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エストワール殿下たちが会場からつまみ出された。それぞれの両親も慌てて退出して行く。
「ロイ様…」
レティが駆け寄ってきた。
「すみませんレティ。貴女への侮辱を止めることができなかった…。それに貴女の名誉を回復することも…。婚約者として本当に恥ずかしい…」
俺は悔しさで拳を握りしめる。
結局、言いたい事はほとんどアレクシス殿下に言われてしまった。こんな婚約者も守れないような男など願い下げではないだろうか。本当に情けない…。
そして、なぜ鎮まらなかった俺の忠誠心…。
「そんなことありません!!」
「えっ?」
レティは握りしめていた俺の拳をその手でそっと包む。
「忠誠心。大いに結構です!ロイ様の王族への思い、臣下として大変立派でした!」
えっ?そこ??レティは目を輝かせて言う。
「それに……ロイ様は共に歩む関係を築きたいと仰ってくれていたではないですか。私もただ守られているだけは嫌なのです」
「レティ…」
俺の言ったこと、覚えてくれていたなんて…
「いや実際、自分の名誉のためにこの拳をお見舞いしてやる所でした!」
そう言って、レティはファイティングポーズをとる。そうだった…。辺境伯家、みんな割と脳筋…
「ワッハッハ!それでこそ我が娘!!」
「お父様!」
「ミレン辺境伯!」
「ロイド殿、臣下としての心構え大変立派でした。我が娘がこのように忠義に厚い方ヘ嫁ぐことができるなぞ、幸福の極み。不束な娘ですが、末永くよろしくお願いします」
そう言ってミレン辺境伯は深く腰を折る。
「そんな!私など……」
俺は「何もできていない」と言いかけたが、思い留まる。
「スカーレット嬢は志高く誇り高きミレン辺境伯の姫です。私も彼女に恥じないように精進します。こちらこそよろしくお願いします!」
そう言ってミレン辺境伯に深々と頭を下げた。
反省など後でいくらでもできる。今必要なのは、娘を送り出そうとしてくれているこの方に俺の心意気を見せる事だ!
「良い息子を持ったなルーカス」
「それはお互い様だろうエドワード」
いつの間にか父達が近くに来ていた。
「というより、ヴィクトリアの教育が良かったのだろう」
「奥方の手腕か…違いない!」
ミレン辺境伯はガハハと豪快に笑い、父の肩をバシバシ叩く。
嫌がる素振りを見せているが、父の顔は心の底から楽しそうだ。
暫く歓談していると、アレクシス殿下の明瞭な声が響く。
「皆の者!場を乱してしまいすまない。騒動の原因には無事、ご退出いただいた!今日、この佳き日のパーティーを再開させようではないか!!」
殿下の合図で楽団が音楽を奏で始めた。ダンスフロア中央にて、アレクシス殿下とクロエがファーストダンスを踊る。
二人がステップを踏みながら場の雰囲気を塗り替えていく。
こういう所が二人の凄い所だと改めて感心させられた。
踊り終える頃には万雷の拍手が鳴り響いた。
その後、続々とフロアに人々が躍り出る。
「レティ、私と踊っていただけますか?」
「はい、喜んで。ロイ様」
レティの手を取り、ダンスの輪に混じる。
「俺達の関係は以前より進展したかな?」
「もちろんです、ロイ様!これからも末永くお願いします…」
「当たり前だろう!レティ、こちらこそよろしく」
笑顔で踊る様は、最近までぎこちなかった事など微塵も感じさせなかった。
思ったより長くなってしまいましたが、これで完結です。ありがとうございました。
別視点も投稿予定です。