膝をつき両手を地面につけ咳き込み続ける変な髪の男。
水の神に背中をさすられながら、ようやく雨女を見る。
「はぁはぁ、いや、真面目な話、まずかった。ゴホッゴホッ。」
「死ぬかもしれないと思いやした。」
「まぁ、死にやせんが。へいっ。」
ルールや、ルーロ達は、静かに剣を構える。
「大丈夫じゃよ。敵意が有る者では、無いし、どうせ切れんよ。」
小豆洗いが、大きな声で皆を安心させる。
水の神も、小豆洗いの顔を見て、不思議そうにする。
「こ、これは、ゴホッ。小豆洗いの旦那。」
「久しぶりじゃの~。木阿弥。」
「へい、あっしの様な新参者が、恐れ多いです。」
「そんな気を使わんでもええでのぅ。」
「いんや、小豆洗いの旦那、格も、座布団の厚みも違いやす。」
「ほっほっほっ。」
満足気な小豆洗い。
「小豆洗いの旦那、お瀧の姉さん、話をしたいのは、山々ですが先に一つ、仕事の方を、。」
「ふふ、良かったね、スライダー、あんた、憑き物持ちになれたよ。」
雨女は、ニヤリと微笑む。
「へっなんですか?」
ビックリした顔のスライダー。
「ちょいと、失礼。」
水の神の前から、手を小さく小刻みに上げ下げしながら、スライダーに近づく。
すると、木阿弥は、透明になりスライダーの身体に入った。
「えええ~」
スライダーは、顔を赤くし大きな声を出した。
皆、驚いて見ている。
スライダーの上に変な髪の男、木阿弥が、フワフワと浮かぶ。
不満そうな顔をしている。
「旦那、こいつは、いけねえ、」
「なんじゃ?どうしたんじゃ?」
「旦那のお連れの方だからって、時別扱いは、いけねぇ。」
「入るには、入れるが、淡い青い光が、結界みたいに広がってらぁ。」
「ほほう、そうかの、惜しかったのう。」
小豆洗いは、笑みを見せる。
「い、いや、こいつは、す、筋が通りませんぜ。」
怒っているのか、変な髪の男、木阿弥は、言葉がどもる。
「お、お互い、り、領分が、あ、あるじゃございませんか?」
「だ、旦那?」
「わしじゃないぞよ。こちらのお方の力じゃよ。」
にっこりと笑顔を見せる水の神。
「ど、どちらさんで、」
「私は、水の神です。」
「へっ、神さん?」
勢いよく、土下座する変な髪の男、木阿弥。
「ははぁ~」
「あの、そちらこそ、どちらさんですか?」
水の神は、少し、きどってみる。
「へい、あっしは、元の木阿弥と申しやす。」
「モトノモクアミですね。初めまして。顔を上げて下さい。」
「ああ、言ってしもうた。」
「んっ、なんです?小豆洗い?」
「その男は、元の木阿弥、妖怪ですじゃ。」
「はい、それが何か?」
「名前でもあるんじゃが、元々は、言葉の意味がありましてな。」
「へへっ、へい、まわりまわって、元の木阿弥でさぁ」
嬉しそうな顔をする元の木阿弥。
「流石に水の神様には、憑けないだろ?」
雨女が言う。
「姉さん、やめて下さい、へへっ、憑くだなんて、滅相もありやせん。」
「あっしは、至って真面目な妖怪でありやすから、へへっ、」
「私に憑くと言うのは、どういう?」
少し、驚いている水の神様。
「木阿弥は、話、逸話から成った妖怪でしての、」
「名前を言うだけで、取り憑く事が出来ますのじゃ。」
「名を言うだけで、ですか?」
「うむ、百人でも、千人でも名を言った者になら憑いて廻れますのじゃ。」
「へっへい。ですが、神様に憑くなんて恐れ多い。」
「本来は、意味を持ってましての、元の木阿弥という。」
「ほれ、木阿弥、説明じゃ。」
「へい、」
「あっしは、目も見えない、言わば、座頭でした。」
