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春来る君と春待ちのお決まりを  作者: 鳥路
皐月の章:若く芽吹いた心に、変化のきっかけを
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5月18日⑤:一緒にいるよ。どこまでも

先程まで羽依里と休憩していた公園のベンチで、俺は一人で呆然としていた

予想は出来ていた

けど、そこまでなんて思っていなかった


「産みたくて、産んだんじゃない・・・か」


自分では、仲の良い親子だと思っていた

たまに変なことをいうけれど、母さんのことが好きではあった

けど、本人はどう思っていたのか・・・その一言に、全部込められていた


「悠真」

「・・・羽依里」

「よかった。ここにいたんだね」

「・・・追いかけてきたのか」

「うん。あ、少し待って。小走りで追いかけてきたから・・・息、整えさせて」

「あ、ああ・・・」


何度か深呼吸を繰り返す羽依里は、俺の隣に腰掛ける

しばらくして息を整えた後、もう大丈夫だと言うように俺の手に自分の手を重ねてきた


「大丈夫?」

「それは、俺の台詞だよ。ここまで、小走りって」

「悠真が一人で行くからでしょ。心配だったんだから・・・」

「ごめん」

「いいよ。どこかに行きたくなる気持ちも、わかるから」


そっか。羽依里は聞いていたから・・・

その事実を思い出すと、ふと胸が締め付けられる


「大変だったね」

「ん・・・」

「藤乃ちゃんから、ある程度のはじまりは聞いてきた。それから悠真たちと聞いた話も含めて・・・全部、知っちゃったのかな」

「・・・俺が産まれた経緯に関わる話は、それで全部だと思う」


流石に母さんたちの内心まではわからないけれど、大まかな経緯だけなら、あの情報だけで十分だと思う


「私ね・・・あの言葉は事実だとしても、おばさんは悠真のこと、嫌っているわけではないと思うな」

「わかってる。嫌いなら、俺を誰かに預けてしまえばよかったんだ。けど、そうしなかったのは・・・ジジイの命令じゃないのか」


「・・・跡継ぎを欲しがっていたのは悠真のおじいさんなんだよね?」

「ああ」

「だったら、産まれた時点で悠真はおじいさんのところに引き取られてもおかしくなかったんじゃない?」

「なっ・・・」

「想像するだけでも嫌そうだね・・・でも、ありえない話じゃないと思うんだ」

「・・・そうだな。あのジジイなら、直々に教育とか言い出す」

「けど、そんなことになっていないってことは、おばさんたちは抵抗したんじゃないかな。おばさんたちは、悠真を自分たちの元に留めて、今日まで育てた」

「うん」

「だからね、経緯はともかくとして・・・おばさんたちは悠真のことが嫌いってわけじゃないと思うの。ちゃんと家族だと思ってくれていると思うの」


必死に、前向きにしようと優しい言葉をかけてくれる

わかっている。羽依里

経緯はどうにせよ、結果とその先の時間は俺が一番知っている

母さんと父さんが、大事に育ててくれたことを、俺が一番理解できている


「ありがとう、羽依里」

「平気?」

「平気じゃないけど、前向きにはなれた」


けれど、母さんたちの話を聞く勇気はまだ持てない

聞いてしまえば、俺も自分が見なければいけない現実に目を向けることになる


「・・・今日は、帰れそう?」

「家に帰るのは気が引ける。羽依里は?」

「私は戻る気はないよ」

「どうして」

「千重里おばさん、今手持ちの薬を全部渡してくれていたの。それにこのメール」


羽依里はスマホの画面を俺に見せてくれる

千重里おばさんからのメールらしい。いつの間にかアドレスを交換していたようだ


『薬をもたせておかないと、悠真は羽依里ちゃんをうちに帰そうとするから、全部持たせておきます』

『ゆっくりさせてあげられなくてごめんね。家庭問題に巻き込んでごめんね』

『・・・こんな事に巻き込んでおいて、お願いするのは申し訳ないけれど、二つお願いがあります』

『一つは、悠真の側にいてあげて欲しい。あんなことを言われてショックを受けない子供はいないから・・・』

『今、悠真の側にいられる人は、羽依里ちゃんぐらいだと思う。全部任せて申し訳ないけれど、お願い』


『もう一つは・・・智春はああ言ってしまったけれど、悠真のことを大事に思っていることを伝えて欲しい』

『あの子は、私達がああしてしまった。その責任は私たち姉妹と真弘にある。こっちは任せて』

『千夜莉が小倉家にいられるよう連絡をしてくれた。待っていると思うから二人でしばらくそこで待っていて』

『全部終わったら、真弘を迎えに行かせる。真弘が行けば、もう一つの家庭問題に遭遇させることになるけれど、この際・・・悠真に全部知ってもらったほうがいいだろうから』


それでメールは終わっている

気になることは多いし、千重里おばさんはあの一瞬でここまで計画してくれた事に対して驚きも隠せない

けれど、今日の寝床には困らないらしい


「メールを貰わなくたって、私は悠真のところに来ていたからね?」

「ああ、わかっている」


「それから、小倉家には私もついていくからね」

「そこまで付き合わせるのも・・・どうなんだろうか」

「いいの。小倉の家には迷惑を掛けるかもしれないけれど、私は一緒にいるよ。どこまでも」

「なんで」

「悠真が好きだからだよ。悠真だって、ずっとそうしてくれたでしょう?」


離さないように俺の手をしっかりと両手で包み込み、羽依里は安心させるように微笑んでくれる


「私が辛い時、悠真がそばにいてくれたように、私だって同じようにしたい。どんな時でも寄り添える存在でありたい」

「苦労、させるぞ?」

「それでもいいんだよ。辛いことも、知りたくなかったことも、一緒に受け止めよう」


「羽依里には、関係なくても?」

「関係なくないよ。私は、これからも、どんな事があっても・・・悠真の側にいたい。ううん、いるから」

「・・・ありがとう」

「もう少し、ゆっくりしてから小倉のお家に行こうか」

「うん」


羽依里は静かに距離を近づけて、手を俺の背中に回す

大丈夫、大丈夫というように、何度もそこを撫でてくれた


「・・・悠真、泣いてる?」

「泣いてないけど・・・?」

「嘘つき。声を出すのを我慢しながらボロボロ泣くの、昔から全然変わってないんだね」


ハンカチで、俺の目元を拭いてくれる

本当に泣いていたらしい。全然自覚できていなかった


「もう大丈夫だよ」

「・・・」


いつもより近いから?

それとも、涙で周囲の視界がぼやけていたから?

羽依里がいつもより、綺麗に見えた


いや、いつも可愛いぞ

可愛いけど・・・なんなんだ、これ

綺麗というか、なんだか大人びて見えた

・・・いや、もう彼女は俺が気が付かないだけで変わっていたんだ

俺の見る彼女と、実際の彼女はもうすでに違っていたんだ


「どうしたの?」

「・・・」

「?」


「・・・見え方もあるけど、一番は」

「え、悠真?どうしたの?私の顔に何かついてる?」

「・・・いつもの羽依里だよな?」

「い、いつもだよ。いつものいつもの・・・」

「むむむ・・・」

「・・・ち、ちひゃい」


そこにいるのはいつもの羽依里。俺の好きな人

・・・ああ、そうか

違ったのか。何もかも


「なんだ?」

「物音?」


後ろで、何かが転げ落ちたような音がする

何があったか二人で確認してみると、そこにはまさかの人物が立っていた


「・・・外でキス、最近の子は進んで」

「お、お母さん!?なんで!?」

「円佳おばさん!?いつ日本に、え、夏じゃ」

「そ、そんなことはどうでもいいでしょう?!どういうことか説明しなさい!」


何かが倒れた音は、円佳おばさんのキャリーが倒れた音らしい

大きな誤解をしている円佳おばさんは俺達に冷静を装いながら詰め寄ってくる

まだ、小倉の家には行けないようだ

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