「普通は、琵琶や三味線を弾いたりして、食っていくんでやすが、」
「どうも、いけやせん。そちらの姉さんに比べたら、へへっ、」
雨女を、見て恥ずかしそうに笑う木阿弥。
「出来ない事も、無いんですが、へへっ、へい。」
「まぁ良くてあんまをしたり、へい、」
「細々とやっておりましたところ、一人のお侍さんがあっしの声を聴いて驚いた様で、へい。」
変な髪の男、木阿弥の顔が、フッと変わる。
「いよっ、木阿弥。」
ちゃちゃを入れる雨女。
「も~と~の木阿弥」
負けずとちゃちゃを入れる小豆洗い。
「へへっ、へい、そいで、あんまをしていると、そのお侍さんが聞いてきたでやんす。」
皆、吸い込まれる様に聴いて居る。
「す、すまぬが、見ない顔だな、お主、どこで生まれた。」
「へい、あっしは、都の西の山ふもとの村で生まれやした。」
「そうか、それで、いつ、大和にきた?」
「へい、先月の半ばと思いやす。」
「そうか。そうであるか、。」
「へい。」
「もっと、肩の辺りを頼む。」
「へい。」
グッ、グッ、ゴリン
「うむ。そのあたりだ。」
「へい。いや、これは、鎧を着ているようです。」
ゴリン、ゴリン。
「あぁ、ああ、あのな、ちと、聞きたいのだが?」
「へい、何でしょうか?」
「お主、この後は、どうするのか?」
「どうするのかって言いやすと?」
「うむ。ずっとこの地に留まるのか?」
「へい、と、言いましても、根無し草でありますから、へい。」
「では、どこか、当てはあるのか?」
「い、いえ、そういう訳では、ありませんが。」
「そ、そうか。」
「へい。」
「ならば、さるお人のあんまを頼んでもいいか?」
「へい、ようござんすが、」
「では、明日、巳の刻、ここに参る。」
「へい、明け、四つでざんすね。」
「うむ。宜しく頼む。」
「へい、ありがとうございやす。」
「まぁ、きょうも金は、弾むから、良くほぐしてくれ、。」
「へい。やらせて頂きます。」
「ああ、儂の名は、松蔵と申す。」
「へい、松蔵様。」
明日、
「おお、待たせたの、では、行くとするか、」
「へい、」
「まぁ、ゆっくりでいい、転ばんようにな。」
「あの、松蔵様、」
「なんだ、」
「へい、すいやせんが、あっしの杖を引っ張って頂けると早く歩けますが。」
「おお、そうか、では、そうしよう。」
周りの視線が多い気がする。
「よし、あと少しだぞ。」
「へい。」
「いいか、戸がある、頭をぶつけない様に。」
「へい、」
こいつは、えれえ所にきた様だ。
戸の下の横木を跨いだ時の大きさに驚く。
「まず、ここに控えてくれるか。」
「へい。あの、松蔵様、ここは、お城ですかい?」
「うむ、そうだ、。が、肩の力を抜いてくれ、なっ」
と、言いやすと松蔵様は、どちらかに行ってしまわれた。
ギシッギシッギシッ。
上座に誰かが来たようである。
ひれ伏す。
「表を上げよ。」
「は~。」
「そち、名は、」
「へい、木阿弥と申しやす。」
「その杖は、仕込みか?」
「へい、護身用にその、」
「仕込みか、と聞かれて、へいと答えるとは、正直な者よ。」
「・・・。」
「いじめている訳では、ない。」
「へ、へい。」
「では、あんまを頼む。」
「へい。」
「殿、その前に、」
周りに多数いるようだ。
「うむ、おかど、世話をせい。」
「はい、では、こちらに、」
「身を清めてまいれ、」
「へい、」
あっしは、おかどっていう方に連れられて行きやした。
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